第43話 秘密の密会です

(スミレ視点)


 夜にこっそりお屋敷を抜け出して、ある人達と面会していた。


「もうね!この街すっごく居心地悪いの!

 そりゃあ、地下牢に居る頃には色々、悪評立ったけどさ!

 人の噂は75日っていうじゃない?

 なのに、全然忘れられてないのよ!」


 彼は私には優しく、愚痴だっていくらでも聞いてくれる。

 それに甘えている私も私だけど、わざわざ町を移動してまで聞いてくれるというのは、優しすぎると思うの。


「そうでゲスね、奴隷商の奴らがまだ噂を流しているんでゲス、アイツら執念深いでゲスから」

「もう、代金は受け取った奴隷の噂を流すなんて、意味ないと思うんだけど、最低だわ」

「まぁ、奴らの根性は捻くれてるからな、俺も手を焼いてる」

「殿下は、真面目過ぎるんですよ!そもそも、アイツらと真正面からぶち当たった所で逃げられるだけですって」

「そうでゲスよ、目には目を、歯には歯をでゲス」


 エレンラント様は黙り込んでしまった。

 この人、基本的に脳筋だから、こういうの考えるの苦手なのよね。

 まぁ、それが可愛くて良かったんだけど。


 ここは、宿屋の一室。

 私達はまだ9歳で夜中にどこかのお店に行くってだけで十分目立つ。

 駐屯地というのはエレンラント様が嫌がった。

 それは、自分の部下を疑っているという状態を示唆している。


 つまり味方が居ない今、自らの伝手で味方を増やそうとしている。

 そんなの、エレンラント様らしくない。

 ゲーム中でそんな誰かを頼るなんて、シーンは無かった。


 彼には『いつも孤高で孤独、故に最強』なんてフレーズもあった。

 それを地で行くのがエレンラント様の筈。

 結局そのせいで、婚約破棄しちゃうんだけど。


「今日はファイアエッジは来ないんでゲス?」

「ああ、彼らには既に任務を頼んでいる」


 冒険者パーティのファイアエッジ、彼らも私達同様に選ばれた仲間。

 その用事というのは、私が提供した情報の調査。

 そうなのです、私がこのチームの(自称)参謀なのです!

 まぁ、ただの情報屋なんだけど、参謀の方がカッコいいでしょ?


「そうそう、今日の本題です、こことここに怪しい建物があるんです」

「いつもすまないな、スミレ」


 私は前日譚の知識を総動員して、シーンの背景を現実の街並みに当てはめては闇組織の場所の特定を行った。

 ゲーム中には背景画が多様に用意されていて、それを私は全て覚えていた。

 前世ではそれが何の意味があるのかと言われると、趣味としか言いようがない。

 ただ、この世界に転生した以上、所謂、聖地巡礼みたいな感じで場所の特定だけでなく、ぴったりのアングルまで全てチェックする事が出来る。

 それが異世界転生の醍醐味じゃない?


 今回、特定できたのは2か所。

 恐らく、片方は悪の組織『地下に潜む妖精アンダーグランドフェアリー』の本部。


「その場所には突入するのですか?」

「今はしない」

「どうしてですか?」

「今、リリィが人質みたいな状態だからだ。恐らく、リリィの叔父か叔母が闇組織と繋がっている。せめて王都に連れ出す事が出来れば、自由に行動できるのだが」


 エレンラント様は本当に変わってしまった。

 この人は、あのゲームでのエレンラント様ではない。

 それもこれも、リリィルア様の影響なのでしょうか。

 リリィルア様の何がエレンラント様を変えたのか、とても気になります。


「それほどまでに、リリィルア様が大事なのですね」

「そう、だな、とても大事(なライバル)だ」

「(恋愛的に)そう想って貰えればリリィルア様も幸せでしょうね」

「そうか、幸せか、俺と同じ様に(ライバルとして)思われているとはな……」


 エレンラント様は頬をぽりぽりと掻きながら、嬉しそうな表情をしている。

 それは相思相愛になっているとでも言っている様に取れた。

 これなら婚約破棄イベントは起こらないかもしれない。


「二人の関係ってどこまで進んでいるんですか?」

「どこまでとは、何だ?」


 あー。

 そうですよねー。

 そういう方面って、おこちゃまなんですよ。

 どこまでも純情。


 恋愛を知らない、心の奥底から愛さず、愛されず。

 リリィルア様との婚約の経緯は知らないけど、きっとそういう感情が芽生えたのよ。

 ならば、私は後押しするしかない、そうでしょう?


「まずは、そうですね、手は握りました?」

「した事はないが、どうして繋ぐ必要がある?」

「もちろん、拘束する為よ。この子は私の物だって宣言するような物ね」

「まて、リリィは物ではない」

「えーと、うん、そうなんだけど、結婚って言うのはそういう物なの、その前段階の手順みたいな物ね」


 既に理解できていないという顔をする。

 些か早急な説明にはなっているのだけど、やっぱり何もわかってないんだ。

 もう、いっその事、色々飛ばしちゃおうか。


「次の段階は、抱き合う事ね」

「抱き合って……なにするんだ?」

「抱きしめる事で、女の子は安心したり、ドキドキするの!」

「正反対の事が起きるのか!?忙しいな!」

「え、あー……うん、初めての頃はドキドキするけど、慣れてくると安心するようになるのよ」

「それは、どっちが良い事でどっちが悪いなのか?」

「いい事なんです!手を繋ぐ事よりもより一層、自分の物にしたいって意味合いです」

「女は拘束が好きなのか?」

「そ、それは後で答えます…」


 ええ、好きですとも!


「次の段階は、接吻ね」

「接吻?」

「そう、唇と唇を合わせる事よ」

「それにどういう意味があるんだ?」

「そうする事で興奮するのよ、あと、お互いの好きを確認するわ」

「好きとは?」


 ……。

 それって最も面倒な質問だよね。

 どう答えよう…。


「ええ?そこぉ?そうねえ、エレンラント様は戦うのが好きでしょう?」

「うむ、そう言う意味の好きは分かるぞ」

「それと一緒なんだけどな、女の子相手だと、付き合いたい、一緒になりたい、結婚したい、子どもが欲しいって感じ」

「お、おう……」

「分かってないなぁ?じゃあ、ずっと一緒に居たい、ってのならわかります?」

「ああ、それなら分かるぞ!」


 よかった。

 子どもの作り方とか聞かれたらどうしようかと思ったよ。

 そういうのはリリィルア様に任せよう。


「一つ質問です。例えですがエレンラント様は、リリィルア様がアレクラント様と仲良くしています、そういうの嫌ですか?」

「────イラっとくる……」

「それですよ!他の男に取られない様に自分の物にしたい、結婚ってそういう物ですよ!」

「なるほど、つまり結婚は力で掴み取れという事だな!」

「え?あ、そうです!その通りです!」


 もう、これでいいやって半分諦めた。

 問題はエレンラント様だけじゃないんですよ。

 実はリリィルア様も、かなり知識不足だったり恋愛感情に欠如が見られるんです。

 いっそ、恋に落ちれば良いと思うんだけど……。


 実の所、リリィルア様はあの屋敷を出る決意をしたものの、もう少し何かの切欠が足りない状態なのです。

 実際、ただ出て行くだけなら簡単なのですが、そんな事をすれば、あの叔母が誘拐だとか騒ぎ立てられるに決まっています。

 ですから、戻らなくても良い様に私達が下準備をしているという状態です。

 いっそ、叔母あたりを恨むことが出来れば……。

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