第9話 ナターリアさん攻略

 パーティにおけるナターリアさんの仕事は、宝箱のワナ解除。オマケにドワーフの筋力を活かした打撃。

 そしてもう一つ。

 秘密アイテムの製造だ。

「やあ、見学してもいい?」

 わけわからん工具をあれこれと、これまたわけわからん形状の武器を散乱させた彼女に声をかける。

「いいですよー」

 快く承諾をもらえた。

 このタイプもまあ、イージーだね。

 自分のしてる事に興味を向けられると、大体悪い気はしないってやつ。

「どう? 何か使えそうなものある?」

 このタイプはリーザとは逆に、お世辞をくれてやるだけ無駄だろう。

 あくまでも仕事ってか、趣味の話を単刀直入に切り出すんだ。

「なかなか、無いもんですよぉ」

 それが判るだけ、ドワーフとしては【知力】も高いのだろう。

 だから、ダンジョンで拾った“設計段階でクソ”と言う武器を

 これが、ナターリアさんが“使える人財”たるゆえんだろう。

 クソな武器をクソだと認識できない奴が、使えない武器を作ってしまうのだから。

 さて、と。

 現代知識テコ入れターイム。

「この剣(?)みたいなの、使えないかな?」

「これはー……ちょっとムリですね」

 何て言うか、でっかい金属板の両端から剣が延びてる感じだ。

 ボクでも、これ無理だって思う。

 板の端っこ握って振り回す事になるんだろうけど、ろくに力が乗らないでしょ。

 何? 巨人用のナイフか何か?

 でも、手に持とうと思わなきゃよくない?

「この板に小さめの車輪つけられない?」

 あまりにおもむろに、ぶっとんだ事を言ったものだから、当然彼女の目が丸くなった。

「ヒトがこれに乗って、走るんだよ。何なら、同じ要領で靴に車輪をつけても似たような事ができるかな」

 つまるところ、スケートボード・ソードとでも言うべきか。

「な、なるほど! それはちょっと思い付きませんでした!」

 心底感動した様子で、ナターリアさんが手を叩いた。

「あとは、螺旋状の槍みたいなのが高速回転するぶっとい錐みたいな工具ドリルだとか、超高圧水を発射する魔法を内蔵したカッターとか、それと、こーいう細くて軽く反った刀身の……折り返し鍛練って製法で作る“刀”ってやつなんだけど(エトセトラエトセトラ)」

 はいはい、ボクの提案一つ一つに目をくるくる回して、荒波に揉まれているような顔してるよー。

 エルダーエルフならいざ知らず、ドワーフ程度の【知力】ならこんなものだろう。

 けど、理屈さえ教えてやれば、大体は実現できるはずだ。

 ワーキャットの界隈でチェーンソー教をぶっ立てた時も思ったけど、簡単な地球知識ばらまいただけで原住民どもの人生180度変わってしまう様を眺めるのは実に気持ちがいいね!

 ボク、三國志のシミュレーションゲームとかも好きだったよ。

「すごい……すごいですよ、レイさん!」

「まあ、こんな事ばかり考えてるから、ハンターエルフの中では変わり者扱いだったんだけどね」

「そんな……! 私からしたら素晴らしいです!」

 うん。語彙はゴミだね、このドワーフ。

 その分、製造系スキルに【知力】を集中させてくれている事を期待するよ。

 さて、次のステップ。

「いやー、キミの技術力こそ驚くべきものだよ。普通、ダンジョンの外れ武器をそれでも使えるようにしようなんて発想は浮かばない」

 はい、先の現代知識ラッシュの興奮も手伝い、わかりやすいほど頬が上気しましたね。

 浅ましいね。

 目に見える事柄が武器づくりって職人ぽいジャンルなだけであって、今のキミ自身は発情したメス猫と同レベルだよ。

 まあ、結果に残るものがあるだけ、ずっとマシなんだろうけど?

 お次のステップ。

「これは……キミの力があれば、ボクの願いが叶うかもしれない」

「願い?」

「搭乗型のゴーレム巨大メカを作ること」

 ナターリアさんが、はっと息を呑んだ。

「それは確かに、ドワーフとして最高の栄誉です!」

 ……ふーむ?

 この口ぶりからすると、既知の概念ぽいね。

 もうあるのか。

「そうだね。武装は、戦略級の光魔法を発射するバリスタと、光を凝縮させた魔剣。

 頭部には金属の弾丸を何千と乱射する連射式バリスタもある。

 光が効かない場合に備えて、実体武器……鎖付き鉄球もあると良いかな」

「そ、それはさすがに、どうでしょ」

 はい。

 さすがに、ここまでオーバーテクノロジーな武装は前例が無いようだ。てことは、こちらの世界のゴーレムとは、せいぜいが既存の武器を持たせて振り回すくらいしか出来ないのかな?

 結果的に、良い感じに今の状況と噛み合ってくれたよ。

 “恋人”候補と共有する夢は、天井知らずの方が良い。

 現実的なアイディアは先に出してあるから、大言壮語をぶちあげる資格は既に得ている。

「もちろん、そこまでするにはエルダーエルフの力でも借りないと無理だ。

 けど、ボクらで着実に新型武器を作って行ったらどうだろう?

 いつか、運営側の目に留まる可能性もあるかも知れない。

 もしかしたら、魔神王を殺さなくても、スカウトと言う形で恩赦がもらえるかもしれない。

 そうでなくても、このダンジョンで二人で個人商店を営むのも良いかも。

 戦うばかりが、ダンジョンクリアでは無いかも」

 自分の【知力】キャパシティを遥かに超えた情報量に溺れつつも、ナターリアさんの顔に希望の光がパァーっと灯っているのが面白いようにわかる。

 いやはや、昔やったRPGで、仲間の好感度を上げるシステムあるやつなんだけどさ。

 発明家タイプの仲間を落とすの、新しいアイテムを開発し続けるだけでオッケーだったんだよね。

 いくら趣味で意気投合が嬉しいからって、ヒトはそんな単純じゃないでしょ。

 ……と思っていた時期がボクにもありました。

「考えれば考えるほど、キミは運命のヒトに思えてきた。いや、ここまでの無茶を実現するにはキミしかいない。

 そしてボクらがダメでも、この二人で子供を作れば……ドワーフだったとしても、ハンターエルフだったとしても、成し遂げてくれるんじゃない!?」

「えっ、ええぇ……!」

 夢が広がるね。

 いつか、彼女の夢が叶うことを、ボクも祈ってあげるよ。

 

 ドワーフについては、こんな所だろう。

 今、ゴールインするだけ面倒が増える。

 期待を維持するだけで、あとは勝手に勘違いしてくれる。

 オートメーションだね。

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