第5層

第15話 パイレーツ・オブ・ダンジョン

 さて、ボクが作った地雷撤去ゲームの噂はすぐに聴こえてきた。

 残念ながら、非難轟々の有り様だったね。

 何でだよ。モンスターが出ないだけ有情でしょ。

 落ち着いて考えれば、そうそうミスる事もないし。

 しかしまあ、どう言う事なんだろうね?

 誰がやったんだ! → あいつだ!

 って感じでまあ、ボクらのパーティである事はすぐにバレたんだけど。

 そのあと「あぁ……」みたいな感じで、噂の潮は引いていったんだよね。

 まるで、何だカリスのパーティか……みたいな感じで。

 まあ、実被害は残念ながらゼロだったみたいだし、上の階が解禁されているヒトにとっては無関係だしね。

 にしても、デストラップ乱立フロアを作った事に対してお咎めらしいお咎めも無いのが逆に気持ち悪いね。

 何だろう? カリスからは「誰も私には逆らえない」的な洗脳波でも出てるのかな?

 だとしたら、教えてほしいよ。

 それがあれば、今のボクの悩みは全てが解決する。

 でもまあ、ヒトの思考と言うのは“自己の保存”と言う最も強烈な魔法思考で守られているため、そうそう直接いじる事は出来ない。

 そして、ヒトの洗脳はエルダーエルフの戒律でタブーとされているらしいし、実現する見込みは無いそうだ。

 まあ、ひとたび実現しちゃった時点で、今の自分が本当に自分なのか? と言う厄介な悩みを、人類全体で抱える羽目になるからね。

 特に、その魔法を使ヒトが一番、疑心暗鬼になる事だろう。誰より理屈を知ってるんだから。

 タブーにされてて正解だよ。

 洗脳でないとするなら……元々そんな、しょーもない事をしても不思議ではない奴らで、なおかつ、上級者プレイヤーだし文句を言っても無駄……と匙を投げられているって所か。

 参加した感じ、基本的には品行方正の真面目なパーティに思えたけどねぇ。

 むしろ、これまですれ違ってきたパーティには、もっとタチの悪いのもいたけど、野盗でもやらない限りは拠点に戻れば許されている印象だ。

 排斥はされていない。

 けれど、どこか腫れ物のように扱われている。

 色々ヘンだね。


 さて、第5層に上がってきた。

「ナニコレ」

 まず、階段を上っていた時から感じていたけど……潮の臭いがするね。

 そして眼前に広がってるのは、第4層と同じく遮蔽物一つ無い、果てしない空間。

 

 そして、建物の中にある海。

 無数の船舶が浮かんでいる。

 

 船の上ではそれぞれ、乱闘が起きている。

 ワーワー、うおおおお! と雄叫びと剣戟の音が入り交じっているね。

 船の“住人”と他パーティがあちこちでやり合ってるようだ。

「このフロアは海になって居る」

 カリスが、さも当然のように言った。

 いやいやいや、おかしいだろ。

 いや、結局、目の前の光景に異を唱えたって無駄なのはわかるよ?

 でも、待って。ちょっと待ってくれ。

「ココはコツさえわかれば稼ぎやすいから、人気フロアなんだよね」

 リーザも補足してくれるけど、ボクが言いたいのはそういう事ではない。

「この海水、どうなってるの? 何かの事故で下のフロアに流れ出したら大惨事だよ」

 ボクのもっともな言葉に……パーティの連中は“?”マークを伴うアホ面を晒す。

「これまで、そんなことは一度もありませんでしたよ。ここ以外の階にも色々複雑なギミックで動いてるフロアはありますけど、そう言う不具合は全然聞きません」

 ナターリアさんも言うけど、このダンジョン自体、稼働してからまだ5年でしょ? どこにそんな保障があるわけ。

 いくら、エルダーエルフの産物だからって。

 まあ、いいけど。

 ボクはそんなに長居するつもりもないし、この先どんな事故があったとしても、このヒト達の問題だ。

 あー、なんか。

 リーダーのカリス自体がちょっと天然入ってるから、第4層のイタズラも容認されたような気がしてきたよ。

 それで、だ。

「何かさ、水面にすげーでかい魚影とヒレが見えるのは……」

「当然、サメをベースとしたモンスターだ。

 従来のサメと違うのは、時々、飛び魚のように水面から飛び出して、船上を襲う事」

 ……もう突っ込まないよ。疲れた。

 

