第40話

このままだと自分たちも近いうちに感染してしまうかもしれない。



そんな不安を抱えながら家に戻ると、すぐにヒナからメッセージが届いた



《ヒナ:あたしたち、これからどうなっちゃうんだろう?》



それはあたしもずっと感じていることだった。



もうA組で感染していない生徒はあたしたち3人だけなのだ。



このままずっと感染せずに生きていられるとは考えにくい。



だけど、大西さんたちの仲間になるなんて絶対に嫌だった。



《心美:わからない。でも、しばらく学校を休んだ方がいいかもしれない》



それは苦肉の策だった。



学校を休めばクラスメートや感染者と会うことがないのだから、ひとまずは安心だった。



でも、それがいつまで続けられるかはわからなかった。



学校を休み続けることはできないのだから。



《ヒナ:そうだよね……ねぇ、もしも向こう側の人間になれたら、楽だと思わない?》



ヒナからのそんなメッセージにあたしは目を見開いた。



ヒナは一体何を言っているんだろう?



あたしは自分の呼吸が荒くなっていくのを感じた。



なんだかすごく嫌な予感がする。



今日学校内で震えていたヒナを思い出す。



ヒナはもう限界なのかもしれない。



《心美:楽になんてなれるわけない。奏や大山君を見たでしょう?》



あの2人は体内に大量の蟻を飼っていた。



それなのに、それが誇らしいことのように喜んでいたのだ。



その結果、大山君はまだ退院できていない。



《ヒナ:そうだよね……遊星の体の中にも、沢山の蟻がいるんだよね》



そう言われると、返事ができなかった。



今学校に来られている生徒たちは、きっとまだマシな方なのだろう。



繁殖機として弱かったのか、大山君のように口や目から蟻が出入りするところは見ていない。



けれど、きっと蟻はいるはずだ。



少しずつ少しずつ、彼らの体内で増え続けていることだろう。



《心美:きっと大丈夫だから》



あたしはヒナに、そんな言葉しかかけることができなかったのだった。


☆☆☆


翌日、あたしは朝早くに柊真に学校を休むと言う連絡を入れた。



それを見た柊真も、同じように休むことを決めたようだ。



それでもあたしは制服に着替えて、出かける準備をした。



一応、両親を安心させるためだった。



ひとりで家を出て、行く当てもなくブラブラと街を歩く。



あまり目立つ場所に行けば通報されてしまうかもしれないから、ひと気のない小さな公園に入った。



今は公園内にも誰もいなくて、野鳥が数匹ゴミ箱の辺りをうろついているだけだった。



茶色く錆びたベンチに座り、制服の上着を脱いで空っぽの鞄に入れた。



白いブラウスだけになるとパッと見学生だとわからないだろう。



青い空を見上げてなにもせずに時間だけを消費して行く。



色々と考えたいことはあるけれど、今だけはすべてを忘れていたかった。



そのくらい、あたしは疲れていたのかもしれない。



のんびりと流れる雲を見ているといつの間にか眠気が訪れて、少しウトウトしていたみたいだ。



人の声が聞こえてきてことでハッと息を飲んで目を開けると、公園内に同じ制服をきた生徒が数人入って来たところだった。



まだ授業中のはずなのに、どうしたんだろう。



そう思いながら視界の端で生徒たちを確認する。



全部で6人ほどいるようで、その内2人は奏の友人のギャルだったのだ。



見知った顔だったことに驚き、思わず顔ごとそちらへ向けた。



4人の男女は2人を取り囲み「裏切り者」呼ばわりしているのが聞こえて来た。



こんな小さな公園だ。



向こうだってあたしがここに座っていることに気が付いているはずなのに、全くのおかまいなしだった。



「あたしたちは最初から大西さんについてたし」



「だよね。あんたたちの女王が後から来たんでしょ」



ギャルたちは負けじと反論している。



あたしは『女王』という言葉に過激に反応してしまい、半分腰を上げていた。



「B組の女王様はアイリさんよ。あんたたちもこっちに付きなさいよ」



「そうだぞ。A組の女王の仲間だなんて知られたら、アイリさんがどれだけ怒るかわかってんのか」

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