第35話 叔母が来たよ
父方の弟、所謂分家にジェイラス・ファーネストという方が居る。
私から見れば叔父にあたる人だ。
殆ど会う事がないので、忘れそうになる程度の人で、娘は私と同い年だ。
娘の名前はオリアーナ・ファーネスト。
その母の名前はオーフェリア・ファーネスト。
平民の出で私の母に何かとキツく当たる人だから、私は好きになれない。
それはまぁ、よくある話。
叔父さまは事業が上手くいっていないからと言って、父に融資を頼みに来る。
陞爵と領地拡大で羽振りが良く見えたのだろう、分家にもお金を恵んでよって思うのも分からなくもない。
大体の貴族に事業の経営能力なんてない。
叔父さまもその一人だ。
これまでいくら貸しているのか考えるだけで眩暈がする。
それが、我が家の貧乏である要因の一つではあった。
もちろん、私は自分が負担をかけている事は分かっている。
だからと言う訳じゃないけど、それをとやかく言うつもりはない。
ただ、贅沢な装飾品に身を纏っている叔母さまとその娘には少々思う所がある。
今日は、その叔母さまがやってきたので、かなり憂鬱になっている。
いつもの様にノックも無しに部屋に入り猫なで声を上げた。
「リリィルアちゃぁん、今日は元気みたいね~、叔母さんの事覚えてる?」
「はい、お久しぶりです、叔母さま、今日はどうなされたのですか?」
用事済ませて早く帰ってね?
どうせまたお金を借りに来たんでしょ。
返す気のない無利子借金がまた増えるよ。やったね!
「たまには姪の元気な顔を見ておくのも、私の役目なのよ。数少ない親戚なのですからね」
「そうでしたか、それは有難いお話です、この通り最近は元気に過ごしています」
何気に私、感情を全く出さずに対応をしていると思う。
今、能面をつけてても違和感ないんじゃないかしら?
能面ほしいな、この人達を相手にする時だけ。
「まぁそれは良い事ね。そうそう、最近、エレンラント殿下やアレクセント殿下が良く来るのですって?羨ましいわぁ、娘に紹介して頂けないからしら?」
「あの方々は事務的な用事で来るだけなので、特別仲が良い訳ではないのですよ。なので、紹介するなんて
正直に言えば、娘のオーフェリアは私の事が嫌いだし、私もオーフェリアの事は嫌いだ。
何かにつけて馬鹿にするし、乱暴だし、人の言う事を聞かない、親戚じゃなきゃ出禁にするところですよ。
今日は来ていないから、まだ私の心は平穏です。
無の境地で接するだけです。
「それなら仕方ないわね、じゃあその代りに、魔力草の種を少し分けてもらえないかしら?」
その代りって意味が分からないんですけど。
どちらか入手する事ってミッションでもあるの?
当然嫌ですよ。ほんとにたかる事しか考えていないんだから。
「どうしてですか?あれはお父さまの管理下なので、私の口を出すところではありませんよ?」
「それがね、娘の教育費が払えなくなりそうなのよ、ほら貴族教育ってお金かかるじゃない?」
だったら、そのじゃらじゃらと身に付けているアクセサリー類、売ってしまえば?
正直言って、不愉快でしかない。
金持ちアピールするなら、金持ちになってからやってよ。
「そうでしょうね、でも私には融通できない事ですよ、私はもう関わっていませんから」
といった、やり取りが更に30分程続く。
先生が出て来て「俺が追い払おうか」とまで言ってくれたけど、それはお断りしました。
色々怖いからね。いちゃもんが。
翌日、その娘の方が来た。
両親は、叔父と叔母の対応でここにはいない。
これまでと違って、お姉さまも居ない。
割と気分は最悪で、天気で言うと雷雨時々メテオと言ったところです。
「お姉さま!お久し振りです、お元気だと聞いて挨拶に来てあげたわ」
「ありがとう、オーフェリアもお元気そうで何よりです」
一応、私の方が生まれが早い、殆ど変わらないけどね。
体格についてはお察しください。
精霊界に行った事で1年分は成長が多い上に、元々病弱だった分、栄養素が体に回ってなくて、精霊界に行く前の時点で頭一つ分の身長差が出来ていた。
既に彼女から見れば、私は2~3歳下に見える感じです。
「それで、エレンラント様とどこまで行きました?」
「どこって、フレールの街までですよ」
「行った場所ではなくて、恋愛的にですよ、AですかBですか、まさかCまで!?」
なにか古い用語がでてきました。
Aって何でしたっけ。ああ、思い出しました。
たしか、ライバル同士が友情を深めるステップでしたよね。
「最初はBから始まって、Cになって、今はAですね」
「ええええ、おとなですわ~!」
たしか、Aがアシスト(助け合い)、Bがバトル、Cがキャッチ(受け止める)でしたっけ。(前世姉の入れ知恵)
出会いは、森の中で戦い(バトル)でしたし、お姫様抱っこがキャッチになると思うのですよ、そして、あの屋敷では魔物退治を担当してもらったので助け合い成立、完璧なBCAです。
あれ?Bは敵対でもいいんでしたっけ?
「私達7歳ですよ、まだまだ子どもです」
「でもCまで行けば大人ですよっ、さすが王子様!手が早い!」
「そうですね、確かにエレンは(攻撃の時に)手が早かったですね、私は(フォーグが)押し倒されるのを黙って見るしか無かったわ」
なぜか、力なく倒れるオーフェリア。
エレンの戦闘の話は、刺激が強いのかしら?
もっと具体的に言えばどうなるか、ちょっと興味があった。
でも、それを言う事は出来なかった。
「あ、鼻血でてきた」
「ちょっとっ、はい、ハンカチ、これで拭いて!」
「お姉ざま、もぢかぢて、一線ごえでいまぜんよね」
一線?って何かしら。
死線の事?
精霊の森で、エレンから逃げてフォーグと二人きりになったあの時、下手すると死んでいたかもしれない。
そうでしたね、一瞬は死を覚悟しました。
あれは今、思い出すだけでもホロリと泣けてきます。
それだけの恐怖がありました。
ハンカチが手元にないので、少し出た涙を拭いながら答えた。
「(死線を)超えましたね。死ぬかと思いました」
ふしゃああああああああああああ!
勢い良く吹き出る鼻血にデジャブを感じる。
でも、私にはどうしようもないので、諦めて見ていました。
そんなに体調が悪いなら、来なきゃいいのにね。
でも、今日はまだ、まともに話しができて良かったと思う。
いつもこうなら、いいのにね。
ただし、鼻血は勘弁してほしいです。
────────────────────────────────────
登場人物紹介
・ジェイラス・ファーネスト(平民)
リリィの父を少し冴えなくして小太りにした感じ。
最近、浮気しているのがバレているが、お互い様なので不問にされた。
・オーフェリア・ファーネスト(ジェイラスの妻)
それなりのスタイルに美貌の持ち主だった。自分の美貌の為への投資なら金に糸目を付けない。宝石が大好き。性格は自己中心的、我儘。
・オリアーナ・ファーネスト(ジェイラスの娘、長女) 7歳
母親を手本として育った為、性格を引き継いでいる。勉強が嫌い、爵位持ちの父を持つ、リリィとルルゥが大嫌い。王子と結婚したい願望が強い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます