第9層
第26話 酔剣
プレイヤー間でマッピングはとっくに済んでいるのだけど。
第10層はほとんど魔神王の専用フロアだから……この第9層が、まともな雑魚戦のある最後のフロアだ。
そんなわけで、第1階層のようにシンプルな地形であり、今までのような小細工は一切無い。
上位プレイヤー人気も高く、他パーティともよくすれ違う。
出てくるモンスターもガチ勢ばかり。
レッドドラゴン、ブラックドラゴン、ゾンビドラゴン、マスターデーモン、ドッペルゲンガー、
……他はわかるけど、
見たところ、魔法使いの使うようなローブに近いものを着て、中東とかで使われてそうな
何処か別世界から、妙なのをチャネリングしたのかね。まあ、超強い魔法戦士以上でも以下でも無いから、実害はそこまで無いけど。
もはや、このパーティの動きは変わり果ててしまっていた。
明らかに捨て鉢になっている。
当然、アンデッドやヒト型モンスターの“人工知能”はすでに超反応の域であり、常に意表を突き続けないとワーキャットですら打撃を当てるのが困難だ。
ホント、この例えがわかるヒトもそんなに居なさそうだけど……それこそ某格ゲーの“尖兵ジェネラル”が雑魚敵として出現しまくっているようなものだよ。末法も良いところだ。
このパーティの戦士達もさすがではある。どれだけ酒が回っていても致命傷は決して取らせない。
けど、HPはゴリゴリ削られてて、その都度ポーションを一気飲み。
解毒の要である魔法使い1自体が明らかに出来上がりつつあり、戦闘後の解毒の効果も不安定になってきているのが、ボクにもわかった。
攻撃魔法で味方を巻き込んだりしないし、実体化する威力も落としてはいないあたり、専門分野に関しては鈍っていないのが幸いか?
しっかし。
そう考えると“現在の昼間”にエルシィが泥酔したのって、すげー危険な事態だったのか。
えっ? さすがにそこは気を付けられる? ホントかなぁ……。
で、とりあえず話の続きだけど。
「Yeah!」
第8層でのトラウマを振り切るように、戦士1がワイトジェネラルの頭蓋骨から上半身にかけてをハンマーで力任せに叩き潰した。
戦士1のハンマー、恐ろしいことにヘッドの部分に発破の魔法が込められており、打撃にロケットじみた推進力が加えられるんだ。
反動もデカイけど、当たりさえすれば、ひとたまりもない。
足元がふらついたのは、ハンマーの重さや推進力に引っ張られただけでは無いだろう。
むしろ、まるで筋肉の硬直など知らないかのような切り返しで、背後から斬りつけてきたダークナイトを打ち倒した。
ダウンした甲冑騎士を、他のメンバーが必要以上にザクザクぐしゃぐしゃリンチに処して惨殺した。
アンデッドやヒト型の超反応が、今の場合アダとなっている。
こちらの戦闘力を精密に分析した上で、このレベルのプレイヤーは普通こうする……って演算してるんだろうけど、今の彼らにそんな条理は通じない。
ボクの魔法【
ポーションを酒にした時点で、モンスター作ってる方もそれくらいは想定内だったろうに……。
可能性としては、先のフレッシュゴーレム戦での怒りと酒の効果がヘンに噛み合って魔法思考に昇華。結果、彼ら自体にすげー
目視での印象だけど……【知力】以外、下手すればそれぞれの種族限界値に達してないか? これ。
邪聖剣的に、バフ補正での200到達は君臨者判定に引っ掛からないらしいのが悔やまれる。
怒りで底力を見せる。ドラマチックだね。ガッデム。
酔拳と言うと、ボクも近年までジャッキーチェンのアレで勘違いしてたけど……酒を飲む拳法ではない。
ユラユラなフットワークが酔っぱらいに似てるっていう比喩に過ぎない。
……と思いきや、ホントの古代ではシャーマニズムの表現として用いられていた説もある。
酒も何だかんだ“魔”との繋がりが深いわけだ。
このフロアの目玉雑魚モンスターと言えば、やはりドッペルゲンガーか。
最初はただの、のっぺりとした人造人間だ。
しかし、出会い頭に【分析】の魔法をかけられると、手品のようにその姿が変わる。
はい、予想通り、ボクらと同じ姿だね。
外見は勿論のこと、HP、ステータス、装備……恐らくはダンジョン内で人目に触れさせたことのある魔法も、ある程度は?
この世界で魔法を自作できるのはエルダーエルフか、ハンターエルフの上位魔法使いか、謎の【スキル】効果によって割と設計時に我が儘のきくボクくらい。
それ以外の種族は市場に出回っている“ブリザード”だの“ファイアボール”だのと言ったオープンソースの魔法思考を使っているのが大半で、コピーも容易だろう。
まあ、ステータス的には人類どまりだからモンスターには劣るし、チェーンソーのようなダンジョン外から持ち出した装備は再現出来ない。魔法の再現にも色々制約はある。
にした所で、自分達の分身が超反応ジェネラルAIで襲ってくるって、すげー脅威だよね。
……でまあ、結果も予想通りだね。
フツー、こういう場合って誤射を恐れて、各自“自分を模した偽者”を個別に相手にするよね。
今の彼ら、そんな事お構いなしで雪崩れ込んで、遅滞なく薙ぎ倒して行ってるの。
ただでさえ、わけわからん酒乱補正で強化されてんのに、このダンジョンのベテランと言う限定的な特質の脊髄反射で暴れまわられては。
“日頃の彼ら”を模したに過ぎない分身達では相手にならなかった。
これが、高慢なエルダーにも盗めない、ヒトの強さだよ。思い知ったか。
うーん。
今、生き残ってる戦士1たちは、ホントに彼ら自身なのだろうか?
戦闘後、何食わぬ顔で行動を共にしているであろう彼らは、ホントにドッペルゲンガーでは無いのだろうか?
もう、わかんないや!
てことで、ボクはボクで“ボク”の相手をするよ。
素晴らしい再現度だ。愛おしくて、壊してしまうのが惜しいねぇ。
けど、余裕だろう。
ボク自体は、正直なところ、野盗以下の強さだ。
今みたいに、とりわけ対人戦で負け知らずの“無双”が出来るように仕上がったのは、やっぱチェーンソーに君臨者の魂を取り込んで以降のこと。
何故か都合よく魔法が作れてしまうチートと、借り物の力での、偽りの無双。
で、それはいずれもダンジョンに持ち込めない要素。
このドッペルゲンガーには、無いもの。
手がまだ本調子ではなくとも、負ける要素はない。
ボクは手早くフョードルを憑依し、“ボク”の首を一合ではねた。
よし、瞬殺最短記録。
Tool Assisted Speedrun……道具に助けられた早解き。
所謂TASさんだ。
多分これが、一番早いと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます