第7話 謝罪が足りないよ

登場人物紹介

・ルーデムロレイル(錬金ギルド、ロングナイト領支部職員) 28歳

 細い眼鏡をかけた如何にもエリートと言った感じの人物。金と自分が大好きで朝は1時間鏡を見つめている。

 ギルドを私物化し、領主との癒着している。

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(ルーデムロレイル視点)


 ついに錬金ギルトの支部長になった。

 それもこれもあのバカでかい魔力草のお陰だ。

 加工したポーションを王都に卸した所、陛下から直接感謝を伝えられる程に有難がられた。

 陛下は突然羽振りの良くなったのか市価の二倍で買うと言い、4割程残っていたポーションを全て売り払った。

 結果400万ラントで仕入れた物が10億に化け、純利は9億を越えた。

 純利の内1億5000万をギルドに、残っりをまるまる私の懐に入れた。

 職員に徹夜で作らせたお陰で短期間のうちに大金持ちになった訳だ。


 さらに支部長をポストを手に入れる為にロングナイト侯爵領主への献金、支部長を陥れる為に罪のない奴隷の命を使った。

 おっと、奴隷であること自体が罪なのだから少し語弊があるな。

 それからは手ごろな屋敷と4人の奴隷を買い、休日は面白おかしく過ごした。


 そして一月が経過した頃、更に美味しい汁を吸う為にファーネスト侯爵の元へ赴いた。

 もちろん、納品の催促にだ。


「これはこれは、錬金術師のルーデムロレイル様ですね。ようこそいらっしゃいました、どうぞこちらへ」


 老齢の執事に丁寧に迎えられ、私は領主の部屋に通された。

 開口一番に納品を催促したが、領主の少し反応が悪い。

 もしかして育てる事ができなくなったというのではないだろうな?


「こんなに良い条件で仕入れるのはウチくらいですよ??」

「そうですか、ですが今回はポーションの状態で納品しましょう」

「え?い、いや、あの時、加工は諦めるように事を言ってたじゃないですか」

「ああ、それは気が変わったのでね、ウチの領民で作る事にしたのだよ」


 確かに口約束だったが、あの時誓約書を作らなかった事を後悔した。

 マズイ、葉っぱ1枚当たりの製造本数を誤魔化したのがバレたのではないか?


「そんなので、良い質のポーションが作れる訳がありません、ぜひとも私達にお任せください!」

「まぁ、多少品質が落ちるのは仕方がない事ですな」

「でしょう??でしたら!」

「ですが、こちらも雇用の問題があります、ポーションでの納品受けて頂けますか?卸という事で、定価6割で提供させて頂きますよ」


 ふはは、馬鹿か!

 前回程の大儲けにはならなくなったが、売り値の6割で卸すなんて商売人として失格だな!

 本当の定価は1本2000ラントだ!しかも陛下なら4000ラントで買ってくれる。


「それで、ど、どれくらいの、量を下ろしていただけるのでしょうか」

「在庫は8万本ありますよ、確か月消費2000本くらいでしたよね」

「はちいいまんんん?え、ええ、そうでしたが、こちらも販路拡大しましたので、は、8万本、全てお受けしましょう」

「ええっと、お代は7億6800万ラント※になりますな、今それ程の手持ちはないので、お代は──」

 ※5万本×16倍×600ラント


 ほほう、これが何倍にも化けるのか。ま、まだまだ美味い汁が吸える訳だ、次は何を買おうか。

 爵位を買うのも悪くないな。


「明日、明日お持ちします!今日のところはポーションをお預かりします」

「持って帰れますか?」

「大型の馬車で来ていますから問題ありません」


 私個人の資金では微妙に足りないが、錬金ギルドの資金は私が握っている以上、それを使えば問題ない。

 いや、むしろ錬金ギルドの資金を全て使うべきだな。

 それに濃度が16倍と決まった訳ではない、そこに付け込んで値切る!


