6.鐘楼

 僕はその場に立ったまま、時間をつぶした。何人かの観光客が不思議な顔で僕を見ながら通り過ぎていった。


 そのときだ。ある予感が僕の脳裏にひらめいた。それは第六感といってもよかった。


 ひょっとしたら・・瑠香はあのままいなくなってしまうんじゃないか・・・


 僕はその予感に戦慄した。思わず走り出した。


 見覚えのある鐘楼が眼に入った。そして・・瑠香の姿はなかった。


 鐘楼の下の石段にメモが書かれた紙が、風に飛ばないように石を載せて置いてあった。きれいな文字が僕の眼に入った。僕はメモを手に取って、むさぼるようにその字を眼で追った。


  ごめんなさい。

  やっぱり私はあなたを不幸にしてしまうように思います。

  今までだったら、私一人が不幸になって悲しむだけだったのですが、

  今は私が不幸になったら、あなたも不幸に巻き込んでしまいます。

  私はあなたが大好き。死ぬほど好きです。

  だから、あなたにだけは不幸な想いをしてもらいたくないの。

  あなたにはいつまでも幸せでいて欲しい。

  だから、悲しいけれど・・私は消えます。

  私の不幸にあなたを巻き込まないために。

  幸せになってください。

  本当にありがとう。

  そして、さようなら。

  大好きなあなたへ      瑠香


 僕は泣いた。何人かの観光客がいたが、僕は構わず号泣した。泣いても、泣いても、涙が次々と出てきて止まらなかった。僕は泣き続けた。僕の上で鐘楼の鐘が音もなく揺れて、僕の身体に深緑の縞模様を描いた・・

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