第26話

放課後になるのを待ち、あたしたち3人にはパソコン教室へ向かった。



部活で利用されているので、邪魔にならないように教室後方で使わせてもらうことになった。



パソコンが立ち上がるのを待つのももどかしく感じる中、検索画面を表示して『人間に寄生する虫』と検索をかけた。



ズラリと出て来る検索結果に一瞬めまいが起きそうになった。



想像以上の数がヒットしてしまった。



この中から該当する寄生虫を探し出すのは至難の業だ。



でも、やるしかない。



『閲覧注意』と書かれたサイトをクリックしてみると、地球上で最も恐ろしい規制中だとされる虫の写真が表示された。



糸のように長く、白い体の寄生虫。



水泳中に耳から入り込み、脳味噌に寄生する虫。



寄生されたら人間の目の機能を破壊する虫……。



その種類は様々で、映像を見ているだけで吐き気を催した。



「大西さんの体液に乗って次々に感染しているのだとしたら、もっと被害状況は深刻だろうな」



画面を凝視しながら柊真が言う。



「そうだね。学校内だと飲食もするしトイレも行く。今は水泳の授業がないから、まだマシなだけなのかも……」



もしかしたら、自分たちの知らないところで感染は広がっているのかもしれない。



「でも、大西さんに感染している虫がキスを経由しないと感染しないとしたら?」



ヒナの言葉にあたしは目を見開いた。



ネット情報をざっと読んだだけではそのような寄生虫はいなかったはずだ。



しかし、ヒナの表情は真剣だった。



「これだけの種類の寄生虫がいるんだもん。突然変異とかがあってもおかしくないと思う」



「そうかもしれないけど……」



だから大西さんは自分から男子生徒の誘いに乗り、自らキスをしていたのかもしれない。



「大西さんも被害者の一人なら、どうして寄生虫を撃退しようとしないんだろう」



ふと浮かんだ疑問をそのまま口にした。



大西さんも感染者の一人だとすれば、寄生虫のせいで苦しんでいるのではないかと思ったのだ。



「脳を破壊する寄生虫も沢山いる」



そう言ったのは柊真だった。



柊真の顔はパソコンの明かりで白く照らし出されている。



「大西さんに寄生した虫が、最初に大西さんの脳を破壊し、洗脳して動かしているのだとしたら?」



そう言われて、背筋がゾッと寒くなった。



確か、カマキリに寄生するハリガネムシも同じようなことをすると聞いたことがあった。



ハリガネムシは陸上ではうまく動けない。



そのため、泳ぐことができないカマキリを自ら入水させ、溺れ死にさせてから体内から出て来るのだ。



そうすれば、ハリガネムシ自身の身は守られるから……。



まさか、そんな寄生虫が体の中に?



想像するだけでつま先から脳天へかけておぞけが走った。



時々道端で見かける死んだカマキリを思い出す。



カマキリのお尻から出る細くて黒い寄生虫。



あれだけの大きさのものが体内にいるだなんて、信じられなかった。



「キスされた生徒たちはどんどん寄生虫に洗脳されていく」



ヒナが小さな声で呟いたのだった。


☆☆☆


翌日学校に到着すると最初に違和感が胸を刺激した。



大西さんを取り囲むように立っているクラスメートたち。



それはいつもの光景だったのだが、自分の席まで生徒たちが溢れて来ていて座れる状態ではなかったのだ。



昨日まではあたしが座るスペースを空けておいてくれたのに、今日はそれを忘れてしまったかのようだ。



群がるクラスメートに声をかけようとした時、もうひとつの異変に気が付いた。



登校して来ている大半の生徒たちが今大西さんの机の付近にいることだった。



普段は女子生徒が5,6人いるだけなのに、今日は10人以上の男女が大西さんの周りにいる。



あたしはその光景に気圧されて数歩後ずさりをした。



生徒達に囲まれているせいで大西さんの顔は確認できないが、時々笑い声が聞こえて来た。



「なんだこれ」



教室へ入ってくると同時に柊真が唖然とした表情を浮かべた。



「わかんない。なんか今日はちょっと異常だよね?」



自分の席に座りたくても座れなくなってしまったあたしは、仕方なく柊真の机へと向かった。



「遊星まで一緒かよ」



柊真がチッと舌打ちをして呟いた。



よく確認してみると大西さんに群がっている生徒の中には遊星もいた。



遊星は頬を上気させてとても嬉しそうに話かけている。



その様子を見ていられなくてあたしはすぐに顔を背けていた。



こんなの、ヒナが見たらどう感じるだろう?



そう思って胸がチクリと痛んだ時、教室前方のドアから当のヒナが入って来てしまった。



ヒナはすぐにあたしに気が付いて笑顔を見せる。



あたしはぎこちない笑顔を浮かべることしかできなかった。



「2人ともなんの話をしてたの?」



そう聞きながら近づいてくるヒナに、柊真が視線を大西さんの机へと移動させた。



ヒナはそれに誘導されるように視線を巡らせて……一瞬にして表情を無くしていた。



「なんで……」



小さな言葉で呟き、固まってしまっている。



「今日来たらあんな状態だったの。絶対におかしいよね」



「なんで、遊星まで一緒にいるの」



ヒナの声は微かに震えていた。

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