第27話 ゴミをゴミかどうか更に仕分けるシステマチックなお仕事

 酒盛り、時々、殺戮。

 酒池肉林の乱痴気騒ぎも、ピークを迎えていた。

 器用だね。

 わざわざ瀕死に留めておいて、ボクですら言語化を憚るような仕打ちの末に、虫の息になったそれを通路に放置とかしてるよ。

 しかも。

 よりにもよって今回の犠牲者は、彼らと同じ姿に擬態したドッペルゲンガーだよ。

「今回の、芸術点高いねぇ!」

「オレは天才だァ!」

 ヒャーッハッハッハッ。アッハァ。

 何と言うか、カリス達がアークデビルに固執していた心境もコレだったのかもね。

 仲間の仇、と言えば聞こえは良いけど……それ以上の暴力で叩き潰して、自分の中にあるわだかまりも有耶無耶にして吹っ飛ばしたかったのかなって。

 特にカリス達の場合、自分達のした事がした事だったから。

 昔やらかした恥ずかしい事の記憶を、ベッドの上でのたうち回って「うわあああああ!」って叫んで誤魔化したくなるようなもん?

 ましてこの戦士達の場合は、お互いに絆で繋がってる“多数派”だから、なおのこと、敵をリンチするのが気持ちいいんだろうね。

 死んだヒトは帰っては来ない。

 葬式も、復讐も報復も、死んだヒト本人が見届ける事は出来ない。

 そー言うのって、いつも遺されたヒト達の為にあるんだよね。

 これから生き続ける為に、気持ちの整理をつける。

 死体が腐る前に、システマチックに埋葬を行う為。

 あるいは、同じことが再発しないように、見せしめ。

 ボクは。

 結局、わかんなかったな。その気持ち。

 こっちの世界でも、彼らのような立場になる事も無いだろうし。

 他人に殺られるような仲間が、居た事無い。

 

 さて、誰一人欠けずにボス部屋まで来ましたよ。

 これまた御大層な観音開きの大扉を躊躇も遅滞もなく開け放って、ドカドカ駆け込んで行くよ。

 キミら、その行動がいつか身を滅ぼすと思うよ。

 同じシチュエーションは、ここを除いてはあと一回しか無いけどさ。

 中に居たのは……巨人並みに見上げる高さのヒト型。

 全体的に豪奢なローブ姿だね。

 こいつもどうせガワは人造人間なのだろうけど、巌のように厳つい顔立ちで、長いアゴヒゲまで伸ばしてるね。

 特筆すべきは腕の数。間接がヒトより1つばかり多い、すごい長いのが六本ある。

 それぞれに違う得物を持つ。

 剣、鎖鞭、メイス、鎌、スパイク鈍器、焼きごて。さも片手武器みたいに持ってるけど、ボクらからすれば、いずれもラージサイズ。

【塵芥の選別者 HP9,748,000/9,748,000】

 なるほどね。

 一言で言えば、西洋風エンマ様。

 死刑同然の底辺から這い上がって最終盤で出てくるのがエンマ様。皮肉だね。

 それとも、自分達を地獄に落とした奴の擬人化を置いて、ここまで来た事を讃えてくれてるのかな?

 これサンドバッグにする権利をやろう、って?

 どっち道、上から目線でバカにしてるよね。

 

