第20話 病弱設定は続くよ
(ルルゥ視点)
リリィが熱を出したと聞いた私は急いでファーネストの屋敷に戻った。
聞けば王子達と出かけた日からリリィは寝込み、熱が高くて意識が保てない程に苦しんでいる。次に高熱が出たら助からないだろうと言われていただけに今度こそもう助からないと思ってしまう。
医者によると、魂強度に変化はないが油断できない状態だという。
少し話を聞いたところ、私の居ない間に王子達と外出しただけじゃなく、大きなトラブルに巻き込まれ、行った先の屋敷が全焼、4人もの死人が出るという危険極まりない状況になったと聞いて、卒倒しそうになる。
アレクは看病してくれているけど、もう一人の王子はつまらないと言って帰ってしまった事が、さらに私の神経を逆撫でした。
「どうしてこうなったの!?ちゃんと説明してください!」
「そ、それはだね、精霊の森が──」
「精霊の森なんて関係ないでしょ、話をそらさないでください!どうして三人で外出する事になったのか言いなさいよ!」
気が動転していたのもあるけど、アレクには強く当たってしまった。
私は2つも年上なんだから、もっと大人の対応するべきだったと反省している。
結局、落ち着いて話を聞くと、まぁ仕方がないか、みたいな感じになった。
というか全部第四王子が悪い!
噂でしか知らないけど、悪い噂が蔓延してる。
リリィも少し困っている様だとアレクも言っているし、早々に何か手を考える必要がある。
「それでさ、ロングナイト侯爵と血縁が途絶えちゃって、あそこの領地、空白地になったんだよね」
「へぇ、そうなの…………ええええ?死んだの?あの豚侯爵が!?」
「ええっと、実は死んだのはもっと前みたいなんだよね、それでゾンビになって3人が巻き添えに……あれ?大丈夫?」
えええ?私と会った時、既にゾンビだったとかないわよね?
あの時、どの靴履いてたかしら。
たしか赤い……あああ、お気に入りの靴っ。
ゾンビ菌ついてるかもだから捨てなきゃ。こわい、怖すぎる。
「まぁ、そういう訳で、ファーネスト家は伯爵から侯爵にランクアップ!って話が確定するだろうね、それで、ロングナイトが管理してた領地をまるまる併合する事になると思うよ、超ラッキーだね!」
「確かにあそこはそれなりに人口多いし栄えてるから、いい税収になるでしょうね」
「ただねぇ、暗部の面が気になるんだよね。結構悪い事してたみたいだし、その残党はまだ生きてるからね」
「リリィが興味を示す前に消さなきゃね。それってどんな事なの?」
「それはねぇ」
カジノ、ギャング、奴隷、禁呪と、聞いた時点で頭が痛くなる。
その事を第四王子が聞けばどうなるか。
「それ、エレンラント様も知ってるの?」
「うん、説明した」
つまり第四王子は新たな敵として、そういう者達をターゲットにした可能性が高い。
だが、余程有能な人が付いていない限り、見つかる事もないだろう。
「ところで、リリィは最近、魔力草の育成してた?」
「それがねぇ、相場調整とかかで生産制限されてて育成してないのよ。あと、私でも育成できる種が見つかったからリリィが頑張らなくても良くなったのよ。というか、魔力草がこの領の財源になると思ったてたのに
「あぁ、そっか、それで……ふーむ」
ちょっとまって、それが何か問題なの?
それが、問題なるって、まさか……!
「またファーネスト家の財政傾いてるの!?」
「え?そうなの?いや、まさか、それは多分ないと思うよ」
◇ ◇ ◇
翌日、まだ熱っぽいながらも、意識を取り戻したリリィは涙を流していた。
悲しい事でもあったのか確認すると、夢を見たという。
話を聞くと、生気が半分抜けた虚ろな表情でリリィ淡々と語った。
まるで別人の人生を語るように。
それはリリィ自身が死ぬ夢。
死を覚悟していたのかと思いきや、リリィではなく別の自分が死ぬ夢だという。
その時の両親は荒くれていて虐待を受ける日々だったという。
姉が家を出て、心の拠り所が無くなり、より追い詰められた。
それでも生きようとしたが、自身は病で自由に動けない。
そんな状況を救ってくれた人が現れた。
闇夜に窓から侵入した彼は言った。
「現実が辛いなら、僕だけを見ればいい。
不自由が辛いなら、僕の手を掴めばいい。
恋愛がしたいなら、僕を愛せばいい」
そうして、リリィは生まれ変わった。
現実が楽しく、自由で、恋愛の相手が居るはずだった。
なのに衝動が抑えきれなかった。
最初に父、次に母の血を吸った。干からびる程に。
血まみれになる自分が許せなく、自分の喉を引き裂いた。
こんな事なら、辛く不自由で恋愛できない人生でよかった。
リリィは自分の自由を呪った、もう不自由のままでいい!
そこからの自我が無くなったのか、記憶が途絶えている。
その話の後半はもはや聞き取りが難しい程に、大粒の涙を流していた。
泣きじゃくるリリィを見ていると、私まで悲しくなり、耐えれずに泣いてしまった。
私は無力だ。
リリィに対して何もできない。
外に連れ出す力も無ければ、治療できるほどの魔法を知らない。
リリィさえ生きていればそれだけでいいと思うのに、それすら叶わないかもしれない。
泣き疲れ、再び眠りについたリリィは私の手を離さなかった。
私も離したくない。
私が守らなきゃいけないものは、リリィだけ。
改めて考えた。
リリィの語ったのは前世の記憶?それともこれから起きる事の暗示?予知夢?
それが予知夢と言うのであれば、回避を考えなくちゃならない。
虐待していると言う点は部屋に閉じ込めているというのがそれになると言えなくもない。
姉が家を出てと言う点は近い内に、私が実家に帰るという意味だと思う。あながち間違えてはいない。
闇夜に窓から侵入した彼……、誰かが侵入?賊?バルコニーからよね?
ちょっと家具やクマの縫いぐるみでバリケートを作って置けばいいかしら?
あれ?このクマの縫いぐるみ、片腕の布地が違ってる。
きっと陰ながらリリィを護ってるのね。(脳内妄想)
その片腕は戦い負傷した証、それだけ強敵が居たのね。
じゃあ、引き続き警備を任せるわ。私も頑張るから。
クマの縫いぐるみに抱き着き、感触を楽しんだ。
微妙に違和感があった。
焚火の匂い…?甘い匂いも混じってる。
この室内で炭火焼料理でも食べたのかしら?
甘い匂いはスイーツでも溢した?
自分で言ってて、ちょっと意味が分からないわ、この件は忘れましょう。
あとは私の問題ね。
父から近い内に本格的な教育が始めるから帰ってきなさいと言われいた。
その意図する所は、嫁入り先の目途が付いたから相応の知性を身に付けなさいという意味だ。
婚約者が決まったなら教えてくれればいいのに、そこをはぐらかしてレディ教育?
そのもの言いからして、公爵よりも上位の者、つまり国内外の王家かその血筋になる。
公爵家として長らく縁がなかった王家との婚姻、それは父の悲願でもある。
今の王家は男子が多い分、そのチャンスが十分にある。
父は口に出さないけど、そういう事なのだと思う。
まずは私は帰らないという事を父に納得させる為には、直談判しかないわ。
リリィ、すぐに戻って来るから待っててね!
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