第6層

第17話 サメ、そして、因縁の地

 第6層に出た。

 何とも、妙と言うか……吐き気すら催す景観だった。

 野放図に色をぶちまけたサイケデリックな植物が群生し、これまたドギツい虹色の霧が立ち込めている。

 全体的に明度は暗く、ヒトが居ていい雰囲気とは思えない。

「ここは“魔界”をモチーフとした階層だ。エルダーエルフにしかアクセス出来ない、未踏の地の」

 ああ、この世には何か、そんなのもあるらしいね。

 エルダーが、あれこれ有用な物資を調達している程度の存在ぽいけど。

「転移させられた魔界の現住生物……悪魔デビルと呼ばれるものの巣窟にもなって居る」

 カリスがご丁寧に説明してくれるけど……その理屈から言えば、むしろ異次元に拉致された悪魔のほうが被害者じゃないの?

 まあ、魔界も悪魔も、ボクの人生には関係ないけど。

 とにかく、重要な事実はただ一つ、だね。

 ここに出てくるモンスターは大半が悪魔。

 つまり、物理攻撃もろくに通らなければ、魔法もレジストされる。頼みの綱はHPダメージくらい。ってか。

「それと、分かって居るとは思うが……この階層にもサメが出る」

「えっ…………?」

 な、なに、言ってんの? このヒト。

 ここ、一滴も水がありませんが???

「まさか、分からないのか?」

 分かってたまるか!?

「この第6層と第8層に、そいつは現れる……。

 奴等は物質透過……量子力学に於けるトンネル効果を自在とする事で、水中でしか活動出来ない制約から解き放たれたのだ」

 ちょ、待っ、何言ってんの!? ねぇ!?

「サメから逃れる術は無いのだよ。……それが例え、陸地であったとしても」

 いやいやいや、もっともらしく言ってるけど、おかしいからね!?

 多分、このヒト達も、稼ぎポイントの第5層のお世話になってたんだろうから、感覚が狂ってもおかしくは無いけど……それにしてもだよ!

 で、まあ。

 あーあー……カリスの言う通りだよ。

 石造りの床に、あのわかりやすい背ビレが、すいーって流れてるよ。

 ホント。サメに対して何をそんなに執着してるんだよ、魔神王。

 めんどくせー。

 攻略法を確立すれば、次回、サメの思考ルーチンがアップデートされるまで、やる事は同じだ。

 ……何だよ、サメのアップデートって。

 自分で言っておいて、わけがわからないよ。

 ともあれ、ボクはチェーンソーを抜き放った。

 で、サンドラ憑依、【時間加速】、ギュルギュルギュルギュル!

 ざっくり。

 サメは両断された。フカヒレ(笑)

 これで、このフロアのサメも当分リスポーンすまい。

 いや、頼むから二度と現れないでくれ。

 疲れるんだよ、キミら処理するの。

 

 そして。

 いかにも、おどろおどろしい“門”のある部屋に出た。

 リーザが、ナターリアさんが、アルフが、ことさら息を呑むのがわかる。

 恐らく、一見して冷静そのものに見えるカリスも、兜の下では何らかの表情を浮かべているのだろう。

 あの向こうで、彼らには何かがあった。

「……行こう。今の私達であれば、大丈夫だ」

 カリスの言葉に押されて、一人、また一人と、因縁の場所へ歩き出す。

 ボクもまた、チェーンソーをいつでも使えるように身構えた。

 

 にしても。

 何なんだろうね?

 悪魔の門のそばにひっそりとあった“リサイクルボックス”って、シューターみたいなのは?

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