第18話 侯爵の秘密を暴くよ
ロングナイトの屋敷に馬車一台で行く事になった。
お父さまは用事がある為に同行できないと辛そうに話し、王子二人に娘を頼むと言いつつ私の手を中々離さなかった。それは自分も行きたいという心の現れで、悲しむ従順な犬みたいな雰囲気がしたが、
人生二回目の外出は、なんと親不在です。やったね?でも、全然嬉しくないのはどうしでしょう。
私達が子どもだからなのか、進行方向に3人座っていた。
私を挟んで二人の王子が座っているので、肩が当たらないように気を付けているのだけど、足が床に届かない分かなり辛い、そもそも馬車自体が辛いんですけどね?
ゼレイムは進行方向とは逆側の席に一人で座っているけど、今にも泣きそうにしている。それもそうだ、真正面には彼にとっての恐怖の象徴がいるのですから。
あと、グラフファーは座る場所がないので、御者の隣に座っている。
「姫、普通に座ってるのは辛いだろう?こちらに足を出してもいいんだぞ」
エレンが気を使ってなのか、女子座りしても良いという。多分そういう意味だと思った。
「じゃあ、僕の方に頭を持って来るといいよ、膝枕だね」
「まて、膝枕をするのは婚約者の役得だ」
「じゃあ僕は、生足を眺めるしかないね」
ん??要は横になれって言ってる?すごいな、王子達の脳内。そんな事出来る訳がないでしょ。
「な、生、生足って、お前、どんなけスケベなんだ!」
「えっと、じゃあ、もたれ掛かるだけでもいいので、お願いできます?」
「じゃあ俺が!」
「いや、僕の方に!」
キリがないのでエレンを先に、途中でアレクに交代と言う事で納得してもらった。
それにしても、王子二人に囲まれてるなんて、レニちゃんに知られたら嫉妬されちゃいますね。
馬車は振動が激しく、時々宙に浮く事があり、その都度、もたれかかってるエレンに申し訳ないなと思っていると、ずるっと滑ってそのまま膝枕状態になってしまった。流石に恥ずかしいので元の一に戻ろうとすると、エレンがこのままでいいと言って離してくれません。顔を見ると赤くなってるあたり可愛いのですが、こちらだって羞恥心はあるので、少し委縮してしまいます。
「そろそろ交代の時間じゃない?僕の方にもたれ掛かりなよ」
「じゃあ、ん……?」
動けない。肩をガッチリとホールドされて、上体を起こせなくなっている。
「エレン?交代って決めましたよね」
「嫌だ!姫は俺以外の膝枕禁止だ!」
「へぇ、今から亭主関白?束縛する旦那は嫌われるんだぞ?」
「何!?き、嫌われるのか?俺を嫌いになるのか?姫、教えてくれ!」
「それくらいじゃ嫌いにならないわ、でも決めた事は守らないとね」
「そ、そうだな、今だけ許してやる、アレク、光栄に思う事だ、俺は約束を守る男だからな」
「はいはい」
まぁどうでもいいんですけど、とりあえず、アレクの肩をかりようとすると、そのままストンと膝枕に誘導されていまった。
「いきなり膝枕だと!?ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ、帰りは全部俺の方に膝枕だからな!忘れるなよ!」
なんだかすごくめんどくさいです。はい。
そうこうしている間に、ロングナイト侯の屋敷に到着。
馬車の中からお姫様抱っこを強要されて、出口に頭をぶつけそうになる。そうなるとしがみつくしかないのですが、そのしがみつく行為にまたもやエレンは照れてしまう。それでも器用にカニ歩きでドアを通過した。
屋敷の中から執事っぽい人がお出迎え、そのまま奥に案内される。必要な話は、ゼレイムがしたので私達はついて行くだけなのですが、当主の介入なく、執事に誓約書の必然性が分からないと断られる。
「おい、ゼレイム、話が違うではないか」
「ひいい、執事!父上にちゃんと伝えてくれよ、俺からの頼みだ!」
「仕方ないですね、もう一度掛け合ってみましょう」
執事が部屋を出るが、エレンは何か別の者に気を取られている。
「エレンどうしたの?」
「いや、変な感じがする、匂いって程じゃないが、瘴気みたいな……」
その時、部屋のドアが勢いよく開き、ゼリレムそっくりの人物が入って来た。
「兄貴!兄貴!大変だ!」
「うわああ、驚かせるなよ!何がおこったんだよ」
「開拓地に、土ゴーレムと、植物お化けが現れた!あれなんだよ!呪われたんじゃないか!?」
何か聞き覚えのあるワードが並んだー!