 そんなわけで、まずは他パーティの居ない手近な船に乗り込むよ。

 すると、待ってましたと言わんばかりに大挙して押し寄せる、簡素なシャツとズボン、赤いバンダナと言ういかにもな海賊ルックの人造人間達。手にはそれぞれ、斧だのカットラスだのが持たされている。

 ちなみにこいつらの持つ武器は、プレイヤーに対するHPダメージはちゃんと設定されてるけど、こちらが使うと全くそれが無いように設定されている。

 こう言う使いやすい武器を鹵獲ろかくされたらゲームがつまんなくなるからだろうね。

 で、開幕一番、カリスが容赦なく魔法をぶっぱなす。

 別次元で炸裂した核融合のエネルギーの一部が光爆と化して海賊どもだけを薙ぎ払う。

 それだけで、乗員の大半は吹き飛んだ。

 やっぱ、集団戦になると魔法使いによる面制圧の重要性がわかるね。カリス以上の魔法使いは今のところ見てないけど、皆どうしてるんだろうね?

 稼ぎスポットにされてるって事は、安定した狩り方が確立されているはずだし。

 ともあれ、光炎が晴れた。

 多少生き残りはいるけど、これでようやくイーブンの戦力だ。

 このままカリスが魔法乱発してれば終わる話なら楽なんだけど……そんな旨い話はない。

 カリスが次をぶっぱなすより前に、海賊どもは間合いに入ってくる。

 おなじみ、フョードルを憑依しての観察タイムだ。

 あー、こりゃ、皆は薄気味悪いって思いそうだよね。

 こう言う海賊の水上戦って、それこそ「うおおおお!」と気炎を上げて切り結ぶものだろうに、ヒト型モンスターのガワとして生まれてきたこいつらは、無表情でキレッキレな戦い方をしてるの。

 ボク個人の性癖には凄く刺さるシチュエーションだけどね。この無個性さ。

 で、相当数の野盗をころして来てわかったけど、この無法地帯ばかりな世界でも、剣術とかの武術には一定の規範があると言うか……伝統があるにしても、その地域で自然に生まれたにせよ“メソッド”がある。

 こいつらは恐らく、都市部の上等な師範とかのルーチンを組まれているのだろうけど……やっぱり、例え粗くても、生の人間の応用力だとかを超えるだけの技術力は追い付いていないみたいね。

 後は、カリスが次砲を撃つまで、ボクら前衛の仕事だ。

 最初に海賊どもの群生する様を見た時は、船上と言うユラユラしてる足場の上で、こんな数をどうやって処理するんだ……と思ったけど、リーザやアルフは手慣れたものだった。

 船の揺れに調和しつつ、流れるように、作業のように海賊どもを打ち倒して行く。

 特に、アルフの、押し引きの的確さや仲間のフォローは完璧だった。

 これ、ランダムで武器を変えながらの話だよ?

 海賊どもは盾で叩きのめされ、怯んだところをもう片方のモーニングスターで撲殺された。

 何と言うか、戦術家だ。

 それも“脳筋プレーを押し通す環境作り”の巧みな戦術家。

 だからリーザだって、思う存分遠近で暴れられるのだろう。

 掛け値なしに、良いチームだとは思う。

 恐らくだけど。

 彼だけが、ボクとカリスの異様なステータスにも気付いている。【分析】もなしに。

 だけど、何も言わない。

 それが何を意味するのか、そこまで大局的な事を考える発想が無いのだろう。

 優れた戦術家が、優れた戦略家とは限らない。

 彼は、どう頑張ってもリーダーにはなれないだろうね。

 

 で、まあ、近付いて来たね。

 この船にも、サメのヒレが。

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