第14話 スーパー魔神王メーカー

 第4層に上がると、視界がハンパなく拓けた。

 ホントに何もない、殺風景な光景だ。

 モンスターの気配ひとつない。

「ここは、通称“忖度そんたくフロア”と呼ばれて居る」

 カリスが言った。

「ここには本当に何も無い。真っ直ぐ歩いて行って構わない」

 えっ、そうなの?

 4つ目のフロアからすでにネタ切れ起こした? 魔神王。

 さて、淡々と歩いて向かいの壁に到達。

 上階への階段が普通にあるね。

 で、その側に石碑が立ってる。

 

 第4層クリアご苦労。

 このフロアは実は、他の囚人が設計したものだ。

 君達囚人にも、たまにはこの魔神王の気分を味わってほしいと言う、ほんの気持ちだ。

 今回のダンジョンはどうだったかな?

 君達が五体満足でこれを読んでいる事を祈っているよ。

 さて。

 クリア報酬だ。

 今度は君達が、このフロアを刺激的に設計してくれたまえ。

 

 ……なーるほど。

 そう言うコンセプトね。

 クリアしたプレイヤーに、このフロアの地形、モンスター、トラップを配置する権限が委ねられる、と。

 このダンジョンがエルダーエルフ監修の人工物だから出来る事だよね。

 いやさ“自動生成”ダンジョンってやつには、常々疑問を感じていたんだよ。

 特にお城とか。

 同じ建物の構造がそんなコロコロ変形していたら、耐久性とかヤバいでしょ。

 文明レベルが現代並みだった場合、電気配線とか配管とか走ってたらなおのこと。

 それはさておき。

 だから“忖度フロア”ってわけだね。

 ここで普通に危険なフロアを作って、プレイヤー同士で足を引っ張る利点はない。

 このダンジョン、早い者勝ち要素って、事実上無理ゲーであろう魔神王討伐しか無いし、全てのプレイヤーは明日のパーティメンバーかもしれないのだ。

 逆に、恨みを買えば野盗に紛れて闇討ちされかねない。

 それに、今まで強いて言及はしてこなかったけど、ボクらも他のパーティとは相当数すれ違っている。

 で、このフロアに入った事はほぼ確実に目撃されているわけで。

 もしもこのフロアが即死トラップ満載、ボスモンスター乱立のクソゲーと化していた場合「誰だこんなことをしたのは!」と足がつくだろう。

 無意味に他プレイヤーから恨みを買う必要もない。

 そりゃ、何もないフロアにするよね。

 さて、アイテムのヘルプメッセージを見る要領で石碑をよーく見ると。

【フロアを作成してください】

 で、壁とか障害物のパーツや、モンスター配置だとか、トラップ配置のエディットコマンドがボクのウインドウに浮かんだ。

「はいはいはーい! ボク、このフロア作りたーい!」

 すると、カリスが腕を軽く組んだ。

 兜の下では、冷ややかな瞳でボクを憐れんでるんだろうなー。子供みたいなことしてるよこのヒト、って。

 エルフの女って、楽しんでるヒトに水さす奴ばっかりだよ。

「……好きにすると良い」

 でも、意外とあっさり承諾してくれたよ。

「まー、この階、ずっと変わりばえしなくて、つまんなかったし。いいんじゃない?」

 リーザもリーザで、無責任に言い放つ。

「レイさんのセンス、見せてください!」

 ナターリアさんはガチで目を輝かせてるし。

 アルフも、うんうん、と頷いている。

 おいおい、無関心過ぎないか?

 ここでボクがヘタなもの作ったら、評判落とすの自分達もだろうに。

 物分かり良く調教しすぎたのかなぁ。

 言うことを何でも聞いてくれるようになったのは助かるけど……多少の自主性も無いと逆に使いづらいんだよね。

 でもまあ、満場一致で賛成してもらえたし。

 さーっと、第4層、作っちゃいましょー!

 

 理不尽トラップ?

 無理ゲーフロア?

 いくらなんでも、そんな酷いのは作らないよ。

 まず床を規則正しいタイル張りにします。

 次に、天井に、梁のような足場を置きます。

 そして、HPダメージの地雷をあちこちに置きます。

 ダメージは設定は999,999で。

 いやいや、怒らないでよ。地球の地雷だって、踏んだらそんなもんじゃん?

