第32話 第三王子まできたよ(涙)1

登場人物紹介

・クリムラント・グレイスラント(第三王子)10歳

 大きな瓶底眼鏡をかけて、表向きは知的をアピールしている、実は美形である事を隠してた。隠された素顔から女子からの人気は高いが、その性格は少し人間の枠からはみ出ている。白衣を好んで着用している。とある理由により前日譚のみ登場。

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 陛下は再び頭を下げた。


「あと、重ねて申し訳ないのだが、クリムラント(第三王子)がリリィルア嬢に興味を持ってしまった」


 血の気が一気に引いた。

 あの寡黙な研究家、実験好き、魔学の申し子、マッドブラッドドクターのクリムラント!

 王位には全く興味を持たず、ひたすら知識を渇望した人。

 今、10歳で、前日譚の1年前だから、設定上、この時期から非人道的な人体実験を始める。例えば血を何処まで抜いても人間は生きていられるか、人間は死後に軽くなるかという魂の重さの確認、過剰に魔力ポーションを飲んだ者がどうなるか、降霊術で一人に対して何人まで霊を入れれるかを研究している筈、総じて被験者の死亡率が高すぎる実験を何の後ろめたさも無くやり遂げていた。

 それによる死者はそろそろ出始める設定頃合いだ。

 そして前日譚ではエレンの強さに惚れて、何処までも隠れて付きまとう完全なストーカーだった。

 強敵との闘いで傷つき、身動きが取れない時を見計らって颯爽と現れては試作した回復薬を躊躇いも無く注入する。

 ポーションの服用の仕方は振りかけるか飲むのが主流だ、なのに何故か注射器を使っていた。

 この世界の、というより第三王子の衛生概念がどうなのかとても気になる所、というか絶対危ない。

 あははは、陛下、何かの冗談ですよね?冗談だと言ってくださいいいい!


「クリムにぃが、だと?」


 殿下の話を聞いてエレンが震え、搾るような声を出す。

 これは、既にエレンもられてるのでしょう。

 私だって、ちょっと手が震える程度には怖いです。

 両親とお姉さまとレニちゃんはそれがどうしたのか分からず、蚊帳の外状態になっている。

 アレクは当事者じゃないので、残念がる程度の様子。


「まだ、リリィルア嬢は行方不明だという事にしてはおるが、耳に入るのは時間の問題じゃ、間違いなく、これから迷惑をかける、すまぬ!」

「い……いえ、ど、努力し……ます」


 何をだよ。

 思わず口に出た言葉に脳内ツッコミが入る。

 そもそも私のドコに興味を持ったの?

 まさか、私、解剖されて死に至るかじゃないよね!?

 それがシナリオの強制力とか言わないよね?

 せめて1年は生き延びないと、



 結局、その日は集まった皆さんは陛下を除き、屋敷に泊まった。

 楽しい騒動は翌日まで続き、その夜には一人減り、二人減り、三日目には全員が元居る場所に帰った。

 お姉さまは修行、レニちゃん家業の手伝い、エレンは調査団を率いて、アレクは皆に触発されて自主練の為、王都に戻った。

 シナリオを改変したくても、お姉さまが身近に居ないと何もできない。というか考える気が全く起きない。

 目標がぽっかりとなくなった様な感覚がある。


 今、私にできるシナリオ改変なんて、私自身が生きている事だと思う。


「おいおい、全く元気がネェな」

「フェンリル先生、私、何したらいいと思う?」

「歩行練習でもしたらどうなんだ?」


 精霊界でちょっとやって以前と変わらないと思って止めてしまっていた。

 今思うと、皆が成長してるのが羨ましい。

 私もなにか目標を見つけられればいいのにね。


「それはもう諦めた」

「じゃあ、攻撃魔法の練習してみるか」

「それ!忘れてた!やりたい!」

「そんな事だと思ったよ、ちょっくら枝を拾って来てやる」

「枝?」


 木の枝にも丁度いいとかあるのかな?

 10分くらいして、先生は枝を咥えて戻って来た。

 サイズにして、30cmくらいの割と真っ直ぐ伸びた枝だった。


「このサイズがベストなの?」

「入門用ならこれがいいな、慣れたらもっと短くていいぞ」

「入門用が長いってどういう理屈なの?」

「魔力で包むのに、短いと不安なんだ、うっかり手前の方で発火すれば手が燃えるからな」


 多分、ガスライターみたいな感じかな?

 手元で爆発したら危ないものね。


「それはおっかないねぇ~」

「それじゃ、訓練始めよう、まずは杖を魔力で包んでくれ、クマみたいにな」


 それくらいはお茶の子さいさいっと、ぱっと包み込んだ。

 更なる指示で、枝がもっと長いと想像して包み込む様にイメージする。


「あれ?意識すると難しいね」

「前に森の中で狼を切った時はどんなイメージだったんだ?」

「あれは、遠心力を利用して腕を刃に見立てて、伸ばしていくようなイメージだったかな?」

「ちょっと外に向かってやってみ?その枝で」

「う……うん」


 先生が窓を開けてバルコニーを指差す。

 言われるがままに枝を振り、伸びる枝をイメージする。


 ブンッ、と軽い音とほぼ同時に、ドオオンと言う轟音が鳴った。

 何かの破片が飛び散り、周りは白い煙が立ち込めた。

 何!?何が起こったの!?


「ば、ばかっ、やりすぎなんだよ!」


 煙が収まって見えたのは、窓より上部が20cm程抉れた痕跡。


「こ、これが攻撃魔法?」

「まだだ、爆発させないと攻撃とは言えネェぜ」


 じゃあ続きを教えてもらおうとしたその時、複数の大きな足音がした。

 あー…、やっぱり気づかれるよね。

 ドアを激しく開ける、お父さま。その後ろにはお母さまと使用人がわらわらと…。


『何故か爆発した』


 そんな言い訳が通じる訳がない。

 だが、魔法を習った訳でもない子どもが魔法を使える訳もない。

 というのはお父さまの認識。

 対応に困るお父さまは頭を抱えて一旦部屋を去って行った。

 だが、そんな言葉に惑わされない、人物がいる。


 そう、お母さまだ。

 一見、穏やかな表情に見えるお母さまだが、その実めっちゃ怒ってる。

 お母さまと二人きりになってようやく口を開く。


「何か言う事はありますか?」

「ごめんなさい、私がやりました」

「よろしい、危険な事はしちゃダメって言いましたよね?」

「はい、私もこんな事になるなんて……」

「許されるような理由でもない弁解、言い訳は見苦しいだけですよ。わざわざ自分の部屋を好んで破壊する人が何処に居ますか。わざとじゃない事は分かっているのですよ。次からは気を付けなさい」

「はい」


 思わず、畏縮してしまう。

 それこそ、悪い事をした仔犬の様に。先生も一緒に反省してほしい。

 そんな、反省して落ち込んでいる私に声をかける人がいた。

 窓から侵入したその声は、エレンよりも少し高い声で、エレンよりも背が低く細身の人物。

 そう、クリムラント第三王子だった。


「この入口の解放は歓迎の証と取って良いのかな」

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