第19話 侯爵は二度死んじゃうよ
三人で必死になって一階まで逃げた所で気が付いた(事にした)
「あれ??ゼレイム様達は?捕まったまま??」
「うっかりしていました、ちょっと様子を見てきます」
「執事さん!武器持って行った方がいいよ!武器!バールの様な物でもいいから!」
「そうそう、釘バットでもいい、持って行った方がいいよ!」
「はて、釘バットとは…?まぁ、大丈夫でしょう、行ってまいります」
そんな、田んぼの様子を見に行くようなフラグを建てなくても…。
私とアレクは固唾を飲んで帰ってくるのを待った。
だが、地下から聞こえて来たのは執事の悲鳴。
「うわあああああ、おやめください、坊ちゃん、旦那さまぁあああああ」
それの意味しているのは、すぐに分かった。
B級ホラー映画に有りがちなアレだよ!ゾンビ取りがゾンビになる奴!
二人の血の気が引いた音がした気がする。
どうしようかと、慌てふためいていると、この屋敷のメイドが気にして声をかけてきた。
「どうかなさいましたか?」
「大変なんです!当主さんが死んでて、息子さん二人と執事さん巻き込んでみんなゾンビになっちゃったの!」
「あははは、ご冗談を~」
「ホントですよ!ゾンビはみんな地下に居ます、早く封鎖しなきゃ!」
「えー、大丈夫ですよ~。ここはゾンビなんて出た事ありませんから、そうだ私が見て来て上げますね」
「絶対やめた方がいいって!」
「大丈夫ですって~」
意気揚々と階段を降りるメイド、貴女の雄姿は忘れないよ!
「きゃああああ、おやめください、執事さん、坊ちゃま、旦那さまあああ、あーれー」
だめだった。わかっていた事だけど。
どうしようかと、慌てふためいていると、またもや別のメイドが気にして声をかけてきた。
「どうかなさいましたか?」
「大変なんです!当主さんが死んでて、息子さん二人と執事さんメイドさん巻き込んでみんなゾンビになっちゃったの!」
「あははは、ご冗談を~」
「ホントですよ!聞こえませんか?ぐるるーって声、ちょっと耳を澄ませてください」
よく集中すれば、微かに聞こえて来た。
「ええええええ!?あわわわわ」
「早くみんなを連れて、この屋敷から逃げて!」
「分かりました!皆に声かけしてきます!」
そして、徐々に大きくなる声を観察していると近づいてきている事がわかった。
間違いなくゾンビの呻き声が5体分聞こえる。
このままじゃ使用人達が逃げる時間が稼げない。
「アレク!魔法使えるよね?炎で攻撃できない?」
「僕もまだ使えないよ!魔法は10歳になってからなんだよ」
「じゃあこれどうするのよ!」
「バリケード作ろう!」
「頑張って!(私は出来ないよの意)」
「うおおおおお!」
アレクは非力ながらも、邪魔になりそうな家具を引きずりながら持って来る。
家具を三個落とし、息を切らし気味にもう一つくらい落とそうとするアレクだが、これ以上頑張ると私を抱えて逃げれなくなる。
いっそ、このまま逃げようと言い出しそうになった時、強力な助っ人がやって来た。
「おや、どうなさいましたか」
「グラフファーさん!助かりました、バリケードを作るの手伝ってください!」
「承知しました、所でどうしてバリケードを?」
「ここの領主や息子さんらがゾンビになっちゃったんです!」
「ほう、それは急がないとですね」
どんどんと積みあがるバリケードに、5体のゾンビがバリケードにぶつかり進めなくなっていたが、次第に邪魔な物の破壊を始めた。
階段上からゾンビの姿がよく見えるので、状況が分かりやすい反面、飛び道具もないので撃退も出来ない。足止めしかできない事にもどかしくなる。せめて先生に攻撃魔法を教わっていたらと思って仕方がない。
「おやおや、あれはもう手遅れですね」
「グラフファーさん!炎魔法で燃やせないですか!?」
「いえ、私も使えないのですよ、エレンラント様であれば難なく燃やせるのですが」
「じゃあどうしたらああああ」
「燃やせば良いのですか?」
「「はい!」」
それでは、と言って、アルコールのような物をゾンビに向かって振りかけ、そこに蝋燭の火を落とした。
あまりの手際の良さに、茫然と見てしまった。
「もしかしてこれって」
「ええ、ダイナミック火葬ですよ。さて逃げましょうか」
次第に炎は周りに引火し、さらに屋敷全体に広がってゆく。
私達は脱出し、燃え盛る屋敷を眺めながら、ゾンビが出てこない事を祈った。
「戦いはいつも空しいですね」
アレクの一言がしんみり来ている中、領民が集まり始める。
ほとんどが野次馬だったが、そこにファイアエッジの皆さんが混じっていた。
何人かは手を振って、まるで仲間を見つけたかのように駆け寄ってくる。
「あれ、リリィちゃんだ!リリィーちゃーん!」
「ミレーさん、みなさんもっ、昨日ぶりですー」
その言葉に、アレクが突っ込む。
「昨日ぶりってなんだよ!」
「あれ、アレク少年も居たんだ」
ミレー筆頭に4人がついて来るがその表情は楽しそうだった。そういえば、野次馬が誰一人として悲しんでいません。こればかりは領主の人徳がない事の現れなのでしょうか。
そして、最後尾にはフォーグがゆっくりとした足取りで歩いていた。時間をかけて私の元にたどり着いたフォーグは神妙な顔で確認した。
「全員あの中か?」
「そうですね、あの中です」
「そうか、ありがとう……本当に、ありがとう……」
ぼろぼろと大粒の涙を流すフォーグは、過去の束縛からようやく解放されたのだ。私、殆ど何もしてないけど、結果、多分、精霊災害も一緒に解決できたので良し!
長い時間をかけて燃え尽きた屋敷を使用人の方々は茫然と見ていた。それは突然雇用主を失った為の喪失感だろう。
アレクと相談して、再就職の手伝いをする事にして、王都で再就職や、ウチの工場、屋敷で雇える枠を確認する事になった。後に判明する事ですが、中には奴隷も混じっている事が判明して余罪として計上される事となった。
爵位は当主の兄弟に引き継ぐ事になるのだけど、噂では全て毒殺されたらしく、そうなると、その爵位の行方は残念な事になる訳ですね、兄弟が居ないって辛いね。
まぁ、そんな事は知った事じゃないので、面倒な話はお国のお偉いさんにお任せしましょう。私達が出る幕ではりませんからね。
そうこうしていると、見覚えのある馬車が近づいて来た。
「おーい、姫~、屋敷どうなったんだ?なんか無くなってない?」
魔物を討伐し終わったエレンが戻って来た。
あれこれ聞こうとするエレンは騒がしいから、対応をアレクに任せた。
なんだか疲れてしまって、それどころじゃない。
そうだ、少し息苦しいのはきっと疲れのせいだ。
体が熱くなっているのも火が近かったせいだ。
瞼が重くなっているのも緊張が解れたせいだ。
絶対に再発じゃない。
ちがう、絶対に。
絶対…。
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