第3層
第8話 リーザ攻略
最初はリーザからだ。
ボクはもう一晩、あのメスを買った。
当然、部屋で話すだけだ。
パーティの加入が済んだ今、あのメスの中では金を払っておきながらベッドインしない理由は無かったのだろうね。
初動から、面白いように戸惑ってくれたよ。
ダンジョンから離れたら、他人から求められる自分の価値がソレしか無いって思い知ってるんだろうね。ある意味で謙虚だよ。
「……ボクがどうしてキミと寝ないのか、わからない?」
「わからないよ」
で、まあ、無理に【知力】で張り合おうともしないあたりも好感が持てた。
今のエルシィと違ってね。
だから。
「それは、最後に取っておきたいから。ちゃんとした、形で」
そして、壁ドン。
ほらほら、見知らぬオモチャを与えられて少し困惑するイエネコそのもののキョドり方をしてるよ。
「なに、いってるの」
「こんな事、失礼は承知だけど、でも言わずにいられない。似てるんだ、病気で死んだワーキャットの恋人に」
「はい?」
「ホントにごめん。でも、彼女が死んでからボクは脱け殻だったんだ。後を追いたいって、何度も思った。でも、心の中の彼女が止めるんだ。そしてキミが現れた」
「なにを企んでるの」
「企み? 強いて言えば魔神王を殺してダンジョンを出る事」
リーザが、また大きく目を見開いた。
本物のイエネコのように瞳孔が微妙に広がったり狭まったりしている。
よしよし。
キミはまだ“賢い”部類だね。
その分、攻略が楽だ。
「キミほど賢ければ、わかってるだろう? 魔神王をヤるなんて不可能に作られている、と」
「……そうだね。だから、あたしは諦めてる」
「違うね。所詮は魔神王だってヒトの子だ。ダンジョンのルール外で盲点が必ずある」
「絶対に間違えないエルダーエルフもグルなのに?」
「あんな高慢な奴ら、ドワーフの事だってそこまで気にかけて無いでしょ。
何なら、それはそれで面白いと思っていても不思議ではない」
この辺は完全にハッタリだ。
そんな希望的観測するなんて、アホそのものでしょ。
けど、この場で大事なのは理屈よりも勢い。
「キミは確かに彼女を思い出させる。けど、それだけじゃないモノを確かに感じるんだ。
それが何なのか、これからの戦いと……ここを出てからちゃんと向き合いたい。
少なくともボクは、キミにこんな所で朽ち果ててほしくはない。この気持ちだけは、絶対に本物なんだ」
「それって……」
「一緒にここから脱出しよう。そして、その時こそーー」
はい、ヒモ無しバンジージャンプに挑むくらいの決心をしてから、彼女のお口にチュー。
細い身体を、がっちりホールド。
リーザは、少しも抵抗しなかった。
こーいうタイプって、コツがわからないと難物だけど、コツさえ掴めば実は攻略しやすいんだよ。
ボクが地球でしてた仕事……特殊詐欺って言うと、お年寄りばかり相手にしてるイメージあるじゃん?
でもだからこそ、お年寄りは本人や周りがガッチリガードを固めてしまう。そして、同業者と競合しやすいから運に左右される。
その点、こう言う違法風俗女は、自分がそういう被害者の属性から遠いと言う慢心がある。
そして、意外とロマンチストが多い。
まあ、こう言う商売女がいい人に見初められて連れ出してもらう話なんて定番のドラマでしょう。
そこまでのプロセスで苦労するビジョンも無視して、結末だけに憧れるんだろうね。
まして、ほぼ死刑に等しいこの状況であればなおさらだ。
さて、充分に夢を見せた所で、
「ボクを【分析】してくれ」
ボクは、この世界に来てからの全てを、余さず彼女に話した。
五種族のどれからも外れた、ヴァンパイアと間違えられかねないステータス。
そして、君臨者憑依。
自分が選ばれし者である事のプレゼン。
つまり脱出の可能性を秘めたスペックと言う“現実的な夢”を見せてやった。
そいつが今、自分を抱き締めてるんだよ。
「わかるだろう。こんな事が他人に知られたら、ボクは明日晒し首になっている。キミの口から漏れたりしたらね」
なるべく嘘はつかずに“真実”を適切なタイミングで提示する。
基本中の基本だね。
言ってる事が真実なら、暴かれようがない。暴く罪科が無いのだから。
まあ、本当に恋人を亡くした奴が舌の根も乾かぬうちから他の女に言い寄ってるなんて……実在したら最低のクソ男だよね。
絶対その恋人、非実在の脳内彼女だよ。
「信じて、いいの?」
いいよ、いいよー。
ボクはもう一度、特別サービスでチューしてやった。
今度はわかりやすく、ボクに全てを委ねる気配がその幼さの残る矮躯から伝わってきた。
……。
うえっぷ。
あの場で嘔吐せずに耐え抜いたのが奇跡に思えるよ。
人間、為せば成るものだ。
ともあれ、一人目は難なく撃墜っと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます