第39話

「もしかして、大西さんと同じ子なのかも……」



あたしは極力考えないようにしようとしてきた言葉を口に出した。



その言葉を口にするだけで、苦々しい気分になる。



「同じって……女王様ってこと?」



そう聞いて来たのはヒナだった。



幾分か落ち着いてきたようで、顔色は戻ってきている。



「そう。この学校には女王蟻が一匹いる。だからもうそんな子は来ないだろうと思っていたけれど……関係ないのかもしれない」



あたしはジッとリノリウムの廊下を睨み付けて言った。



「縄張り争い」



柊真が低い声で呟いたのであたしはハッとして顔を上げた。



柊真の表情は真剣そのものだ。



「B組の転校生はわざとこの高校に転校してきたってこと?」



「そうかもしれないな」



柊真はあたしの言葉に頷いた。



「でも、どうして? 今までこの学校には女王蟻なんていなかったのに……」



「だからかもしれない。なにもいなかったから、女王として君臨しやすいと考えたんだ」



柊真の言葉が当たっていたとすれば、他の高校ではすでにこのような現象があったことになる。



あたしはゴクリと生唾を飲み込んだ。



もしも本当にこんなことが繰り返されていたとしたら、問題になっているはずだ。



「他の学校ではすでに女王がいるってこと?」



ヒナが落ち着いた声でそう言った。



「その可能性はあるよな」



「それなら、どうして問題になってないの? 奏や大山君みたいな事例があれば、絶対に問題になってるよね?」



あたしは早口に質問する。



すると柊真は一旦口を開き、そのままなにも言わずに閉じてしまった。



なにかとても言いにくい考えがあるみたいだ。



「柊真が考えていることを教えて?」



そう言うと、柊真は重たい口を開いた。



「問題にならない理由はひとつしかない」



柊真はそこで一旦口を閉じた。



そして、あたしとヒナをジッと見つめる。



「学校にいる全員が感染して。その家族や近辺にもすでに感染が進んでいるからだ。全員が感染していれば、それが当たり前になって、いちいち問題視することはなくなる」



柊真の説明にあたしのヒナも絶句してしまった。



すでに全員が感染している……?



蟻たちは感染者のいない学校を捜し歩き、そしてここへたどり着いた……?



「その考えが正しければ女王蟻はまだ沢山いるってこと?」



ヒナが聞く。



柊真は「おそらく、そうだと思う」と、重々しく答えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る