第47話

同じ奴隷は先にキスをした方の味方になる。



これは正しかったようだ。



「今日からあなたの女王様は変わった」



「うん。A組の大西さんだね」



男子生徒は口角を上げ、嬉しそうにほほ笑んでいる。



「このお菓子はあたしから大西さんに渡しておいてあげる。あなたは今まで通りB組のアイリに仕えているフリをして。機会を伺ってクラスメートにキスをして、大西さんの仲間を増やすの」



「わかった」



眼鏡男子は従順に頷く。



そんな彼を見て、あたしは満足して頷いたのだった。


☆☆☆


あたしができるだけひと目につかず、こっそりと仲間を増やす算段を考えている中でもクラスメートたちの中には過激に行動にでる男子たちもいた。



放課後隣のクラスの女子生徒を数人呼びだすと、片っ端からキスをしていくのだ。

強引に、なんのためらいもなくその唇をうばう。



無理矢理キスされた女子生徒たちは最初はどうにかあらがうものの、すぐに大人しくなってしまう。



そんな事をしているのだから、アイリに気が付かれるのも早かった。



「どういうつもり?」



仁王立ちし、クリクリとした大きな目を吊り上げて怒るアイリがA組に来たのは翌日のことだった。



「なにが?」



大西さんは涼しい表情で聞き返す。



「B組の女子たちがおかしくなった」



アイリは大西さんを睨みつけて言った。



「そうなの? 元々おかしかったんじゃないの?」



大西さんが小ばかにしたようにそう言うと、クラス内からどっと笑い声が漏れた。



あたしも一緒になって声を上げて笑う。



アイリは唇を噛みしめて大西さんを睨み続ける。



「そっちがその気なら、こっちだって仲間を増やす。宣戦布告として受け取る」



アイリは早口にそう言うとB組へ戻って行ってしまった。



「大丈夫なの?」



さすがに不安になり、あたしは大西さんへ向けてそう聞いた。



後から転校してきたと言っても、アイリだって女王蟻なのだ。



本気で戦うとなると互角の勝負になるだろう。



「安心して? 今までよりももっともっと仲間を増やせばいいだけ。もうクラスなんて関係ない。とにかくあたしの仲間を増やすの!」



大西さんの言葉に全員が頷いた。



そうだ。



向こうよりも仲間が多ければ勝敗は上がる。



ただそれだけのことなんだ。



「行こう!」



柊真がみんなへ向けて呼びかけ、全員で一斉に教室を出た。



それからはなにがなんやら、自分たちでもよくわからなかった。



とにかくキスできそうな生徒には片っ端からして行った。



男とか女とか、すでに関係なくなっていた。



さすがに先生たちが気が付け止めに入ったけれど、そうなると今度は先生にキスをして黙らせた。



そうしている間に、ふと冷静になる自分がいた。



前に少し考えていたことを思い出す。



女王蟻がどうしてこの学校へ来たのか。



それは、この学校にはまだ女王蟻がおらず、自分の仲間を増やしやすいからではないかと考えたのだ。



では、どうして女王蟻が来た学校は問題にならなかったのか?



それは……教師も生徒も、果てはその親族までが女王蟻に感染してしまい、異常事態が日常になっていたからではないかと考えた。



その現実が、今目の前にあった。



生徒も先生もいっしょくただ。



このままいけば親族や近所の人まで巻き込むことは必須だった。



でも……。



そう考えた時のあたしは笑っていた。



自分でも気が付かない内に、嬉しさで全身が震えていたのだ。



「この世界は大西さんのものになる」



歓喜のあまりそう叫び、あたしはまた目の前にいた生徒に無理矢理キスをしたのだった……。

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