第6話 金策を考えたよ
「フェンリル先生、お願いがあるの、ポーションの作り方教えて?」
「いや、知ってる訳ネェだろ」
「残念、じゃあ、魔力草の育て方、相談に乗って」
「それくらいならいいぜ」
私はここ最近考えていた構想を元に紙に図を書いて説明した。
きっと口で説明するだけより分かりやすいと思う。
「こんな風に種を水に漬けて、そこに私の魔力注ぎ込むみたいな、土無しでの栽培って出来ないかな?」
「それなら、土ゴーレムは発生しないが、水系魔物が出るかもしれネェな。水の量ってどれくらいになる?」
「さぁ、これっくらーいの、高さがあまり無い容器に水を張るくらい?」
「それくらいなら大丈夫だろ、捨てる時に魔力が多く残ってるなら問題になるかもだけどな、まぁ本当に育つかわからネェが試すのはタダだからな。よし、ちょっと魔力草の種を拾って来てやる」
それから、お父さまから防水性の高い容器を頂いて、秘密裏に魔力草の育成方法を研究に本腰を入れた。
面白い事に魔力草というのは土を必要とせず、魔力を帯びた水に漬けるだけで育つみたいで、研究は順調に進んだ。
最初こそ失敗続きで、全く芽が出なかったり、異常に根が育って私自身が取り込まれそうになったり、ラフレシアの花が咲いたり、マンドラゴラが育って大合唱したり、一瞬で枯れたりと、目も当てられない失敗が多く証拠隠滅が大変でした。
先生に厳選してもらった『ロックゴーレム化しそうにない石』を敷く事で根の張り具合が安定し、ようやく育成が軌道にのった。
容器も変更し、最終形は地球で言う所のハイドロカルチャーみたいになった。
試行錯誤はあったけど、どうにか魔力草を育てる事ができたという事です。
そしてそのお披露目となりました。
お姉さまとお父さまが見守る中、容器の中では真水に漬けた芽すら出ていない種が5粒。
そこに私が魔力をゆっくり注ぎ込む。
すると、ぷくっと芽が出て、そのまま10cm、20cmと成長してゆく。
魔力草は狭い容器の中で根を張り、絶妙なバランスで自重を支えていた。
最終的に葉が1mを越えた当たりで花が咲いた。
「お父さま、今です!」
「任せろ!」
お父さまには花を摘む様にお願いしていた。
華麗な剣捌きでさくっと切り落として頂きました。
そこで育成は終了、花のサイズは20cm程、1つの種から葉が4枚、1枚当たり1m程の大きさになった。
茎の部分は先生の好物らしく、美味しい美味しいと言いながら食べていましたが、根の部分は使い道がないので廃棄です、花びらはいい匂いがするので飾る事にしました。
花からは種が取れて、再び育てる事ができるという元手がかからない、良い感じのルーティーンになっていた。
花を摘まないで放置した場合は葉の部分の魔力を吸い上げてしまい、葉が枯れる事は研究でわかった事です。
そして、この種、色々と失敗しつつもどうにか咲いた花から取り出す事を繰り返し、これで25世代目となります。
今にして思えば、これは品種改良だったのでしょう。
「この葉が魔力ポーションの原料となるのね」
「(先生曰く)そうらしいです、できたらポーションの作り方を知りたいのですが、教本かそれに精通した人に教えを乞う事は出来ないでしょうか」
「ならば、隣領の錬金ギルドに聞いてみよう、この魔力草は一旦預かるぞ、実際にポーションを作って頂こう」
「よろしくお願いします」
◇ ◇ ◇
(父視点)
魔力草。
ざっくり書物で読んだ限りでは葉の大きさは2cm程で、水辺に自生するが育成方法は不明となっている。
まぁ、
まぁ良い、錬金ギルドに任せれば全て分かるだろう。
「なん………、ですか、これは」
「いや、魔力草なのだが?」
「いやいやいやいや、こんなの見た事ありませんよ!」
「そうなのか?娘が育てたら、こうなったと言っていたが」
「えええええ?待ってください!いま、魔力草を育てたと言いましたか?」
「ああ、その通りだ」
「ちょ、ちょ、ちょっと、葉を一枚、ポーションに加工してもよろしいでしょうか」
「ああ、そのつもりだった、頼むよ」
しばらく待って出ていると、疲れた錬金術師が出てくる。
「推定、16倍濃度の魔力ポーションが、50本出来上がりました」
16倍だけあって、色が濃すぎて飲むのに躊躇うレベルのポーションとなっている。
「ほう、葉一枚でか、中々な効率だな(知らんけど)」
「いやいやいやいや、異常!異常ですからね?こんなの見た事も聞いた事もありませんよ!」
「やはりそうなのか(知らんけど)」
「そうです、この価値って分かりますか?分かりませんよね?まず、この葉一枚で──」
値段の事を言われたが、私にはそれが高いのか安いのか判断しかねた。
だが、その錬金術師のルーデムロレイルという方は誠実な方らしく、私でも吃驚するような値段を提示した。
さらに、定期的に葉を提供する事を条件に、向こうから値段を吊り上げて来ると言う事態に。
彼はポーションに疎い私に教えてくれた。
通常は葉1枚からポーションが1本できるらしい。
2cm程度の葉でポーション1本なのだから、1mもあれば、50本は出来るという訳だ。
そして良質すぎたせいか濃度は16倍、それは水に薄める事で通常濃度800本になり、それでようやく一般のと同質のポーションになるらしいが、これがまた、濃度というのが重要らしい。
それは製造コスト、1回で16本分作れるから手間が少ない。
