第46話 夜会デビューだよ1

登場人物紹介

・フレディ・ディール伯爵 25歳 既婚

 ファーネスト侯爵領に隣接する領主。お金大好き人間だが、それ以上に楽しい事が好き。鉱山でミスリルの産出を皮切りに景気が一気に良くなった為か、頻繁に夜会を開催している。

・ファングラウル(U.G.フェアリー商会の若旦那)推定19歳

 銀髪で細身のイケメン、闇組織と繋がってると噂されている人物。優男でやたらモテる。と、いうのは最近の話で以前は大人しい性格で表に出ず、モテなかったらしい。

────────────────────────────────────


 日が暮れた頃、まるで灯に集まる虫の様に馬車が連なっていた。

 それは、ディール伯爵の屋敷で行わる夜会に出席する人々の列で、伯爵は近場の領主、商工関係者、ギルド関係者を集めている。

 鉱山の産出が順調で純度の高いミスリルの取引目当てに集まっている者が多い印象だ。

 勿論、友好を深める場として集まる者も居る。

 最近の話題の発信源はリリィの叔母、オーフェリア・ファーネストとなっていた。


 ◇ ◇ ◇


(オーフェリア視点)


 今日、初めてリリィルアが外出した。

 娘は獣人族が突然現れてメイドもろとも攫って行ったと言っていたが、そんな馬鹿な話を信じる私ではない。

 夜会に行く準備があった事も有り、明日帰ってこないとなれば、その時に対処しようと考えた。


 多分、娘は夜会に連れて行かないからと、拗ねているのだわ。

 旦那を留守番にして、娘を連れてくることも考えないとね。


「ディール伯爵、本日はお招き頂きありがとうございます」

「おぉ、ファーネスト夫人、本日も美しさに磨きがかかっている様子。今日は特別なお方をお呼びしているので、存分に楽しんで頂きたい」


 ここ、最近、頻繁に行われている夜会、可能な限り参加する私を誰も蔑ろにできない。

 私の提供する話題を楽しみに来ている方が多いのですからね。

 といっても話題の中心は姪に対する愚痴。

 殆どが捏造だけど、噂好きの集まりなのだから真偽なんてどうでも良く、楽しい話のネタが仕入れられれば良いという人が大半なのよ。

 私が何も話さなくても、周りから聞きに来る。こんなふうにね。


「最近はどうですか?あの姪御さんは大人しくしているの?」


 最近は特段大きなネタを提供してないせいか、せかして来る。

 仕方ない、ちょっと大きめのネタを提供してあげる事にしましょう。

 捏造の話でも事実を少し入れるだけで、だいたいみんな信じちゃうのよね。


「今日なんて、王子に会いたいと叫んで外出しようとするのですよ。先触れもしないなんて貴族にあるまじき行いですので、涙をのんでお仕置きしましたわ。するとどうでしょう、別の王子の名前をだして、そちらでも良いから会いに行きたいというのです。複数の王子を誑かす淫乱ぶりに王族の方々に申し訳なくて仕方がありませんわ」

「おぉ、それは大変でしたね。そろそろ婚約解消も近いやもしれませんな」

「ええ、性根が治るまで私がしっかりと教育せねばなりません」

「ご立派でございますな」


 今日の掴みはこのネタで決まりですね。

 さて、旦那は旦那で、商工関係者の女性と会話が盛り上がってい様ですし、私も最近お気に入りのU.G.フェアリー商会の若旦那と盛り上がりたい所だわ。

 その当人を取り囲む3名の女が凄く邪魔。

 そんな女なんて、放って置いて私に声を掛けてくるのが当たり前ですわ。


「おや、本日の特別ゲストが来られ……、エレンラント殿下ですと!?」


 会場がどよめいた。

 こんな地方の領地に王族が来られただけでも大事なのに、それがエレンラント殿下ともあれば一歩間違えば自分たちが危険な目に遭うかもしれない。

 その、エレンラント殿下が車椅子をゆっくり押して入場してきた。

 そして、車椅子に乗るのは姪のリリィルア!

 どうしてこんなところに?

 この夜会の事は知らない筈なのに!


「リリィルア!ここは貴女の来る所ではないの、出ておゆき!」


 咄嗟に口が出てしまった。

 小さな扇で口を隠しているけど、目元が不敵に笑っている様に感じられた。

 その名前を聞いて、会場は騒めいた。

 それは今、話題のリリィルア・ファーネスト侯爵その人の登場だからだ。

 実際、今の今まで殆どの者が顔すら知らず、会う事が叶わないと思われた人物だ。

 これまでの散々に言われた噂の真実を確かめたいと思うのは当たり前の事だ。

 うっかり私が名前を呼んだせいで、エレンラント殿下よりも注目を浴びてしまったけど、今のところ好奇の目でしかない。


 そんな、会場の視線を一身に集める中、主催者のディール伯爵がリリィルアに近づき、挨拶をする。


「これはこれは麗しきお嬢様、ようやく私の招待を受けて頂け、恐悦至極にございます」


 ディール伯爵は、リリィルアの手を取り、挨拶のキスをした。

 招待状なんていつの間に受け取っていたの!?

 それに、そんなドレスは持っていなかった筈!あったら売っていたわ!

