第34話 第三王子まできたよ(涙)3

 服を引っ張る、クリムラント様に必死で抵抗する私。

 この人、本気だ!本気で服を脱がそうとしている!


「ささ、脱いで脱いで」

「いーやーでーすー!」

「我儘だな、じゃあ僕が脱ぐから一緒に脱いでよ」

「全っ然っ、意味わかんないんですけど!?」


 本当に意味が分からない、何考えてるの?

 クリムラント様が自分の服に手を掛ける。

 (たぶん)美少年だから、ちょっと見てみたいというのはあるけど、見たなら見せろと言われるのは困る。

 私は、シーツを被って反対方向を向いた。

 これで完全に見えないし、見られる事もない。

 見たか、これぞミノムシ防御術だ。


「あらら、僕は見られても構わないんだけど、どうしてそんなに意固地になるのさ?」

「これが普通なんです!」

「女の子相手だから、助手連れてこなかったんだけど、そんなに嫌がるなら次から連れてくるよ」


 マッドブラッドドクターの助手ゴーレム

 そういえばそんな人も居た。クリムラント様と同じ位ヤバイ人だよ。

 ゴーレムとまで言われる巨体で力作業を何でもこなす。

 もちろん、泣き喚く被検体を押さえつけ無理矢理……って言うのも彼の役割。

 それが、この部屋に来るなんて考えるだけで恐ろしい。


「そうか、裸を見られるのが恥ずかしいのか、ならば目隠しをすればいいのではないか?見られてると分からなければ、見られている事にはならんだろう?見られてない可能性があるのだから、見えてない以上、それは確定しない。つまり、リリィルア嬢が目隠しをする時点で僕は何をしても何もしてない事になるのさ」


 これ、反応したら負けな奴だ。

 きっともっと複雑な論理を展開してくる。

 論理は無茶苦茶で身勝手な事を言ってるだけだ、両親に助けを求めたいけど、こんな危険な奴に関わらせたくない。

 王族なのだから、最悪な場合不敬罪とでも言って……、あれ?違う。

 前日譚の中じゃ権力をかさに何かをしたというシーンは一度もなかった。

 有無を言わさず黙々と作業する事が多かった分、さっきみたいな無茶苦茶な論理を展開するのは少し意外に感じる。

 もしかすると、そんな理不尽な人ではないのかも。


「くしゅん、うう、裸だと冷えるね、ちょと入らせてもらうよ」


 といって一緒のシーツに潜り込んでくる。

 体同士をぴったりと合わせる様に背後にくっつかれた。

 さらに寝間着の下から手が侵入する。


「ちょっと、止めてください!怒りますよ」

「見られたくないなら、見ずにやるしかないじゃないか。ちょっとお腹の当たりと、胸のところに魔道具押し当てるだけだから」


 お腹には既に何かの魔道具がぺたっと押し当てられていた。

 もうそれだけでも限界超えているのに、胸までっ何考えてるの!

 引き剥がそうにも相手の力は強く、私の力が貧弱なせいで殆ど抵抗になっていない。

 上向きにされて寝間着も胸元まで捲り上げられ、さらに上に乗っかられてしまった。

 恥ずかしさの余り、腕で顔を隠すと、胸元に冷たい感触当たる。


 恐る恐る、胸に当てられた魔道具を確認すると、全裸のクリムラント様の四つん這い姿が丸見えになっている。

 不可抗力ですー!!みたいなんて思った訳じゃないんですー!!ってあれ?

 目を疑った。

 そこに有るべきものは無かった。


「あの、男装だったのですか?」

「んーそうだよ?別に隠してる訳じゃないんだけどね、知らなかったぁ?」


 全身をぴったりくっつけてくると、柔らかさが伝わって来る。

 エレンと比べると二の腕の堅さも違う。

 まぁ、胸の大きさはお互い絶壁だけどね。

 そうか、本編に出てこなかったのは、胸が大きくなったとか、体つきが女性その物になってしまったからなのかな。


「じゃあ、女の子同士って事で、パンツも全部脱ごっか、僕だけ全裸って平等じゃないと思うんだ」


 男装女子の僕っ子、瓶底眼鏡に白衣。

 属性盛りすぎじゃない?

 なんだか、すっかり抵抗する気がうせてしまった。

 もう好きにして。


「もしかして普段あまり声を出さないのって」

「声が高くて嫌いなんだよね、女と思われると舐められるからなぁ、ってどうしてそんな事を知ってるんだい?」

「う、噂で~かな?」

「まぁいい、じゃあ続きの診断だよ」


 それから、頭や手足、お腹、胸にそれぞれ数か所もの何かのシールを張りつけられた状態で服を着た。

 服が無ければ、まるで誘導心電図でも取るかの様な状態だ。

 その状態でクマに乗って歩き回ってほしいと言われ、素直に従う。


「ははーん、成程ね。うん。成程、成程。普通の魔法使いなら、胃袋の真横にある臓器で魔力を練成して発動先、普通は片手、熟練者で両手に流すんだけど、リリィルア嬢の場合、発動先だけじゃなく、四肢全体に流れてるね、と言うかこれは漏れて行き場の無い魔力が手足に行ってるって事かな」


