第16話 ダンジョン・シャークVSレザーマスク+おまけ

 先んじて、他の船がサメに襲われた様を見た。

 水中から間欠泉のような水しぶきを巻き上げ、美しいまでの放物線を描いて巨大サメが飛翔する。

 いや、サメってただでさえ巨大なんだけどね。

 で、船の手すりだとかを一部破壊してるけど、海賊だかプレイヤーだかをバグン! と咥えて、向こう側の水中に消えていった。

 凄まじい断末魔と、もがき狂う水の音がする。

 喰われたのは、残念ながらプレイヤーの誰かのようだ。

 で、まあ、飛び出してきた時に奴のHPは見えていた。

【サメ HP:999,999,999/999,999,999】

 まあ、事実上、HP枯渇死は不可能。

 そして、普通に考えて、この環境下でヒトがサメとガチンコしたとして、物理的にも勝てるわけがない。

 カリスほどの魔法使いなら……と言う考えもちらついたけど、出来るものならやっているだろう。

 恐らくは、悪魔系のようなレジスト能力も持たされていると推測。

 人工海の水質を変えても無駄か、変えられないようになっているだろう。

 ボクが制作者なら、サメを出すと決めた時点でまずそこの守りを固める。

 いや、そもそもサメをダンジョンに出そうなんて狂った発想は出ないだろうけどね。

 これらの事から、モンスターって言うよりは、ステージギミックに近いのだろうね。

 さて、ボクは既に考えをまとめていた。

 目視で分かるサメの質量と、スピード、色々な要素を計算計算……多分、行けるはずだ。

 仮にダメだったとしても、死にはすまい。

 こいつを警戒しながら海賊の相手をさせられ続けるのも疲れるので、消してしまおう。

「君臨者、憑依セット。第七オーク・クランのサンドラ」

 全身の質量が鉛のように重く、そして強固に変化したような、頼もしい感覚に包まれた。

 そして、チェーンソーをけたたましく駆動させ、構える。

【時間加速】

 更に、ボクは時間を倍速にした。

 ただでさえやかましいチェーンソーの駆動音が、気の狂った女のように甲高い、ヤバい音を撒き散らし始めた。

 そして。

 どしゃ降りのしぶきを上げて、甲板にサメの姿が現れた!

 皆にはあらかじめ退避してもらい、しかも、これだけやかましいチェーンソーを鳴らしている。

 トンネルのような大口がボクに襲いかかるのは、必然だった。

 これを見越していたボクは、チェーンソーがサメの口角にぶち当たるよう振り抜く!

 接触。

 ギュルギュルギュル、と名状しがたい金属悲鳴を上げて、チェーンソーとサメの口がせめぎあう!

 このチェーンソーには【エターナル・コーティング】と言うエルダーエルフのエンチャントが施されており

 もう一度言う。

 絶対にだ。

 元は地球・スウェーデン産の、単なるバッテリー式チェーンソーだったが、とあるエルダーエルフの小娘によって、電力無限・不壊と言うトンデモアーティファクトに変わり果ててしまっていた。

 武器と言う概念にしか適用できないらしいのだけど“破損”と言う事象そのものとの因果を断ち切る事で、不壊の武器とするらしい。

 そして後は、ボクの踏ん張り次第だ。

 重タンク・女王サンドラの力を憑依して倍加した体力でも、これはかなりキツい。今にも薙ぎ倒され、轢死しそうだ。

 また、刃は順調にサメを抉り進んでいるが、これだけでは、やがてサメ自体の自重で失速するだろう。

 後方で、リーザやナターリアさんの悲鳴が聴こえる。

 ボクは【時間加速】をかけた。

 サメに。

 ふっと、ボクの身体にのし掛かっていた重圧が軽くなった。

 速さは力だね。

 時間を倍加させられたサメは、一転して抵抗なくチェーンソーに切り裂かれ、ついには莫大な量の体液を撒き散らして両断。

 泣き別れとなった半身と半身は、それぞれ海に墜落して、また派手な水飛沫を上げた。

 そして、水面がたちまち血に染まって行く。

 まるでサメ映画の犠牲者だな!

 とにかく、ボクの策はどうにかハマッてくれたようだ。

 恐らくこいつが“現実的”に殺される事は想定されていないだろうから、当分再出現リスポーンはすまい。

 あちこちの船から、他パーティの感嘆と歓声が上がる。

 やっぱり、前例のない事だったのか。

 まあ、チェーンソーがあって通った無理だしね。

 ともあれ、運営が想定していなかったとは言っても、ゲームのルールに則った攻略だし?

 まさか死刑BANは無いでしょう。


 そして、サメを気にしなくて良くなってから、じっくりとフロアボスを攻略する。

 さっき言った早い者勝ち要素とはちょっとズレるけど、各フロアのボス攻略も似たようなものだ。

 順番待ちで、1パーティずつしか挑戦できない。

 リスポーンには個体差があるけど、概ね1時間程度。

 他のパーティが倒してくれれば安全に素通り出来るけど、やっぱりボスモンスターにはレアドロップがあるから、挑むかどうかは善し悪しだね。

 今回は、ボクのスーパープレイを評して、他パーティが先を譲ってくれたよ。

 体の良い露払いかもしれないけどね。

 で、巨大な船内をあしらったボス部屋に居たのは、いかにもな海賊船長風スケルトンだったね。

 得物は一見して野太いカットラス……だけど、鞭状の蛇腹剣に可変。

 さっきのモブ海賊どもとは一世代違う、最新型の達人AIも搭載!

 ってのはどうでも良くて。

 ボクのアイデアを元にナターリアさんが作ったローラースケートをはいたメンバーが、亡霊船長の周囲を滑らかに走る。

 ははははは、やっぱりルーチン外の挙動を取られて、テンパってるよ。

 自我もクソもないアンデッドのくせにさ。

「フォーメーション・“デスペンダグラム”だ! アッハァ!」

 ボクの号令に呼応した全メンバーが、亡霊船長を全周囲から“同時”に襲いかかり、“同時”に斬り伏せた。

 ロジック外の自体に防御もままならない船長は、五方向からの殴打斬撃をモロに受けて、瞬く間に残骸と化した。

 ボスと言うには呆気ない幕切れだ。

 ……でもまあ。

 これ、常に上流階級の掌で行われてるゲームだからね。

 明日には運営側も対策するんだろうね。

 ローラースケートくらいの挙動なら、すぐに解析されちゃうでしょう。

「間違いない……」

 カリスが、感慨深げに言った。

 偽りの、イケメンボイスで。

「彼が居れば、確実に勝てる。アークデビルに」

 ああ、そんな話もあったよね。

 確か、次の階層のボスなんだっけ?

 

 何があったかは知らないけど、応援してるよ。

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