第9話 お友達ができたよ

「あなたが、リリィルアね!」

「え、誰?」


 それは突然押しかけて来た、ご近所の令嬢との物理的に温かいお話。


 時は1時間程遡る。


「お嬢様!」

「どうしたの?じいじ」


 慌てふためき私の部屋に入ってくる執事じいじの珍しい行動に呆気にとられていた。

 珍しい物がみれたという気分だ。

 先日、お姉さまが親子で隣領の領主を追い払ったという武勇伝に花を咲かせていたと思えば、今日は親子でお出かけだそうです。仲が良くて微笑ましいです。

 お姉さまは私を一人にするのが不安だと言って、お出かけする事を躊躇っていましたが、親子の邪魔はできません。私は大丈夫だからと言って見送りました。

 さらに、私のお父さまも王都に出張中で居ないとい。

 お母さまは普段から大人しいので、屋敷中は極めて静かな日となっていたのです。

 いえ、のでした。


「それが、先触れが届きまして、二つ隣領の伯爵令嬢がお見舞いに来られるそうです!」

「うん、それでいつ来るの?明日?明後日?」

「いまより一時間後なのです!お嬢様っ」


 という訳で、バタバタと軽くおめかしをして待機した。

 一番バタバタしてたのはお母さまで、この時は何をしているのか気になる程度でした。

 私は部屋から出ない、というのも部屋から出た事がお父さまやお姉さまにバレると面倒だし、いつも通り、私の部屋でお茶会か食事会と事になるでしょう。


 そして冒頭に戻り、彼女が入ってきました。

 ノックも無しに病人の部屋に入るなり大声で叫ぶ。

 しかも1人じゃなく、4人でゾロゾロとやって来たではありませんか。

 この世界のお見舞いってそういうものなのです?初対面ですよ?


「あたくし、二つ隣の領地の領主、ベルクハウゼン伯爵が娘、レニーノよ!」

「ご丁寧にどうも、私がリリィルアよ」


 家名は知ってるでしょうからいいよね。

 その後、残る3人も名前を言っていましたが、長くて覚えれませんでした。

 きっとこの後、登場シーンがないので不要なのだと思います。


「お嬢様方、紅茶とお菓子をお持ちしました」


 執事じいじはベッド横にあるテーブルに私の分を、部屋の真ん中にある大きなテーブルに4人分を置いた。

 普段から私は食事の際もこの部屋から出ない。その代りにと食事時にはこの部屋に家族全員が集まり食事をする。

 寂しい思いをさせないようにという心配りです。ウチの家族は仲が良いからね。


 じ~~~


 こんな状態で、部屋の中を覗いているお母さまに気が付いた。

 一体なにしてるの?何がしたいの?


「お母さま?どうなされたのですか?」

「あ、えーと、お菓子美味しいですか?」

「あれ?今日はお母さまの手作りですか?」

「ええ、そうなのよ。ちょっと頑張っちゃったぁ」


 なんだかね、お母さまって可愛いのですよ。

 普段は引っ込み思案でオドオドして、少し天然、でも凄く優しいのです。

 そうだ、じゃあ皆さんに聞いてみましょう。


「みなさん、いかがですか?お口に合いました?」

「ええ、美味しいわ、あ、ちょっとそれ私の!取らないでよ」

「えっと、お母さま、お気に召した様です」

「よかったわぁ、じゃあお持ち帰り用のを焼いて来るわね」


 お土産ですか!好感度アップ作戦ですね。流石です、私の分もお願いします。


「あなたのところって変わってるわね。うちの母なんて料理全くしないわよ」

「あれは趣味みたいなものだから。でも私の好みに合わせてくれるから大好きなの。お母さまもお菓子も」

「いいわね、でも、だからって何でも手に入れようとするのは間違えているわ」


 何の話?

 何でもって言う程何にも持ってないけど?


「分かってないみたいね、アレクセント第七王子様の事よ!」

「うん?それがどうしたの?」

「聞いたわよ!婚約を画策しているんですってね、あなたみたいな社交界にも出た事のない子が贅沢なのよ!」

「「「そうよ、そうよ!」」」


 6歳って社交界に出る様な歳だっけ?

 よく知らないけど、ちょっと早いんじゃない?