 それに、地雷を避けるヒントはしっかり置いとくよ。

 地雷の無いマスには、踏むと数字が浮かぶように設定します。

 その数字の意味とは「このタイルの周囲に何個地雷があるか」と言うもの。例えば1と書いてあるマスの周囲8マスのどれか1個が地雷だよって意味。

 そして、その繰り返しで地雷を避けて、何もないマス全てを踏破すればクリア。

 天井の足場は、徒歩では届かないタイルに飛び移る為のものね。

 そして完成!

 地雷撤去ゲームだ。

 モンスターと戦ってばかりで荒んだ心を癒す、匠の思いやりが込められております。

【作成したら、次にクリアされるまで取り消せません。よろしいですか?】


 はい [>YES

 

 ボクがエディットを確定した瞬間、ベルの音が響いた。

【危険ですので、この線の内側までお下がりください】

 そして、その目印線の上にシャッターみたいなものが降りて、中が見えなくなる。

 で、がちゃこんがちゃこん音がして、シャッターが上がると、何と言う事でしょう!

 そこには、ボクの思い描いていた地雷撤去ゲームが忠実に具現化していた。

 よーし。

 これでこのマンネリ化したフロアに、新たな風が吹き込む事を祈るよ。

 え? こんな事したらプレイヤーが減るかも?

 知らないよ。ボクの目的はロレンツォを殺す事であって、ゲームクリアじゃないもん。

 て言うか、エレベーターで4階以上まで行けてない雑魚にも用はない。

 それじゃ、ボクらは上へ行くとしよーー、

「分かって居るとは思うが……作った本人がクリアするまで、このフロアから出られない」

 カリスが、何かいやーな事を言い出したぞ、今更。

「……マジで?」

「分かって無かったのか……。作った本人がクリア出来ないような物を無軌道に作らせれば、このフロア自体が破綻する。そう推論するのは当然だと思うが」

「えええぇぇ!? ボクだって何でもかんでも察せられないよ!」

 このヒト、ちょっとコミュ力がアレすぎない? パーティリーダーのくせにさ!

「そんなだからカレーーじゃない、カノジョの一人もいないんだよ! やーい、やーい!」

「なっ! そんな事、関係ないだろう!」

 兜の下で顔真っ赤にしてるのが目に浮かぶようだよ。

 で、まあ。

「……ここを出たら永い付き合いになるのだからな。心象は良くして置く方が良い」

 ああっ、やばい事をしれっと漏らしてくれるな。

 リーザは……大丈夫、気付いてないな。

 まあ、カリスは男って設定だし……冒険者とか、あーいうのとしてって意味で受け取ったのだろう。

 しかしまあ。

 ヴァンパイアにまでなったヒトが、ボクに何の期待を見出だしたのやら。

 多分だけど“奴隷”と言っても、そんな酷い扱いは受けないのだと思う。ここまで、カリスの上辺の人格を見てきた限りは、だけど。

 どうもカリスって、今まで一人も眷属にしたこと無いっぽいんだよね。

 まあ、負けなきゃ良いだけだし、最悪の場合はエルシィとコンタクトが取れれば助けてもらえるはずだ。

 

 で、まあ。

 ボクの作った地雷撤去ゲームを、チマチマやる羽目になってしまった。

 ややこしいゲームに頭のパンクしたリーザが、シャー! と癇癪を起こしてガリガリ引っ掻いてきた。

 何だよ! 教えてくれなかった点ではキミもカリスと同罪だからな!?

 

 ……はぁ。

 何て言うか、このヒトらの意外な一面だとか、何だとか。

 そー言うのが見えてくるほどに、思っちゃうんだよね。

 

 あんたら、所詮はヒト殺しだろ。

 ヒトらしさとか、アピールしてんなよ。

 

 それぞれが、このダンジョンにぶちこまれた経緯はわからない。

 カリスには相応の理由がある事は、共感できないまでもわかる。

 リーザやアルフだって、種族の社会的な事情を考えれば、何か理由はあったのかも知れない。

 罪状も、殺しだとは限らない。

 でもさ。

 あんたらが律儀に頑張らなきゃ、このテーマパーク、たちまち廃園してるはずなんだよ。

 これ、客商売だからね?

 ロレンツォのルールに乗ってプレイしている時点で、ボクからすれば同罪なんだよ。

 反乱とかなんとかも、起こせるんじゃないの? 少し考えれば。

 少なくとも、野盗を殺した経験ゼロってのはあり得ないでしょ。

 

 あーあー。

 地球末期の頃に感じた思いが、また浮かんできた。

 もうダルい。


 みんな死ね。

 ボクも含めて、皆、消えてしまえばいいのに。

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