第49話
☆☆☆
目が覚めた時、あたしは病院のベッドの上にいた。
周囲を見回してみると、個室にいれられていることがわかった。
病室内に両親の姿はない。
きっと一旦家に戻ったのだろう。
あたしはそっと上半身を起こしてドアへと近づいた。
消灯時間はとっくに過ぎているようで院内は薄暗く、とても静かだ。
しかし、意識がないまま運ばれたためどっちへ行けばエレベーターがあるのか、どこが出口なのかわからなかった。
しばらく逡巡した後、あたしは自分の病室へと戻った。
このまま動いて捕まってしまうより、ちゃんと計画を立てて脱出した方がいい。
幸いにもベッド横の棚を開けるとあたしのスマホが入れられていた。
部屋着のポケットに入れて持ち出していたことが幸いした。
あたしはまずヒナに連絡を入れた。
《心美:ヒナ助けて! 無理矢理入院させられた!》
《ヒナ:どういうこと?》
あたしは自分の身に起きたことを簡潔に伝えた。
《ヒナ:わかった。ちょっと大西さんに連絡してみる!》
自分の為に女王様の手を煩わせることはできないと思ったが、致し方ない。
大西さんならきっと良い案を持っているだろう。
《大西さん:心美さん、大丈夫?》
大西さんからのメッセージに心臓がドクンッと大きく跳ねた。
心なしか、自分の体内にいる蟻たちも喜んでいるように感じられた。
《心美:今病室にいるよ。このままじゃ学校へ戻れない!》
あたしは悲痛な胸の叫びをつづった。
今すぐに学校へ戻りたい。
女王様の元へ行きたい。
《大西さん:わかったわ。どうにか病院から抜け出すことができれば、あたしがそこまで迎えに行ってあげる》
大西さんがあたしを迎えに来てくれる……?
それはあたしにとって夢のようなことだった。
女王様直々にあたしに会いに来るなんてこと、今度あるかどうかもわからない。
その喜びが全身に駆け巡った次の瞬間、あたしは決意を固めていた。
《心美:わかった。やってみる》
あたしはそう返信をして、そっと病衣室を出たのだった。
☆☆☆
ドアを外に誰もいないことを確認したあたしは近くの女子トイレへと身を隠した。
トイレのドアの内側には非常階段の地図が貼られていて、それに目をやる。
どうやらここは3階になるようで、エレベーターがナースステーションの目の前にあるとわかる。
でも、ナースステーションにはきっと看護師さんがいるのだろう。
エレベーターを使うのはリスクが高くなる。
となると、後は階段しかなかった。
非常階段へ続くドアが開いているかどうかわからないから、普段から使われている階段を使うしかない。
こちらはナースステーションを通り過ぎた廊下の突き当りにあるみたいだ。
その地図を見てあたしはうめき声を上げた。
どちらにしてもナースステーションの前は通らないといけないのだ。
あたしにできるだろうか?
ナースステーションに出入りがあれば、その時点でバレてしまうかもしれない。
そうなるとあたしは病室に逆戻りだ。
せっかく女王様が近くまで来てくれているのに……。
歯ぎしりをしたくなる状況だったが、とにかくやらなければ始まらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます