エルシィの感想その2
「でさー、カリスが何でヴァンパイアにまでなったのかって言うとこれまた陳腐なものでね。
幼い頃から天才天才と持て囃されて、負け知らずの人生だった。魔法学校でも万年トップ。
……四種族の中では、ね」
だって、最強のエルダーエルフが学校に通う必要もないし? 生まれてすぐに親以外から何かを教わる必要もない。
「自分が狭い世界での天才に貶められているのはエルダーエルフと言う種族のせいだ!
とまあ、こじらせちゃったわけだ。
で、不老のヴァンパイアになれば、いつか種族限界の知力:120を超えられるかもしれない! って。
バカだよね。
種族にはそれぞれの領分ってものがある。
どれだけ頑張ったって覆せないのなら、限りある【知力】を最も有意義な事に使わなきゃ」
思うにステータスの【知力】とは、スキルポイントみたいなものでもあると思う。
額面上の知力が同じでも、何を何のために学んだかでそいつが“賢い”か“バカ”なのか、更に分岐すると思う。
どれだけ高度な技術でも、死にスキルばかりありがたがってる奴はやっぱりバカだ。
ゴミスキルがある日突然陽の目を見て人生逆転! ……あるわけないだろ、そんなの。
ヴァンパイア化にした所でそうだけど、世の中の技術ってのはとっくに解析され尽くしてるものなの。人類の叡智、ナメたらあかんよ。
「そもそも、戦略級の魔法を地水火風光毒、あれこれ沢山レパートリー持ってて大したもんだったよ?
でもこの世界でそれって、結局のところ小細工でしか無いじゃん?
単一の属性だけじゃ、火力不足で対応しきれないケースもあるから、手札を無駄に増やしてるんでしょ。
このあたりが、ハンターエルフの魔法使いとしての限界だよね。
エルシィみたいに本当にヤバい魔法使いなら、光魔法一本で高レベルのオークすら蒸発するし」
で、まあ。
何かボクばかり喋ってる。
エルシィは何だか黙りこんでしまっている。
さっきから新作武器を作ってて、彼女には部品の錬金術と製図を頼んでいたのだけど……その手も止まっている。
「リーザ、アルフ、ナターリアさんの【知力】こそカリスに遠く及ばなかったけどさ……このヒトらのほうが足りないオツムを有効利用していたよ。
特に、ナターリアさんは拠点で、使い物にならないゴミ武器を改造して使えるようにしたり、かなり役に立ってくれたよ。それに引きかえカリスは」「そういうレイさんは、何ですか」
ぽつりと、でも有無を言わさない力でかぶせられた。
「はい?」
「わたしは、自分が一番いい選択をいつもできていたとは思えません。尊敬するおばあさまだって、きっとそう。
レイさんは、いつも最善の選択をできていたんですか。少しも、感情に流されずに」
何だよ。
らしくないな。
あのエルシィが、なんかつまらない一般論を語りだしたよ。バグった?
「この新作武器だって、ナターリアさんにお願いすれば作れたんじゃないですか?
彼女といっしょにダンジョンを出ることだって、やろうと思えばできたでしょう」
「何よ? 今の話のどこが気に障ったわけ? そんな要素一つもなくない?
ボクね、今のキミみたいに本命のイライラを伏せたまま発散するために都合よく正論を使い分けるヒト、嫌いなんだよ。虫酸が走る。
いつもみたいにスカした態度で言ってりゃいいだろ。“殺し合いも大地の営みですからぁ”ってさ」
「わたしだってーーッ!」
おおっ、これまでにないヒステリックな声を張り上げたな。
あーあー、幻滅。
ダンジョンにぶちこまれてから一週間とちょっと、この女とは離れ離れになっていた。
その間に何かあったのか、ボクのモノの見え方が変わったのか。
なんと言うか、再会した時にちょっと前より大人びたなって思ったんだよね。
実際、普段の会話にも前より落ち着きが出ていた。
でも、見込み違いだったかな。
むしろ、前より退化してるじゃん。
こんな器の小さい奴だなんて思ってなかったよ。超越種サマ。
「気に入らないなら消えていいよ。ボク、最初からついてきてくれだなんて頼んでない。
キミはクビだ。失せろよ」
それを聞いた途端、エルシィはくしゃりと口をへの字にしてボクから顔を背けた。
「もう、3つも君臨者の魂コレクションしちゃったから、寝ぼけててもそこらの雑魚に負ける要素もないし。キミほとんど用済みなの。
いつ、何を話したら機嫌を損ねるかなんてランダム要素を日常生活に抱えたくないし。
先代の第七オーク・クランじゃないんだからさ」
長いブロンドで顔を隠したまま、これまたヒステリックな手付きで、作りかけの新型武器をテレポート収納していく。
そしてまあ。
ボクがさっさと荷物をまとめて馬に乗ると。
やっぱり、何も言わずについてくるんだよ。
……ウザ。
「じゃー勝手に続き話すよ。ボク、これまでのスタンス変える気もないし。
とにかく無事、パーティを結成したボクは、駒を有効に動かせる下準備……ハーレムづくりに取り掛かった」
少し、興味も出てきた。
どれだけ傷つけたら、この女はボクの側から居なくなるのかが。
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