あははは、明らかに私のせいだ。
「(エレン、あの時のアレってちゃんと倒したんじゃないの?)」
「(いや、蔦を絡めて来て面倒だったので放置して帰ったぞ)」
「(え?リリィの仕業なの?おもしろい事になってきたね)」
頭を切り替えて、この騒動は利用すべきだと判断した。
「ゼイレム様、それ、精霊の怒りですよ!精霊災害が起こる前兆です!このまま開拓を続ければもっと強い魔物が現れて、ここまで攻めてくるでしょう、今すぐ開拓を止めて森を元に戻す努力をすべきです!」
それを聞いたメイドが信じられないといった声を上げた。
まぁ、怖いですよね。
「だが、今、現れている魔物はどうしたらいいんだ!?」
「エレン、倒せる?」
「まぁ出来るが、森の中にいるのか?」
「いえ、開拓地の方に出て来ている。どうするんだ?」
「植物は燃やす、土ゴレは殴ればいいだろ、ちょっと行ってくるから、姫は待っていてくれ」
「はい、お待ちしております」
エレンは即座に討伐に出発した。それも窓から。ちゃんと玄関から出入りしなさいよ!って言いたくなる。
森の中で炎魔法を使わないというのは、冷静に考える頭はあるという事ね。少し感心です。そういう事を気にしないで魔物と戦えるというので、ご機嫌みたいだ。
暫くしてから執事が誓約書を持って来た。
「これでよろしいですか」
「はい、お礼を言いたいのですが、当主様にお目通りお願いできますか?」
「それなのですが、当主は対人病にかかっておりまして、お通しする事はできません」
対人病ってなんですか。そんなのあるの?この世界。
というか、このお目通りは本人の口から精霊災害の次に来るイベントに関する言質を取っておく事が目的だ。誘導尋問みたいになるけど、そこは私の腕の見せ所ですよ。ふふふ。
「ではお声だけでも」
「……わかりました」
私はアレクに抱っこされ、当主の部屋に向かった。意外にも力がある事に感心したけど、よく考えたら私の体重がかなり軽いだけでした。
「アレク、重くない?」
「リリィくらいなら余裕だよ、大丈夫」
「肩に乗せてもらえると嬉しいんだけど」
「おい、クマと一緒にするな」
当主の部屋にたどり着いて声をかけたが中々返事がない。執事が中に入り様子を見てくるといって中に入った。そして暫くして声がした。
「ごほごほ、リリィルア嬢、すまないな、見せれた顔じゃないのじゃよ」
いやいや、これで納得できる人っていないでしょって思ったらゼレイムは無念そうに肩を落とす。ここ最近ずっとこんな感じだという。
「あの~?執事さんなにやってるんですか、声真似なんてふざけています?」
「なんと!」
ゼレイムが驚き、勢いよく扉を開くとそこには執事一人だけが居た。
「執事!父上を何処にやった!」
「だ、旦那様は……、地下に」
ゼイレムと弟が会いに行くと言って聞かないので、執事に案内されていく事になった。私としても会わない訳にはいかないので行くしかないのですが、地下と言う事に少し不安がよぎる。
ゾロゾロと地下に降り、長い廊下を歩き、ようやくついた個室は寒気がするほどの室温の中、棺が一つ鎮座していた。
ここで少し前にエレンが言っていた事を思い出し不安がより増していく。
「え、まさか」
「「父上!」」
「そ、それ、もしかすると開けない方がいいかも…」
「確かめない訳にもいかないだろ」
「その通りです」
漠然とした不安で「やめてー開けないでー」とも言えず、アレクにしがみつく手はブルブルと震えてしまっていた。アレクは気を使ってか、私の腕をぽんぽんと優しく叩く。アレク!絶対にわかってない!こっそりとアレクには「逃げる心構えしてて」と言うと、悪戯でもするような顔で、ニッカりと微笑み返してくる。ダメだ伝わってないよコレ。
そうこうしている間に、ゼイレムと弟が歩み寄り、棺を開けるとそこには冷たくなった当主が眠っていた。
「いつ、お亡くなりになったのですか……」
「それはですね……」
執事がその問いに答えようとした瞬間、棺桶からガバッと伸びた手が二人の喉元を掴んだ。
死体が、ロングナイト侯爵が動いている!
一瞬は生きていたのかと思ったが、その行動、発声はゾンビその物だった。
「「「うわあああああああああ」」」
地下に悲鳴が響き渡った。
全員、一目散でその場から逃げ出した。
「早く早く早く早く!!!(ぺしぺしぺし)」
「痛い痛い痛い痛い、走るから叩かないで!」
前世の頃から、ゾンビとかアンデット系が苦手で、つい、アレクの頭を叩いてしまった。
私達は走った、先頭は執事、追うのはアレク、私、さらに後ろに……あれ?
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