第33話 第三王子まできたよ(涙)2
お日様を背にして窓から現れた侵入者は不敵な笑みを浮かべていた。
どうして王家の人達は窓から入ろうとするのだろう?
そういう教育が施されているとでも言うのだろうか。
過去の知識がこの人に近づいてはいけないと警鐘を鳴らす。
わかっているけど、相手が勝手に寄って来るのだから仕方ないじゃない。
こうなったら、丁重に追い返すしか道は無かった。
って、帰ってくれるなら、世話無いよね。
「この入口の解放は歓迎の証と取って良いのかな」
「いえ、窓は入口ではありませんので、お引き取りください(人の事はあまり言えないけど)」
「では入らない。ここで見つめているよ」
じー。
わざわざ窓を閉めて、外からマジマジと覗いている不審者が居ます。
ここにはお母さまも居るのですが、反応に困っているのか固まっています。
どうしたらいいのですか?
先生、攻撃魔法教えて貰うの、今でもいいですか?
そんな事を考えていると、我に返ったお母さまがツカツカと窓に向かって歩き、不審者に声を上げる。
「あなた!最初の第一声がそれはどういう事なの?王族ならキチンと挨拶なさい!」
ああ~、そうですね~。
母よ、もっと別の所にツッコミ処があると思うのですが。
先ずは先触れを出して、後日玄関から入って、それでようやく挨拶ですよね。
「これは失礼しました。僕はクリムラント・グレイスラント、この国の第三王子になります。以後お見知りおきを、リリィルア嬢、と、その母上殿」
「まぁまぁ、では、お入りになって、後でお飲み物運ばせますね」
そして、「ではごゆっくり~」といって退場する母。
え、ちょっとまって、置いてかないで~~~。
どうしてご機嫌になってるの?お母さまの感性について行けない!
そして二人っきりになった途端に、クリムラント様は、瓶底眼鏡に隠れた顔とは思えない程に表情豊かに微笑んでいる。
この人が、微笑んでいる時、それは即ち、実験素体が目の前に居る時だ。
私はこのまま、解体されてしまうのかもしれない!
そんな記憶とは真逆に、落ち着いた感じで質問をしても良いか聞いて来る。
まぁ、それくらいならと言った感じに答えると、その表情は突然変わった。
興奮が隠せないと言わんばかりに極限まで顔を近づけ、鼻息を荒げ、怒涛の如くの勢いで、質問を繰り出した。
「では、君、不思議な魔法を使うんだってね、クマを操る魔法って何なんだい?このクマの縫いぐるみだよね?この短く爪もない手でどうやったら狼の首を斬り落とせるんだい?走ると早いんだってね、僕とどちらが早いかな?木の上にも登れるんだってね、部屋の二階にも上がれるとかどうやるんだい?常に宙に浮いてるとかホントに神秘的だよね、そこの窓枠も君が潰したのかい?鋭い刃物で斬ったみたいな痕になってるよ!すっごく凄いね!そんな魔法は見た事がないし聞いた事もないよ、自力で編み出したのかい?それとも誰か師匠でもいるのかい?居るなら僕にも紹介してよ、お金ならいくらでも出すからさ!ねっ?ねー????」
寡黙な研究家と呼ばれてたはずなのに凄く喋る、しかも大声で。
それも滅茶苦茶早くて何を言ってるか分からなかった。
というか、ちょろっと聞こえた範囲で、冒険者の方々しか知らないような内容を知っている。
どうやって知ったのだろう。
「ごめんなさい、早口すぎて聞き取れませんでした……くしゅんっ」
「…おぉ、窓の上の穴から風が入るね、あれはそういうデザインで犯かったのだな、まぁ、仕方ないな」
そう言うと、何かの魔道具を取り出し、穴に向けた。
穴が紫色に光り、徐々に状態が復元して行き、あっという間に完全に元通りになってしまった。
まるで手品、というよりは、お伽噺の魔法の様だった。