備蓄スペースは16分の1で済むし運送コストも同様に抑えれるのでとんでもない価値になるとか。
そして、魔力ポーションの定価は1本あたり1000ラントらしい。(ラントはこの国の通貨)
100ラントもあれば、庶民向けのお店で腹いっぱい飯が食えるくらいなので、冒険者にとってはそこそこ高価な物になる。
それが800本分がそのまま売れれば80万ラントの価値になる、その原材料になるので、葉1枚あたりの買取額は20万ラントとなる。
その差は加工費や瓶代、人件費、技術料等という事だろう。
今回、納品したのが20枚なので、400万ラントを受け取った。それは、領地の主力産業である農業の年収益の10%程に当たる。
錬金ギルドでは月に1度、同じくらいの量を買い取りたいと言われ、さらに王都やダンジョンを保有する地域でも買い取りがあるかもしれないが、買い叩かれるからやめておいた方が良いとの情報を頂いた。
さらに私達でポーションにまで加工してしまうと、錬金ギルドの仕事を奪ってしまう事になるのでやめて欲しいと言われたのだ。
この事、娘にはどう説明した物やらと悩む。
まぁ、ありのまま言うしかないのだが。
余談だが、魔力草を集めるのは冒険者ギルドの役割だが、あまり受けてくれないそうだ。
単価が安いのもあるが、生息地が危険地帯な事が多く、魔物退治のついででするにはリスクが大きいという話らしい。
それと、群生していないのが一番の問題なのだろう。
定期的な納品というのは娘への確認が必要という事を理由に保留とし、帰路についた。
帰ってすぐに
その上で錬金ギルドの事情を話した。
「と、いう訳なのだが、リリィ、ポーション作りは諦めてくれないか」
「お父さまがそういうのでしたら諦めてもいいのです。ただ、先ほどの計算おかしくありませんか?」
「というと?」
「通常の葉のサイズが2cmでポーション1本の所、1mだから50本という所です」
「どこが変なのだね?」
「重さを計れば分かりやすいのですが…」
娘は「参考例を分かりやすくするため」と言って、正方形の紙を取り出し、4つ折りにして再度広げ、斜めに線を入れた。
「この紙が葉っぱだとしますね。この紙を広げた状態が今回納品の葉っぱだとして、四つ折り状態が通常の葉っぱだとしますね。斜線の長さは2倍ですが、広げると面積は4倍ありますよね。それが、斜線が50倍になると、面積は2500倍になるんです、つまり原材費としての正当な値段は少なくとも2億ラントだったという事ですよ」
50倍と言われてピンと来なかったのと、400万ラントという金額に舞い上がってしまっていた。
その事を理解するのに少しの時間を必要としたが、次第に腹立たしさと娘に対する申し訳なさで、身震いし、涙腺が緩む。
「ちょ、ちょっと錬金ギルドに行ってくりゅ!!!」
まだ、日が高いので急げば錬金ギルドが開いている時間に間に合う。
殴り込みだ!これは完全に詐欺ではないか!
「待ってください、お父さま、とりあえず今回のはこれで良いではないですか、お勉強代としましょう」
「ヤダヤダ!言葉巧みに騙すなんて人として許して置けにゅ、しかも
「私達で加工して、錬金ギルドを通さず、直接冒険者ギルドや王都に納品すれば良いのですよ、しかも格安で」
「お、おお、そうだな、そうしよう、流石我が娘だ!」
「それでは改めて教本か教師の手配おねがいしますね」
「よし!今度こそお父さまに任せなさい!所で、先ほどの計算、とんでもなく早かったがいつ算術を覚えたのかね?」
「え!?それは~、ど、独学ですわ」
「おお、そうか!私の娘は天才だなぁ!」
リリィの部屋を後にして、
「しかし、葉っぱ1枚から、2500本のポーションが作れるとして、それを作る作業を
「絶対に無理です。間違いなく重労働になるでしょうから、人を雇って作らせるべきですわ」
「そうだ、領民の有志を集って、錬金術を皆で覚えればいいな、容器も作れるようになれば更に良い!」
「いいですわね!私も一緒に覚えます!リリィがどうしても知りたいと言ったら私が教えるわ」
「いいな、そうだ、殿下にも相談して少し関わって頂こう」
こうして400万ラントを元手に作業場や設備、倉庫を建て領民の雇用も兼ねた一大産業になるのだが、それは少し先の話。
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通貨について補足。
硬貨は1ラント硬貨をはじめとする、10、100,1000ラント硬貨が流通しています。
硬貨の鉱物的価値は額面相当となっているが、大半の市民は『ラントバンク』という魔道具で金銭のやり取りを行っているので、かさ張る硬貨を持ち歩きません。
さらに、大手ギルドが銀行機能を備え、口座の所有が一般的になっている事で、硬貨は貧民や下級庶民の為だけが使用している状況となっています。
上記の仕組みから、ラントバンクを所持しない貧困層とそれをターゲットにしたお店が集まる様になり、どの都市にも『
尚、ラントバンクは他国では使えないので、主要都市のギルドでの他国通貨への両替が必要となります。
この国の冒険者は大きな冒険の後、報酬を金貨が詰まった大きな袋で貰うなんて夢は抱かない様です。
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