エルシィの感想その5

「焼けましたよー」

 結構な無茶振りをしたつもりだったんだけど……エルシィが持ってきたそれは、まごう事なき、クリスピータイプのイタリアンピザだった。

 この世界も大概、地球に似た文化はちらほら見受けられるんだけど……まあ、運河の中にある、ゴンドラに乗れる水の都ってのもあるらしいし。

 食文化も、似たようなのがあるのかもね。

 ただそれ以前に、最近のエルシィはアカシックレコードを通して越次元し、地球の知識を仕入れる事も覚えたらしくて。

 そのお陰でこの前、消防車をモチーフとしたパワードスーツみたいなのも作れたんだよね。

 その辺のアレコレは別の機会に話すとして……今は、焼きたてピザをいただきましょ。

 一枚は、モッツァレラ! トマト! バジル! って感じのマルゲリータ。

 そしてもう一枚……、

「こ、これは!」

「ふふん。どうですか?」

 テリヤキチキンマヨ……だと!

 まさか、まさか、第二の人生でお目にかかるとは!

「ど、どうやってこれを……?」

「【地球 日本 ピザ】でアカレコったら、出てきたんです。テリヤキって概念が。

 醤油や味醂というものを醸造するヒマはさすがになかったので、さらにアカレコ。こっちの世界の調味料やハーブの組み合わせを全部洗い出しました。

 結果、南部のワーキャット集落と、西部のドワーフ集落に固有の調味料の組み合わせできわめて近いものが実現しました。

 醤油に比べれば、マヨネーズの再現は簡単でした。

 エルダーエルフ界隈の養鶏技術であれば、無菌の卵も実現してますし」

 認めよう。

 この世界に来て初めて、彼女に一杯喰わされたことを。

 後から理屈だけ聞けば単純なんだけどーーいや、“アカレコ”るってワードが息をするように出てくる時点でやっぱり狂ってるんだけど。

 しかし、そこまでするか。

 ボクの意表を突くために……。

 とにかく、いただこう。

 パクっ。

 ぁぁ……。

「うめぇ……うめぇよ……」

「よかった。成功したようですね」

 確証、無かったのかよ。

「やっぱり、ネイティブの人に食べてもらうのってハードル高いですよ。うまくいって、ほんとによかったです」

 そう言って、貧相な胸を撫で下ろす。

 ……と、やばいやばい。

 エルダーエルフともなれば、こっちの心を読んでいる可能性もあるのか。

 下手に身体的特徴をあげつらうのはやめておこう。 

 もう、テリヤキとエリクサーを作ってくれなくなるかも。

 ……いや、エリクサーは元々、出し惜しみされてるんだけどね。

 ちょっと不可逆な副作用があるからって。

 こっちのマルゲリータみたいなのも、安定してうまいな。

 やっぱり、持つべきものは知力:146・器用:115の友だよね。

 

「そうそう。第5層の話はどうだった?」

 ピザをパクついてたら、大事な話を忘れかけていた。

 エルシィは、困ったように小首をかしげて、

「うーん。ほんとに大事なのは次の階層なんでしょうしねぇ」

 まあ、そうだね。

 何たって、宿命の対決! ですから。

「ただ、ダンジョンにサメがいるのはヘンだと思いました」

 おお……! 太鼓判をもらえた!

 そうだよね!

 普通、地下迷宮にサメなんて出ないよね!?

 ボクの感性がおかしかったわけじゃないよね!?

 やっぱ、あのダンジョンに長くいると、頭がおかしくなるんだよ。

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