「一本、確認させていただきたいのですが、よろしいかな?」

「ええ、どうぞ」


 ポーションの一本を取り出し、濃度を確認する。

 ウチで作った物より、濃いような気がするのだがどういう事だ。


「こちらが、以前、ギルドで作って頂いたポーションですが、比べますとこちらの方が少し色が濃いですな」

「ま、まぁ?色が濃いだけで、濃度が高い訳ではありませんから、ちゃんと確認しませんと」

「では、確認して頂けますか」


 比べると本当に濃さが強くなっていた。

 不純物でも入っていない限り、色の濃さは濃度に直結する。

 以前の物が偽物であればいいのだが、ウチで作ったポーションであるのは間違いない。

 封につかったギルド印が本物である事を示している。


 息を飲み、ポーションの蓋を開け、1摘、手の甲に垂らして舐める。

 濃いのは分かる、だが16倍ともなると味は濃いとしかわからず、これが14倍でも18倍でも感想は変わらないのだ。

 あえて、専用の測定器具を使わずに確認しているのは、明らかに濃度が濃くなっているからだ。


「そうですね、だいたい14倍という所でしょうか」

「おや、そうなのですか、こちらの測定器具では20倍となっていますが、故障ですかね?」


 なんで持ってるんだよ!!

 高価な物に貧乏貴族が手を出すんじゃねえよ!


「ま、まあ、そうでしょうな!安物の機器は故障しやすいですから」

「では、そちらギルドの計測機器で確認して頂けますかな、いえ、あなたの舌を信じていない訳じゃないのですよ」

「わかりました、とりあえず機器での確認はギルドに戻ってからという事で」

「そうですか、わかりました、結果は教えてください」

「ええ、それとこれより、ポーションを卸すのはウチのギルドのみにしていだけますか?」

「それはどうしてでしょう?」

「内輪もめを避けるためです、今後色々な地域の錬金ギルドがくる可能性があります、その手間をこちらで引き受けましょう」

「なるほど、それは有難いですな。では今後、という誓約書をつくりましょう」


 馬鹿が、これだから商売のシロウト相手は美味しいんだよ。

 しかし、全て買い取らなかった場合、王都に持って行かれる可能性がある。

 それだけは絶対避けないといけない。


「誓約書、確かに頂きました。代金と共に明日お持ちします」

「よろしくお願いします、では預かり証に署名を」


 預かり証?

 うん、なになに?

 値段と本数、濃度の保証?

 いや、濃度は分からないと言ったではないか。

 その部分だけは確認するまで容認できないと反発し、訂正させた。

 結果『魔力ポーション8万本分を受け取った』『16倍であれば7億6800万ラントを、翌日に支払う』という書類にサインする事になった。


 少し不味いかもしれない、万が一、20倍で押し切られた場合、9億6千万ラントとなってしまう。

 私の資金とギルドの資金をあわても足りない。

 お、そうだ、領主に出させよう。

 ポーションを売り払えばどのみちプラスになるのだから、すぐに返せば良い、それに献金したばかりだからお金はあるハズだ。



 翌日──


 ファーネスト伯爵の元に行くと、伯爵の横には男子が立っていた。

 貧乏貴族の息子にしては小奇麗で、すこし偉そうな感じがするが、まぁいい、相手は子どもだ、私の相手ではない。


「こちらで確認した所、濃度が8倍しかない様でしたね」

「おやおや、そうでしたか、それは残念です」

「なので、3億8400万ラント、これが今回の代金になりますが、よろしいですかな?」

「ちょっと待ちたまえ」


 子どもが口を挟んできた。

 チッ、邪魔しやがって。


「安物と言ったその機器だが、よく見てもらえるかな」


 ふん、安物は安物だ、何度見た所で……。

 うおおお、お、お、王家の印が彫ってある!

 これは、王家直属魔道具部門の製造である証だ。

 錬金ギルドウチでもこんな高価な物を使っていないというのに、なんでこんな貧乏貴族が!?


「い、いやあ、これは偽物ですな、本物を見た事ある私が言うのですから間違いありません」

「言い忘れていたが、この計測機器は私が王都からわざわざ持って来た物だ、王家直属魔道具部門から受け取ってな!」

「え…、貴方様は……もしや」

「ああ、アレクセント・グレイスラント、この国の第七王子だ!」


 血の気が一気に引いた。

 王子に対する虚偽は厳罰物、下手をすると打ち首だ!