 主催者がリリィルアを招待していた事に会場は再び騒めいた。

 そう、私はの代理として出席していたに過ぎなかった。


「それで、叔母様、今日は誰ので来られているのですか?」

「誰でもいいでしょう?貴女が知る必要はありません、いいから、早く出て行くのです!」


 くすくす、と、誰かが小さく笑った。

 その騒音が私を焦らせ始める。


「私、出て行った方がいいのかしら?ディール伯爵」

「いいえ、本日の主賓なのですから、是非、楽しんで頂きたい。どうぞこちらへ」

「ありがとう、ディール伯爵。エレンラント殿下、もっと中の方に行きましょう、私、夜会初めてでドキドキしますわ」

「ええ、姫の仰せの通りに」


 9歳の殿下が7歳の少女が乗る車椅子を押す。

 この状況、誰もが微笑ましいと思ってしまった。

 特にエレンラント殿下は気性が荒い事で有名なのに、この落ち着いた感じは天変地異の始まりではないかと騒ぐ程だった。


 殿下の手前、無理矢理追い出す事も出来ない。

 だけど、私の味方はいくらでもいるのよ。

 これまで色々と吹き込んだから、私の言う事に共感してくれるはずよ。


「殿下っ、宜しければ、こちらのデザートをどうぞっ」

「リリィルア様、美味しそうなフルーツを盛り付けてみました。良ければ召し上がってください」


 しまった、小さい子相手と言う事で、母性本能くすぐられた夫人共が一気に殿下やリリィルアにすり寄った。

 それに、有名どころの商会や錬金ギルドの支部長とかがこぞって、リリィルアにゴマをすり始めてる。

 それにしても問題はリリィルアよ。

 あの子がいるだけで、居心地が悪いったらありゃしない。

 そして、殿下とリリィルアの会話が始まる。

 婚約者同士の会話がどんなものか、皆は興味津々だ。

 そして、何処からともなく現れたアレクセント様が声をかけた。


「姫、今日は私が送ったドレスを着て頂けなかったのですね、それが残念です」

「ええ?そうなのですか?わたくし、ドレスを送ってもらった事が無いのですが…」

「なんと!これまで10着も送っていたのですが、それはどこに行ったのでしょう」


 言い終わると同時に、アレクセント様は10枚の内容証明をリリィルアに見せた。

 それを見て冷静になったリリィルアは会場全体に聞こえる程の声で発言する。


「こ、これは、叔母様のサインです!」

「では、そこの代理出席された方が、そのドレスを持っていると?」

「叔母様、どうなのですか?」


 確かに受け取りにサインはした。

 それはすべて、未使用だからと言ってモルヴァン商会に高値で買い取らせた。

 そのモルヴァン商会の頭取が、その内容証明を受け取る。

 どうしてアンタがここにいるのー!?


「おお、恐らく、そのドレス、我がモルヴァン商会が買い取らせてもらった物でございます」

「なぁんですとー!では、の送ったドレスはお金に変えられたという事ですか!」

「そーなんです!他にも40着ほど買い取りましたが、もーしーやー?」


 いや、ちょっと煽ってるのかってくらい演技になっていますわ。

 これはもう、嵌められたと言う事かしらね。


「茶番よ!これはすべて茶番だわ!みなさん!信じないでください」

「叔母様、確かに茶番かもしれませんが、私の物を売却した事は事実です、そうですよね頭取」

「ええ、その通りです。買取時の書類も、こちらに用意させて頂いております!」

「と、言う訳ですわ、叔母様。茶番結構!事実に変わりなし!それをどう説明されますか、お答えください!」


 どうして、こんなセコイ話をされえているのかしら。

 ちょっとくらい良いじゃない。

 どうせ、成人したら大きな財産が自由になるのでしょう?

 甘い汁は分け与えてこそ、親戚というものよ。

 私は悪くない。

 悪いのはすべてこの子よ!


「リリィの教育費にお金がかかるのよ!あと生活費!貴方はお金かかるのです!ですから、それくらい我慢なさい!」

「それは聞き捨てなりませんね」


 突然、割り込んできた、細身の紳士。

 ゆっくりとした足取りで、一歩一歩、私に近づいて来る。

 威圧感が既に怖い!


「必要経費は十分に出しています。食費は成人男性の4倍、多くの貴金属類、衣類のほか、ドレス代は月に20着分、そして生活魔道具化粧品『お肌つるつる若返り美肌スペシャル、うっふ~ん』の代金も申請されていましたよね、これでドレスを売る必要が何処に有りますか?リリィルア様のお持ちになっているドレスは今、何着になっているのでしょうかね?購入時の領収書はちゃんと用意してくれているのですよね!?」


 そうだ、この人、リリィルアの資産管理者だ。

 一度だけしか会っていないせいで、すっかり忘れていたわ。


「それはすべて、旦那が申請した物よ!私は知らないわ!」

「ちがう、全て妻がやった事だ!儂は知らん!美肌魔道具なんて儂が申請する訳がないだろ!」


 ここで叔母は舌打ちをして、開き直った。


「なによ!何が悪いのかしら?こっちは、爵位も無くてずっと貧乏生活なのよ!」

「叔母様、私の父にどれだけお金借りたのか忘れたのですか?そんなに貧乏生活が嫌なら夜会にでるのを自粛されてはどうでしょうか」

「それでもよ!旦那の事業が上手くいかないのも爵位が無いせいよ!その苦渋を思えば、これくらい軽いはずよ!折角、私の元に爵位が転がり込むはずだったのに、貴女が生き残ったせいで……全て貴女が悪いんですからね!」

「はぁ、それで、父に借りたお金や、今回申請したお金、ドレスを売ったお金は何処に使われたのですか?当然、持ってるんですよね}

「もう無いわよ!消えちゃったわ、あっという間にね」


 もう、いいわ!お金は後でどうにかすればいいのよ!

 貴女の復讐はもう十分果たしたでしょ!


 帰りたい。

 この場から逃げ出したい。

 早くしないと、何か嫌な予感がする。


 出口に向かおうとしたその時、道を塞ぐ少年が居た。

 瓶底眼鏡をかけ、白衣を着た少年は私にナイフを向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る