素敵な道具すぎて、ちょっと欲しいです。
「ほい、この状態で固定っと。あ、この道具の存在は秘密ね」
「そ、それ何なのですか?時間遡行?復元魔法?何なの???」
「大体正解、局所的に時間を巻き戻すんだ。名付けて時間遡行復元機!固定しなければまた穴が開いた状態に戻るよ、殺人事件があればコレで犯人とか分かるんだぜ?面白いだろ?」
ふぁー。コ●ンも逃げ出すアイテムだね。
流石は天才、魔学の申し子と言われるだけはある。
実際こんな物が明るみに出れば、大騒ぎになるのは間違いない。
世の中の探偵が一斉に店じまいしてしまう。
この世界に、探偵なんてあるのか知らないけどね。
「凄い物が作れるのですね」
「ふふん、凄いだろう?もっと褒めてもいいんだよ……ってじゃなくてだ、君を調べたいから体組織を少し貰いたいんだ」
「体組織って、どれくらいですか?」
「先ずは唾液から、涙、耳くそ、鼻くそ、しょうべ──」
「嫌です!唾液と涙はともかく、他は絶対嫌です!」
まるで困った子どもを見ている様に、ため息をつく。
そして咳払いをして、くるりと回った。
片手を上げて、まるで何かを演じてるかの様に振る舞いながら──
「君はこの崇高な研究を理解してない様だね。簡単に説明すると君を研究する事で、今後の魔法の発展に大きく貢献できるんだよ?君の名前が歴史に刻まれるんだよ?これはとんでもなく名誉な事なんだ!わかるよな?わかるよね?わかったよね?」
「いえ、別に有名になりたくないので、遠慮します」
「そうかそうか、分かってくれて良か…って何で断るんだ!」
知っていたけど、とんでもなく面倒な人だ。
世間一般的に、こういうの押し売りとか言うんだっけ?
兎に角、どうにか帰って貰えないかな。
「じゃあ、触診で我慢するよ」
「どこ触るのですか?」
「先ずは手かな。手を出して」
「うーん、仕方ないですね。はい」
手を出すと、手首で脈を取り始める。
かと思えば、柔らかい布のような物で私の手首を巻いた。
包帯?どうして今、包帯?
それから、その布に液体を数滴垂らした。
その垂らした場所を見て「フム」と一言呟く。
なにやら眼鏡に何等かの細工があるみたいで、操作しながら確認していた。
「じゃあ次は足ね」
「うーん、……はい」
足首にも同じ様に布を巻いて液体を垂らす。
「これって何なのですか?」
「ああ、只の聖水だよ、これで苦しんだら悪魔か魔族なんだよね」
「そんな事を疑っていたのですか?」
長いため息をついて、面倒そうに答えようとする。
そんな態度悪いなら、帰ってほしいんだけどなぁ。
「全ての事柄に疑ってかかれって言うじゃないか、それに魔法の系統が違うのなら、ソッチ系の可能性だって否定はできない」
「そんなの聞いた事ありませんよ、それでこれで終わりですか?」
その問いに対して、信じられないといった表情をする。
終わりなわけがないだろう?とでも言ってる様だった。
「次はお胸ね、さぁ、服を脱いで」
「駄目に決まっているでしょ!」
「どうしてだい?医者には見せるだろ?」
「貴方は医者じゃないですよねっ、ただの王子様です!女性でもありません!」
「いや、医者だ。僕は医者だよ」
真顔で言っていますが、そんな事信じられる訳がありません。
医者なら医師免許くらい持って来てもらわないとね。
そんな免許が、この時代にあるのかなんて知らないけど。
「自称医者は信じられません、医者を呼んだ覚えもありませんから!」
「じゃあ女ならいいのかい?」
「ま、まぁそれならいいですよ、それでも恥ずかしいけど」
「じゃあ僕、女だから脱いで」
「なんでそうなるのですかー!」
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