5.再び常寂光寺

 僕たちは野宮神社を出て常寂光寺に向かった。僕は東京に帰る前に、瑠香と出会った常寂光寺の鐘楼をもう一度この眼に焼き付けておきたかったのだ。


 常寂光寺の、太い角材を格子に組んだ山門をくぐるときに、瑠香が足を止めて僕を見た。格子の角材の茶色が瑠香の顔に映えた。僕は美しいと思った。瑠香が言った。


 「ねえ、昨日と同じようにしない?」


 僕は瑠香の言った言葉の意味が分からなかった。


 「えっ、昨日と同じ?」


 瑠香が笑った。


 「ええ、昨日と同じ。昨日はね。私がここの鐘楼を見ていて・・そして、30分ほどして、あなたがやってきてくれたの」


 ・・・


 「だから、今日も昨日と同じようにしたいの。私が今から鐘楼のところに行っているわ・・そうして30分したら、昨日と同じようにあなたに来て欲しいの。昨日の出会いをもう一度再現して・・そして私、もう一度、幸せをかみしめてみたいの」


 昨日と同じ演出で二人の出会いを再体験する・・素晴らしい考えだと思った。僕に異存はなかった。これで東京に帰る前にいい思い出ができる。


 僕が賛成すると、瑠香は手を振りながら笑顔で駆けていった。


 「30分したら必ず来てね」


 僕も手を振りながら答えた。


 「ああ、必ず行くよ。待っててね」


 瑠香の姿が生け垣の向こうに消えた。

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