第51話

翌朝目が覚めた時、今までにないほどの清々しい気分を感じていた。



つんと鼻につく土の匂い。



美味しそうなお菓子の匂い。



なにより、すぐ近くに感じる女王様の匂い。



幸せな気持ちが溢れだしてきてこのまま永遠にここにいたいという気分にさせられる。



しかし、そんな悠長なことを言っている場合じゃなかった。



2人で甘いお菓子の朝食を食べ、簡単に支度を済ませるとすぐに外へ出た。



洞窟の入り口にはクラスメートたちがズラリと並んでいて、あたしは瞬きを繰り返した。



「あたしが呼んだのよ」



大西さんはそう言い、面々を見回す。



遊星も柊真もヒナも、誇らしげな表情で立っている。



その中には見たことのないメンバーも何人か混ざっていた。



きっと、みんなが仲間に引き込んだ子たちなんだろう。



「アイリたちも同じくらいの人数を仲間にしてる。負ける可能性もあるわ」



大西さんはみんなに聞こえる声で言う。



あたしはゴクリと唾を飲み込んで次の言葉を待った。



「それでも戦わないといけない。あたしのために……死ねる?」



その質問は過激だった。



女王様のために死ねるかどうか。



普通ならよほどのことが起きない限り命を捧げることはない。



でも、あたしたちにとってこれは戦争なのだ。



とても小さな、ひとつの学校内での戦争。



命をかけることが当然のこと……。



「もちろんだよ」



あたしは大西さんへ向けて笑顔で答えた。



それに習うようにみんなが拳を突き上げて「当たり前だ!」と、叫ぶ。



「やりましょう。アイリはもう、覚悟ができているから」



大西さんの言葉を合図にしたように、体内の蟻たちが蠢き始めるのを感じた。



体の中からカッと熱がこもり、それを排出するように大きく口を開けて息を吐きだした。



次の瞬間……。



ガキッと上あごの骨が音を鳴らした。



激しい熱と痛みを感じてその場にうずくまる。



これはなに……?



考える暇もなく、犬歯が急速に伸びていく。



ついでお尻の骨からなにかが付きだして行くのを感じた。



「これが戦闘態勢の姿よ」



大西さんへ視線を向けると、彼女の犬歯は牙のように長く伸び、おしりは大きくつきだして服の上から針が突き破ってでてきていた。



さながらその姿は……本物の、蟻。



大西さんだけじゃない。



あたしも、柊真も、ヒナも、遊星も。



全員が同じ姿に変化していく。



この牙と針で相手を攻撃するのだと、本能的に理解した。



変化を終えると全身からゆっくりと熱が下がって行くのを感じる。



「やっと準備が終った?」



その声に振り向くと数十人を従えたアイリが立っていた。



アイリもその仲間たちも、すでに変化した姿になっている。



大西さんとアイリがにらみ合う。



そして仲間たちも互いににらみ合った。



お互いの女王様が出てくるのは最後になったときだ。



それまではあたしたちが戦う……!



あたしは地を蹴って相手の男子生徒の体に突進した。



男子生徒は倒れ込みながらも牙をむく、あたしはその牙を交わして顔面めがけて噛みついた。



自分の牙が男子生徒の眼球に突き刺さるのがわかった。



体の下でジタバタと暴れる男子生徒。



あたしは更に顎に力を入れる。



男性との頭蓋骨がバリバリと音を立てながら砕けて行き、やがて動かなくなった。



その後すぐに体勢を立て直して次の敵へ向かっていく。



時にお尻の針で相手の腹部を突き刺し、そのまま内臓をえぐりだした。

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