第1層

第1話 下準備~クリアレベルまで上げよう~

 さて、厳密に言えば、このデスゲームに“レベル”と言う概念はない。

 元々持ち合わせた生身の能力ステータス以外で能動的にテコ入れが出来るのは【HP】と武器だけだ。

 HPを上げるには、このダンジョン内で手に入れた防具が必要となる。

 反面、外から持ち込んだ防具に関しては、例えフルプレートアーマーであろうと、HP補正はビタ一文ない。

 武器についても、話は簡単だ。

 ダンジョン内の“宝箱”から、ドワーフ製の武器が手に入るので、それを使う事になる。

 それらの武器には、やはり物質的な性能とは別に、このダンジョンでしか通用しない“HPダメージ補正”と言うものが設定されている。

 極端な仮定だけど“段ボール製の剣”と言うものがあったとして、物理的には全く無力だけど、そいつにHPダメージ補正が500,000でもあろうものなら、爆殺コースを狙う最終兵器になり得てしまう。

 ちなみに、軽く撫でるような使い方ではHPダメージは発生しない。ちゃんと、物理的な威力と連動して計算されているようだ。

 で。

 ダンジョンには、エルフが非人道的な実験の末に生み出した異形の生物兵器“モンスター”がわんさか生息しており、そいつらの生体反応消失=殺害に対応して宝箱が“出現スポーン”する仕組みになっている。

 この出現・消失のシステムもエルダーエルフ謹製で、ダンジョン内の循環に重要な役割を担っているわけだね。

 で、この循環システムは死亡したプレイヤーにも応用されている。

 プレイヤーが死亡した場合、まず肉体がテレポートして、墓の下か火葬場かゴミ処理場かは知らんけど、遺体の処理場に転送される。

 で、そいつの持ち物は一定時間、そこに残る。

 ゴミが野放図に散乱すると運営側も困るので、死んだプレイヤーの持ち物がすぐに拾われなかった場合は、やはりエルダーのテレポート技術で廃棄処分されてしまう。

 これらの事実を統合すると、最適解は自ずとわかる。

 第一層のスタート地点では、度々、ボクのようなルーキーを狙ったPK上等コロシジョートー天下無敵の上級プレイヤー様が現れるわけで。

 何度死んでもやり直しのきくテレビゲームならともかく、これ、遊びじゃないしね?

 まず、スタート地点でクリアレベルまで上げる必要があるでしょう。

 

 さて、ボクは既に、そんな“盗賊系エネミー”を何人か均してヤッてしまっていた。

 ボクの初期装備は日本から持参したチェーンソーひとつで、こいつ自体のHPダメージはほぼ皆無。

 でもさ。

 チェーンソーでガリガリやられたら、物理的に死ぬのは当たり前だよね?

 ってことで、HPなんて実体のないモノに惑わされなきゃ、やりようはいくらでもあるわけで。

 ちなみに現段階でのボクの装備はご覧のとおり。


 E:邪聖剣チェーンソー

 E:ドッキングアックス

 E:レザーマスク


 チェーンソーは、大剣を装備する用の革ベルト(ドワーフ製)で背中にくくりつけ、頭にはフルフェイスの目出しレザーマスク(何の皮かは不明)

 胴体は平服。

 で、武器は左右の手に持った斧。

 これは、それぞれ延長柄エクステンション・グリップをかませてドッキングする事で一振りの大型戦斧に可変の仕掛け武器でもある。

 昨日、初心者狩りで襲ってきたドワーフをぶち殺して手に入れた戦利品だ。

 神憑り的な器用さと足りないオツムが夢のコラボを果たした種族のドワーフが作ったにしては、性能が素直だしHPダメージも悪くない。

 具体的な数値としての攻撃力は470で、恐らく最終盤の武器だ。

 参考までに、現存する使で最強とされるものの攻撃力が510である。

 このダンジョンにおいては掛け値なしの良品だろう。

 コーデ的にもレザーマスクとよく似合う。

 次に、ボクの現時点でのHPは以下のとおり。

【レイ HP:153,000/153,000】

 一見してすげー高いように見えるけど、ボクはこれを運営側のワナだと思っている。

 HPとは、1と0の境目が生死を分けるもの。

 そんな数値を初期値からぽんと10万単位で寄越すと言うのは、プレイヤーの感覚を狂わせるためとしか思えない。

 実際、スタート地点のスライムだとかゴブリンだとかを相手に検証し、ナチュラルに2,000~3,000ダメージをもらって、それは確信に変わった。

 恐らく、このゲームにおいてHP

 だからこちらとしても、今後は100の位を切り捨てた数字で言及しようと思う。

 

 結論。

 上級プレイヤーの野盗を“物理的に”返り討ちに出来る自信があるなら、そいつからさっさと最強装備を奪うのが、プレイ初動の最適解だ。

 ゲームなら、ゴブリンやスライムをひたすら狩り続けてクリアレベルまで上げればいいけど、これは実戦ですし。

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