 まぁ、でも、うん……。


「わかります!そうですよね、いつ死ぬか分からない、先がない私みたいな令嬢よりも健康的で活発な貴女みたいな令嬢の方がふさわしいと思いますわ!」

「え、死ぬの?えっと、それは悲観しすぎじゃない?」

「でもこないだも、死にかけたよ?」

「えええ!?ででで、でも、だからって、また死にそうにそうになるとは限らないじゃない??」


 あれ?何か流れが変わった?変なスイッチ入った?

 何だかこの子、嫌いにはなれそうにないかも。


「他の方よりは死ぬ可能性が高いと思いますよ、ほら腕なんてこんなに細い」

「えええ?ちゃ、ちゃんと栄養ある物を食べなさいよ!夜もちゃんと寝てる?あ!牛乳!そうだわ、ウチの特産なのよ、乳牛を上げるわ!ちゃんと毎日飲むのよ!じゃなきゃ乳牛は病気になるからね!」


 うわ、なにこの幼女、可愛すぎ。

 牛乳かぁ、搾りたてとか飲んで大丈夫なのかな?細菌があると思うんだよね。

 免疫があるとかなのかな?

 でも、うん、牛乳、チーズ、生クリーム、じゅるり。

 かなり嬉しいプレゼンとかも?


「えっと、ありがとう、レニちゃん」

「レ、レニちゃんってっ、か、勘違いしないでよね、貴女のような子を放って置けないだけなのよ」

「貴女?名前で呼んで欲しいなぁ、『リリィ』でいいよ」


 ほれほれ、名前で呼んでみて、ほれほれ。


「じゃあ、リ、リリィ……ちゃん(凄く小さな声)」


 うは、かわよ!

 いいねいいね、もっと仲良くなりたい。


「レニちゃんは可愛いなぁ、いいツンデレっぷりで惚れ惚れする~」

「ツン…?いえ、その、わたくしに惚れても、何も出なくてよ、とっ、兎に角、私とお知り合いになった以上は勝手に死なれちゃ困るのよ、いい事?健康には気をつけるのよ!」


 うーん…、知り合いかあ、もう一歩進んでほしいなぁ。


「んと、知り合い?友達じゃなくて?」

「う~~~、じゃあ一歩譲って、お友達!これでいいわね」


 一歩なんだ(笑)ほほえま~。


 レニちゃんは握手を求めるよに手を差しだしてくる。もちろん、喜んで握手の手を出す。お友達が出来るって嬉しいよね。

 先生はもう家族ですし、お姉さまもそう。そっか、お友達って初めてなのかも。


「初めてのお友達、嬉しい」


 思わず口に出た言葉に、レニちゃんが反応する。


「え?お友達いないの!?」


 じっと見つめていると、次第に涙目になってゆくレニちゃんに少し焦ってしまう。

 同情誘いすぎたかなぁ。


「だって、この部屋から出た事ないから、それにほら、今日で『居なかった』に変わったよ」

「なんですって!それは逆に不健康よ!今度、うちの別荘にいらっしゃい。絶対に健康にいいから!」

「どんなところなの?」

「別荘のすぐ近くに、回復の泉があるのよ!凄いでしょ!」


 ぶはっ、何なの、そのRPGに出てくるような名前。

 リアル回復の泉って何が回復するのかな?すごい興味出て来た。


「すごいすごい!行ってみたいわ」

「先ずは貴女のお父様に許可を得なさい、そしたら連れてってあげる」

「うん、頑張る!許可貰えたことないけど」

「じゃあ私からも言ってあげるわ、リリィのお父様はどこにいるの?今すぐ交渉よ!」


 あ、ごめんなさい、今、王都なんです。

 というか、本編に出てくるのかな?RPGの泉、じゃなかった。回復の泉。

 アレクに手紙で聞いてみよかな。


 と言った感じで、泉に行く事になりました。

 お父さまも回復の泉になにか期待を寄せている様です。

 さらに、何故かアレクまで付いて来るという話になり、何か一波乱ありそうな予感がします。


 ちなみに、取り巻きの3人ともお友達になりました。一応。

 名前覚えてないけど。


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登場人物紹介

・レニーノ・ベルクハウゼン(伯爵令嬢)6歳

 リリィのお友達第一号。王子様と結ばれる事が夢。自慢が大好きでマウントを取りたがるが面倒見が良いので打ち解けると、とても良い友達になる。初代ベルクハウゼン伯爵はドイツ人転生者だったという噂。本編ゲーム未登場。

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