第42話

「心美……どうしてここにいるの?」



「それはこっちのセリフだよ! どうしてひとりで学校へ来たの?」



あたしは大股でヒナに近づき、腕を握りしめた。



しかしあたしの手をヒナは振り払ったのだ。



「ヒナ……?」



ヒナは青ざめ、小刻みに震えている。



震えながらあたしのことを睨み付けている。



「あたしはもう嫌……」



「ヒナ。怖いのはわかるよ。あたしだってどうすればいいかわからないし、不安だし……」



「心美にはわからない!」



ヒナがあたしの言葉を遮って叫んだ。



途中で言葉を失ったあたしは茫然とヒナを見つめる。



「柊真がいてくれる心美には、あたしの気持ちなんて……!」



そう言うと、ヒナは目の前にいる遊星を見つめた。



遊星は偽物のような笑顔を浮かべてヒナの手を握りしめる。



咄嗟に二人の間に身を滑り込ませたが、遊星につきとばされてしまった。



あまりに強い力に驚き、そのまま倒れ込んでしまう。



「ダメ!!」



あたしの叫び声も空しく、ヒナは遊星のキスを受け入れたのだった……。



どれだけ時間が経っただろう?



それはほんの数十秒だったはずなのに、永遠のように長く感じられた。



ヒナは遊星に抱きつくようにしてキスを受け入れている。



青かった頬は自然な肌色へ変わり、恐怖して震えていた体はすっかり震えを止めている。



ヒナの代わりに青ざめたのはあたしだった。



体が震えはじめたのはあたしだった。



「ヒナ……」



声をかけても、もうヒナは返事をしない。



幸せ一杯の笑みを浮かべて、遊星を見つめるばかりだ。



そんな……どうして……。



気が付けば大粒の涙が零れ出していた。



しかしヒナはあたしに声をかけることなく、遊星と二人仲良く手を繋いで校舎へと戻って行く。



「心美!?」



柊真の声が聞こえて来る。



途中でヒナたちと鉢合わせして声をかけているが、ヒナも遊星も柊真のことが見えていないかのように歩き去ってしまった。



「嘘だろ……ヒナまでが……」



柊真はその場にうずくまり、頭を抱え込んだ。



「どうしよう柊真……残っているのはあたしたち2人だけだよ……」

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