「も、申し訳ありません、20倍、20倍で合っていました!騙した事は謝ります、ですので、ええと10億ラント!10億ラントででお許し願えないでしょうか!」

「ふん、伯爵殿はそれでよろしいですか」

「はい、異論ありません、殿下有難うございます」


 所持金全て使い切ってしまった。危うく、侮辱罪や詐欺罪で捕まる所だった。

 しかし、他の錬金ギルドには卸さないという契約書を取り付けたのだ。

 今後も甘い汁を吸わせてもらうぜ。


 その翌日、錬金ギルドで売り上げの報告が入った。

 魔力ポーションの直販売り上げ0本、それだけでなく冒険者ギルドへの卸も0本となっていた。

 たまたまかと思ったが、翌日、さらにその次の日も同じとなる。

 私は冒険者ギルドに直接乗り込み、冒険者の一人に確認した。


「魔力ポーションを買わなくて大丈夫なのですか?」

「それならファーネスト印のポーションが、なんと20倍濃縮が8000ラントで買えるんだ、通常濃度で400ラント。もう、錬金ギルドの2000ラントのを買う人いないだろうねえ」

「どうしてそんな安値になってるんだ、いや、うちのギルド以外には卸さないという誓約を破ったのか!?」


 ちがうっ、そうか、他の錬金ギルドには卸さないが冒険者ギルドについては記載していなかった!!

 してやられた!

 まさか王都にも卸してるのではないだろうな、いや、此ればかりは確認のしようがない、しかも第七王子がついてるなら卸してない訳が無い。

 やばい、やばいぞ、これでは先日仕入れた8万本が持ち腐れてしまう!

 いや、まだ終わりではない400ラントで売りさばけば6億4000万ラントは帰ってくる、それで立て直せる筈だ。

 そ、そうだ、元の相場で他の街の錬金ギルドや冒険者ギルドに卸せば、結果がプラスになる!大丈夫だ!


 急ぎ錬金ギルドに戻ると、人だかりが出て来ていた。

 なんだ?今になって直販が人気になったのか?


「何事だ!?」

「他の地区の錬金ギルドの方々です!なんでも、魔力ポーションを独占している事を聞きつけて撤回して欲しいと」


 職員の話を聞いてすぐにどうすべきかわかった。

 今が売り時だという事だ、むしろここで売り切らないと破滅する!

 そうだ、今の在庫をさばいてから誓約書を破棄しよう。


「わかった、だが今はこちらの手持ちを買って頂こう、20倍1本を32000ラントだ!在庫は十分ある、欲しい本数を言ってくれ」


 卸しなので2割引きだが、これならまだ大儲けできる!


「高いぞ!冒険者ギルドには20倍を1本6000ラントで卸されているんだぞ!何倍で売りつけようとしているんだ!せめて5000ラントにしろ!」


 そうか、さっき聞いたのは冒険者の買値だ、卸値はもっと下だったのか。

 やばいやばい、5000ラントで全て処分した場合4億しか残らない、ギルド資金から2億、領主から2億借りているから、残りは0……だと!?


「わかりました、それで卸します!」


 まてええええ!職員が勝手に取引を始めた、それに群がるヘイエナ共によって突き飛ばされた。

 暴走した職員が止まらない。

 どうにか、どうにかしないと!


「ルーデムロレイルさん!王宮より使者が!」

「ルーデムロレイル殿より納品された魔力ポーションの一部1万本が規定濃度に達していないので返品に参った」

「は???」


 なんてことだ!徹夜で職員にポーション作らせたせいで、濃度が落ちていたのか!


「ルーデムロレイルさん、ギルドのラントバンクをお借りします」


 無気力となりうな垂れている私から、職員がラントバンクを受け取り確認する。


「え?残高0?ルーデムロレイルさん、これは、どういうことですか!?」

「おーい、ルーデムロレイル、わざわざ俺が直々に来てやったぞ。貸した金はどうなった?」


 追い打ちをかけるように領主の馬鹿息子まで現れた。

 だめだ、もうあかん。


 ◇ ◇ ◇


(???視点)


「旦那様、錬金ギルドが閉鎖になるそうです」

「な、なぜだ、やっとの思いで誘致したのにっ!原因はなんだ!?」

「主因は支部長の横領ですが、金の流れを調べると隣領の領主が関わっているとか」

「支部長……ルーデムロレイルか!」

「ええ、旦那様への献金に応えて、旦那様が支部長に無理矢理押した、旦那様が大好きなルーデムロレイルです」

「奴はどうした、貸した金がまだ帰ってきてないんだぞ!」

「それが多方からの支払いが滞り、奴隷落ちしたそうです」

「ぐぬぬ、もう奴の事はどうでもいい!だが、このまま黙ってる訳にはいかん、取られた物は取り返す、そうだろう?」

「その通り、それでこそ旦那様です」

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