第36話

結局、大山君はしばらく入院することになった。



駆けつけた大山君の両親に説明をするのは骨が折れたけれど、最近ずっと大山君の様子がおかしかったと言うこともあり、どうにか信じてもらうことができた。



残されたあたしたちにできることは、大山君の回復を待つだけだった。



「そう言えば、昨日転校生が来たって言ってたね」



A組へ向けて廊下を歩きながら、あたしは隣の柊真へ声をかけた。



「あぁ。隣のB組だ。女子だったらしい」



その言葉にあたしとヒナは目を見交わせた。



また女子生徒か……。



一瞬嫌な予感が胸に過ったが、すぐにそれを書き消して笑顔を浮かべた。



「どんな子か、見に行ってみない?」



最近暗いニュースばかりだったから、少しは気分転換になることが必要だった。



「そうだね、行ってみようか」



あたしの気持ちを察してくれたヒナが無理矢理笑みを浮かべて、頷いたのだった。


☆☆☆


B組に近づくと廊下に人だかりができているのが見えてきた。



「なにかあったのかな?」



人だかりの後ろでそう呟くと、ひとりの生徒が振り向いた。



「B組の転校生、すっごく可愛いんだって! だからあたしたち見に来たの!」



長い髪をポニーテールにしているその子は目を輝かせて言った。



「確かにすごく可愛い! でもA組の転校生の子も負けてないよね」



そんな声があちこちから聞こえて来る。



大西さんと肩を並べるほどの可愛さと言われると、気になってきてしまう。



あたしたちはどうにか人垣をかき分けてB組ドアの前まで移動してきた。



教室内を確認するとひとつの机に沢山の生徒たちが集まっているのがわかった。



きっと、あの中心に転校生がいるのだろう。



でも、他の生徒達に隠れて姿を確認することができない。



「まるで、A組と同じだな」



柊真が呟いたので、あたしは「え?」と、聞き返した。



「大西さんと同じって意味だよ」



それは同じくらい人気がある。



という意味で間違いはないだろう。



けれど、あたしの胸にはなぜか一抹の不安が膨らんで行ったのだった……。


☆☆☆


B組の転校生の姿はほんの少しだけ見ることができた。



席を立った時に人垣から見えたその顔は小さく、漆黒の髪を持つ美少女だった。



目鼻立ちがハッキリとしていて遠くから一瞬見ただけでも美少女だとわかる。



あれだけ生徒たちが集まってきていたことも十分頷けることだった。



「なにあれ。何様?」



A組のクラス内でそんな言葉を聞いて、あたしは声の持ち主を探して教室内を見回した。



教室内は普段通りの休憩風景が広がっている。



みんな大西さんの机のまわりに集まって、彼女に好かれるために必死だ。



そんな中、一人だけ窓から廊下を睨み付けている女子生徒がいた。



あたしはつられるようにして視線を廊下へ移動させる。



そこにいたのはB組の転校生と、彼女と仲良くなりたい生徒たちだった。



どうやら彼らは転校生が移動するたびについて回っているようだ。



それでも転校生は嫌な顔ひとつせず、笑顔で言葉を交わしている。



「あの転校生はアイリさんっていうらしいわよ」



不意に大西さんがそう言った。



見ると大西さんも興味深そうに目を細めて廊下の彼女を見つめている。

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