第18話

「カーテンが開いてる」



柊真の声がして視線を移動させると、診療所の奥が丸見えになっているのがわかった。



玄関から入って右手の奥に当たるその場所はベッドが置かれているスペースだったはずだ。



学校から近いことで何度かお世話になったことがあるので知っていた。



あたしたち3人は軽く目配せをして診療所に近づいた。



背をかがめて、音を立てないようにカーテンの開いている窓へ近づいた。



中腰になったまま診療所の中へと視線を向けた。



思っていた通り、こちらから見ると5つのベッドが横に並べられていて、隣同士のベッドはクリーム色のカーテンが引かれていた。



しかし、窓からだとベッドの上を確認することができるのだ。



窓側は通路になっていて看護師さんたちが行き来できるスペースになっているため、カーテンはひかれていない。



ベッドの脇に座っている大西さんの姿はすぐに見つけることができた。



他の患者と違い制服を着ていて凛とした表情でベッドの膨らみを見つめている。



ベッドに寝ている人の顔までは確認できないが、きっと先生なんだろう。



先生はなにかの点滴を受けていて、意識がないのかなにも反応を示さない。



大西さんはしばらく先生の様子を見つめていたが、ふいに前かがみになった。



先生がなにか言って、それを聞き取ろうとしたようにも見える。



でも、違った。



次の瞬間あたしたちが見たのは、大西さんが先生にキスをすることろだったのだ。



「あっ……」



ヒナが呟き、目を見開いた。



あたしと柊真は目を見交わせる。



大西さんが男の人にキスをするのを見るのは、これで3度目だ。



あたしはゴクリと唾を飲み込んでその様子を目に焼き付ける。



大西さんはたっぷり数十秒キスをするとようやく先生から体を離した。



そして……ほほ笑む。



少し濡れた桃色の唇を上げて妖艶な微笑みを浮かべると、大西さんは先生に背を向けたのだった。


☆☆☆


「先生にキスしてたよね……」



教室へ戻ってから、呆然とした様子でヒナが呟く。



「うん。やっぱりあの子はおかしいよ」



あたしは真剣な表情になって答えた。



みんな、あの子とキスをした後から性格が変わっているのだ。



先生と大西さんが戻ってきた時にどう変化しているのか……。



「もしかして、麻薬なのかもな」



柊真が不意にそう言って来た。



「え?」



「あのキスだよ。ただのキスなら急に態度が変化したりするわけないだろ? それなら、相手に従順になるような薬でも口に含んでたのかも」



柊真の言葉に背中がスッと寒くなって行った。



まさか、そんなことってあるだろうか?



自分の口に薬を含んで、相手に飲ませていた……?



「でも、大西さんはギャルたちにキスはしてないよ?」



「それなら、男たちに命令してやらせたのかもしれないだろ?」


そう言われて、あたしは男2人がギャル3人にキスをしていたシーンを思い出した。



あの時男たちはすでに大西さんの言いなりになっていたんだっけ。



それで命令されて、やったのかもしれない。



「大西さんはこのクラスを薬漬けにする気?」



ヒナが青い顔でそう呟いた。



「わからないけど、そうかもしれない」



柊真は左右に首を振って答えた。



もしそうだとしたら、目的はなんだろう?



自分に従順な奴隷たちを作るためだろうか?



「薬物なら、尿検査でわかるよね? 誰かに検査を受けてもらえば大西さんがやったことの証明になるかもしれない!」



「誰かって、誰?」



眉を寄せて聞いてくるヒナ。



あたしの脳裏には一人の男子生徒の顔が浮かんでいた。

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