 なにか一人で納得しているが、私にはいまいちピンとくる内容ではなかった。

 多分、頭の構造が違うんだよ。


「その四肢に行った魔力ってどうなるのですか?」

「今のは魔法発動前の話、発動する共に普通なら片手か両手に集まった魔力を放出するのだけど、リリィルア嬢の場合は、発動と同時に放出せずに、大半を対象物に纏わらせている。これだと実に魔力の消費は無いと言っていい。発動さえしてしまえば永久機関として操り続けれるんだよ、素晴らしいよっ、これなら、僕のアレも君なら乗りこなせるかもしれないなっ、素晴らしい、ホントに素晴らしいよ!」


 何かに満足したのか、鼻息を荒くして次の実験の準備を始める。

 次の実験といいつつ、巨大な杖と、小さな杖、あと小さな扇子を持ち出した。

 最終的には


「は、はぁ…」

「君の為に、作った試作物だけど、ちょっとこれで攻撃魔法を放ってみて」


 最初に渡されたのは私の身長よりも高い杖、およそ150cmくらいある大物。

 持った感じはかなり軽く、持つ所と、杖の先の方は材質が違う様に見えた。

 そっと、魔力で包もうとすると、芯の部分にだけが魔力で包む様になっている事がわかる。


「もしかして、これ、芯の部分以外は、魔力を絶縁する何かですか?」

「お、勘がいいねっ、そうそう、僕が開発した魔力絶縁体素材なんだよ。芯の部分は逆に魔力増幅素材でね、それで魔力を放てばいつもより強力な魔法が筈さ」


 そう言い終わると、クリムラント様は咄嗟に別の眼鏡をかけた。

 きっとその眼鏡も何かの魔道具なんだ。


「うむ、予想通りの魔力の使い方だね、とりあえず、遠くに見える山に向かって撃ってみて」

「やってみます」


 また、屋敷を壊すと危ないので、先生にクマを操縦してもらってバルコニーに出た。そして、魔力を充填させて、感覚をイメージしながら、杖を振り下ろした。


 その瞬間、杖の直線上にある山の木々が全てなぎ倒され、轟音が鳴り響く。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオン


 耳が痛い程の轟音が私の鼓膜を攻撃する。

 そして、目の前の景色に唖然としてしまった。


「リリィルア嬢、あれ!あれを見ろ!」


 クリムラント様が刺す方向を見ると、そこには月が浮いていた。

 くっきりと線状の痕が残った月が。


「うはー、やっぱりすごいなあ、爆発こそしなかったけど、そういう魔法なのかい?」

「いえ、まだ、攻撃魔法は練習中なので、爆発させるところまでは出来ないのです……」

「にしても、あれだけの事をして、魔力の消費は殆どなしか、本当にどうなってるんだい?見た感じ、一直線上に魔力を放出した様に見えたけど、まさか放出じゃなく、伸ばして戻したって事か?うん、そうじゃないと魔力の消費がない事に辻褄が合わなくなる、ならばそうなんだろう?そうだと言ってくれたまえ!」

「ええ、多分そうですね」


 やらかした事に対して、まだ茫然として事実を受け止められていない。

 もしかすると私、凄い事しちゃってる?

 そして部屋に戻った途端に、部屋の外からバタバタと足音が聞こえて来た。


「リリィ!次は何を壊したんだ!?」


 父がまたしてもドアを勢いよく開けて叫んだ。

 さっきの件があるから、今度こそ私が犯人だと思われている。

 決めつけは良く無いと思いますよ。

 そんな状況で、クリムラント様はあぐらをかいて何かをメモしていた。

 全裸で。


「って、クリムラント様!服着て!服!」

「うん?ああ、後でな」

「だーめーでーすー!!!ってお父さま!見ちゃダメです!」


 唖然としていた父にシーツや枕を投げつけて目くらましにする。

 いくら父でも王女の裸は見た駄目でしょ!

 もうやだ、この人の相手するの凄く疲れる。

 もう好きにしていいから、用を済ませて早く帰ってほしい。


 それから簡単なの検査が終わった後、お母さまが作ったタルトを一緒に食べた。

 お母さまの手料理、久しぶりです。

 いつか私も作りたい、母と一緒に台所に立つなんて前世でも夢でしかなかった。


「もぐもぐ、このタルト中々いけるねぇ。甘いものは良い。頭脳が冴えてくるよ」

「頭を使うと血中のブドウ糖を使いますからねぇ」

「ん…?ブドウは食べていないが?まて、血中のって言ったか?そこをもっと詳しく」


 あーもうっ、本当に何かと面倒くさい。

 でも、クリムラント様は落ち着いて話すと、そんなに怖い人じゃない。

 特に甘いものを食べている時はただの女の子に見えた。

 友情の証として、ペン程の小さな杖をオマケで貰って、愛称で呼ぶ事を許された。

 それでも、年上の女性なのだから、様付で、クリム様と呼ぶ事にした。

 と言っても、会う事がないに越したことはない。

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