第50話 外交特権だよ

登場人物紹介

・ヴァルレイ王子 9歳

 軍事大国、ハイリグ魔導国の第二王子。悪戯大好き。娯楽至上主義。あわよくば領土拡大して功績を挙げたいと考えている。『丁度良く、隣接地に領主が不在の土地があるではないか。ちょっと不穏分子増やして独立させてしまおうぜ』というのは裏の顔。表向きは堅物。

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「ディール伯爵!昨夜ぶりだな」

「これは、エレンラント殿下にリリィルア嬢、昨夜は楽しませて頂きました」

「その節は、世話になりました」


 昨夜での彼との会話は、すべて事前に打ち合わせしたものだった。

 結局のところ、叔母は話題の提供しかせず、しかも叔父の事業が上手く回っておらず破綻する事が目に見えていた。

 商人とのパイプが強いディール伯爵はその情報を早い内に耳に入れていたので、早々に切る事にし、私達に協力する事にしたという。

 それ以上に、今回の寸劇が楽しくて仕方がなかったらしい。

 またして欲しいと要望を受けたけど、相手が居ないとできないと断った。

 その代りと時々、交流する事を約束した。

 領主同士ですから、仲良くできるならそれに越したことはありません。


「ディール伯爵に一つ聞きたいのだが、昨夜の客でファングラウルと言う者には詳しいか」

「その者ですか……それでしたら──」


 その時、奥の部屋から誰かが叱る様な声が聞こえる。


「ヴァルレイ王子!まだやるのですか!?もうそろそろ潮時ですよ!」

「五月蠅い、お前こそ昨晩随分やらかしてただろ!」


 片方は子どもの声だった。

 ヴァルレイ王子と言えば、確か本編ゲームでの攻略対象の一人。

 ハイリグ魔導国の第二王子、14歳時点で堅物で軍人そのもの、規律を重んじて実直な人物だった……筈なんだけど、今の言動は雰囲気が違う。


「外国人か、いいのか?王子なら重要な来賓であろう?」

「ええ、息子が相手しておりますので、多分……」

「心配なら、待っているから行ってくるがいい」


 伯爵は私達に一礼し、そのまま奥の部屋に向かおうとした時だ。

 逆に奥の部屋から彼らが出て来た。


「なんだ、話し声がすると思えばここにも面白そうな奴がいるではないか、そこの者、俺の相手をしろ」

「お前、俺に弄ばれたいのか?」

「ヴァルレイ王子!お待ちください!」

「「あ………」」


 王子の付いて来たのはファングラウルだった。

 当然、エレンは咄嗟に戦闘態勢に入った。

 いや、もう斬りかかっている!


「お前ええええええええええええええ!!!」

「おやおや、あの時に怪物ではありませんか」


 腰の剣をさっと抜いて、一瞬で間合いを詰めて斬りかかった。

 それを受け止めたのはヴァルレイ王子だった。


「おいおい、俺の部下に何か用か」

「そいつには、誘拐に殺人未遂及び殺人容疑がかかっている、身柄をこちらに渡してもらおうか」

「ならば正式な手続きを踏むことだな、こいつは外交官だぞ、外交特権を知らないとは言わないだろうな」

「ちっ」


 エレンが舌打ちしながら剣を収めたのを目を疑った。

 あのエレンが矛を収めた!?

 確かに外交官を斬れば外交問題に発展、相手は軍事大国だから大変な事になる。

 それを、あのエレンが理解した!?

 もしかして夢を見ているのかな?

 ちょっと頬っぺたをつねると、やっぱり痛い。


「リリィ、どうしてそんな意外そうな顔をしてるんだ?」

「な、なんでもない、なんでもないよ」

「君が噂のリリィルア嬢か」

「そう……、です」


 ヴァルレイはそう言うと、膝をついてリリィの手を取りキスをする。

 紳士的な振る舞いではあったが、リリィにすればどうにも雰囲気がむず痒い。

 口説こうとしているような雰囲気がそこにあったのを肌で感じ取っていた。


「初めましてヴァルレイだ。君も学園に入学するんだってね、しかも俺と同学年で。いいか、もし何かあれば俺に頼れ、俺は絶対裏切らない、ソイツと違ってな!」

「おい、今のは聞き捨てならないな、俺はリリィを裏切らないぞ」

「そうかい、まぁ当分はそう言っていればいいさ、だがな、俺は嘘つきが大嫌いなんだ、覚えておけ!」


 ヴァルレイ王子はそう言うと、ファングラウルを連れてその場を去った。

 立ち去り際に、ウィンクしてきたのはサッと避けたけど、さっきの言葉が気になった。

 偽装婚約の事を言っているのかもしれない。だとして、どうしてそれを知っているのか。

 さらには頼れってどういう事か。本編の知識が薄いリリィにとってヴァルレイ王子の事はあまり情報を持っていないが、なんだかマズイ気がすると思うリリィだった。


「エレン、気にしない方がいいよ、あれ?エレン!?」


 力なく倒れるエレンを私は見守ることしかできなかった。

 それはさっきの打ち込みの時に一撃貰っていたらしい。

 そんな事も全く気付けないでいた。


 ディール伯爵に客室を借りて、エレンを寝かせてもらった。

 ディール伯爵のお抱え医者に診てもらうと、脳震盪の類だろうと判断される。

 私は、祈る事しかできなかった。


 本当に治るよね。

 エレンの手を両手で握って回復を祈る。

 本当にただの脳震盪であって欲しい。

 そう祈って祈って祈り続けた。


「リリィは俺を独占したいか?」


 起きた、エレンが起きた!


「独占したいって言ってもさせてくれない癖に何言ってるの」

「いいぜ、独占させてやる」


 意外な事を言うエレンに、頭が追いつかず固まってしまった。

 起き上がるエレンの顔が近づく。

 そのまま、唇同士が触れ合う。

 ほんのちょっとだけだったけど、それは間違いなく故意的なキスだった。


「これで、リリィを独占したかな」

「────うん」


 前世も含めて、初めての異性とのキスだった。

 その後、小一時間、赤面してエレンの顔が見れなかったのは言うまでもない。

 そして、リトルルルゥストーリーが始まる時期に差し掛かっていた事に誰も気づいていなかった。


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 以上で第二部及び前日譚の前日譚完となります。


 ここまでお付き合い有難うございます。

 これからも良ければ引き続きよろしくお願いします。

 といっても、少しばかり小休止しようかと思っています。


 結局、強制力は強引なシナリオ改変に対抗し、役者の入れ替えという形を取りました。

 この直後にリリィは前日譚の事を思い出すのですが、主な目的だった、エレンとルルゥの婚約回避は成功しているのかもしれませんね。ただ、今度はリリィの立ち位置がどうなるのか問題になる予定です。(もう既に今回の話でその前兆が現れています)

 リトルルルゥストーリーのイベントの大きな物が実は解決しそうになっている事を本人達は知らないのですが、それはあくまでエレンとルルゥの為にお膳立てされたイベントなのでリリィにとっては周りの人間に影響がないのならスルーするという事を考えていました。

 本来であれば、ゾンビ大量発生もイベントの一つなのですが場所的には十分スルーしても問題ない話ですが、あの人は関わろうとしているのですよね。


 闇組織の対応に追われるエレンと、王都に移り住み淑女教育に追われるリリィ。

 接点が減り、長距離恋愛になるのか、それとも自然消滅するのか。


 それはさておき、前日譚が開始してしまいますが約一名、宙ぶらりんで不幸な少女が居ます。

 母を亡くし、父は牢屋の中。

 当然、恨みを抱いていますし、殺意もあります。

 何せ半年近く虐待し、見下していた相手ですから早々に切り替えれません。

 彼女に未来はあるのか、いじめっ子枠から脱出できるのか、そして全うな人生を歩めるのか。

 先の見えないオリアーナの暗躍に、乞うご期待ください。

 (本題ズレまくりの予告でいいのか私)


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