 さて、エンマ様が六本の手を拡げると、ぶっといレーザーみたいなのが、四方八方に走った。

 攻略経験のある他の連中は無難に躱し、ボクも何となく彼らを真似て難を逃れたけど……当たればタダでは済まないな。

 で、戦士達はあんな大型武器庫目掛けて、真っ向から突貫していく。

 恐らくは、正しい攻略法だ。

【塵芥の選別者 HP9,667,000/9,748,000】

 さっきの拡散レーザーは、恐らく間合いに入ってこないチキンに対する“ペナルティ”だろう。

 遠距離を維持する限り、万物最速、かつ、当たりどころが悪ければ丸焼けの飛び道具を一方的に撃たれる。

 そんなわけで、大型重機みたいな凶器の待ち構える至近距離へ詰めた。

【塵芥の選別者 HP9,213,000/9,748,000】

 この辺は、巨人フロアでの経験がちゃんと身に付いているかを試されている感じだね。

 正式名称:“塵芥の選別者”とは良く言ったものだよ。

 ダブルミーニングだ。

 社会のゴミを選別してダンジョンにぶちこんだ裁判官のイメージ。

 そして、ダンジョンにぶちこまれた“それ”がゴミかどうかを更に仕分けるヒト。

 別にこのエンマ様、事実上のラスボスだけど、唯一無二の存在ではない。

【塵芥の選別者 HP7,548,000/9,748,000】

 殺せば新しいのが造られてリスポーンするし、殺したプレイヤーはここであわよくば報酬レアドロップを得て、明日からのダンジョン生活に戻るだけだ。

【塵芥の選別者 HP6,226,000/9,748,000】

 そんな中、上位プレイヤーの活躍と言うのは安定して客が取れる一方……“上の下”程度の半端なプレイヤーがグダグダ生き延びられてもマンネリだ。

 多分だけど、観客一人が一度に追える視点は1パーティだけだろう。

 プレイのつまんないパーティは、運営的にも穀潰し。

 長い目で見れば、上の下には華々しく死んでもらい、観客に感動してもらう方が旨い。

【塵芥の選別者 HP5,748,000/9,748,000】

 上の中以上は、こんなのも安定して狩れるスーパープレイヤーで、長生きしてもらった方が固定ファンもつくだろう。

 ゴミか良品かを、こんなラストダンジョンで、今更テストされているわけだ。

【塵芥の選別者 HP4,046,000/9,748,000】

 あとは、勝利条件の判断。

 肉眼で見ての通りだ。

 ボクらが避けるべきは“物理死”で、エンマ様に喰らわすべきは“HP枯渇死”だ。

【塵芥の選別者 HP3,712,000/9,748,000】

 あんなクレーン車みたいな刃物が全力でぶち当たれば、HPどころの話ではない。

 で、まあ、このダンジョンでのHPって等しく消費されるリソースなんだよね。

 腕に当てようが、頭に当てようが、心臓を刺そうが同じ。

 だから、エンマ様がそれぞれの武器を振り抜いた腕の硬直を見て、こちらの打撃を叩き込むのみだね。

【塵芥の選別者 HP2,941,000/9,748,000】

 地球ではソウルがダークな感じのとか、ブラッドがボーンと弾けるような死にゲーアクションRPGをやり込んでたけど……。

 巨大モンスターの足をチクチク刺してHP削って、最期は派手に血を撒き散らして死ぬ様には少し違和感があったんだよね。内容はすげー面白いから、貶める気は断じて無いんだけど。

 無粋な事言うけど、人間で言えば、縫い針でチクチクやられてたようなものじゃん。

 ボクの場合、斧を分離させるか接続するか……どちらでも良さそうだ。

 エンマ様の隙に対して、二刀流で回数叩き込んでも、大斧で一撃喰らわしても、HPダメージに差はない。

【塵芥の選別者 HP2,020,000/9,748,000】

 あとは、どちらがより得意か……ボクの場合は、重打を一発当たればノルマ完了・熟考の暇がある両手武器の方が合ってそうだ。

【塵芥の選別者 HP1,539,000/9,748,000】

 武器を含めた相手の質量だとか、スピードに込められた筋力だとかを感覚的に掴んで、どれだけの硬直を見込めるか。

 胴体やフットワーク、他の腕の動向はどうか。

 そこから逆算して、こちらにはどれだけの硬直が許されるのか。

【塵芥の選別者 HP711,000/9,748,000】

 決して、焦ってはならない。

 敵の隙以上に動けば、物理的なジ・エンドだ。

【塵芥の選別者 HP458,000/9,748,000】

 あと少し、無茶をすれば削りきれる!

 その誘惑に乗ってはならない。

【塵芥の選別者 HP248,000/9,748,000】

 あれだけ頭に血が上って、酔っぱらってて、その計算を完璧に出来ている他の連中も、やっぱ大したものだよ。

「ほらほら! 命乞いでもしたほうが、いーんじゃない?」

「デク人形だから、喋る知能もないでしょ」

 バカほど良く喋るって話、知ってるかな?

 アタマの悪い言動で、ゲラゲラ笑いながら、首から下は洗練された動きで慎重にエンマ様を削っていくよ。このヒト達。

【塵芥の選別者 HP119,000/9,748,000】

 死を目前とした本能か“発狂モード”のルーチンが組まれているのか、ふっと腕の振りが早くなったね。

 いつぞや、振り子ギロチンの間を走り抜けた事を思い出すよ。

 野太い風と、風切り音にあおられて、最前まで自分の居た空間にトラックみたいなぶっとい刃物が通り抜けていく。

 ギリギリの場所に居るんだね、ボクら。

 そんなことを、他人事のように思う。

【塵芥の選別者 HP28,000/9,748,000】

 やれやれ。ようやく即死圏内に持ってこれたね。

 トドメは勇者戦士1に譲るよ。

 ロケット噴射のように振り抜かれたハンマーがエンマ様の手を叩き潰した。

【塵芥の選別者 HP0/9,748,000】

 恒例の撃破エフェクトだ。

 エンマ様は巨体をびくり、びくりと痙攣させる。

 手にしていた六本の武器が、ぼとりぼとりと取り落とされる。

 あぶねー! これが当たっただけでも死人が出かねないぞ!?

 安全性とか、考えて設計してよね。ぷんすこぷんすこ!

 で、エンマ様は身体の中に花火でも飼っているかのように爆発を繰り返し、大の字になって倒れ込んだ。

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