第3話 我儘を言ってみたよ
「お父さま、ユニコーン飼いたい」
「「………」」
お父さまだけでなく、お姉さまや先生まで黙るってるの何なの?
だって、先生が『攻撃魔法はお前に早い!』って言うんだもん。
吸魔蝙蝠なんて気持ち悪くて嫌だし、妖精なんて見えないもの捕まえられないでしょう?じゃあ残ったのはユニコーンだけ、手に入れる方法なんて知らないからお願いするしかない訳だけど。
「だめ?」
「もうちょっと手ごろなペットじゃ駄目かなぁ?」
「うん、ユニコーンがいいの」
「えーと、じゃ、じゃあ、お父さん、ちょっと頑張って探してみるよ、……期待しないでね」
お父さまは肩を落として部屋を出ていく。
何かダメそう。う~ん?そんなに難しい事なのかな?
「あははは、無理でしょうね、まず捕まえられる人が居ないもの」
「そうなの?じゃあ私が行ってみようかな」
「え?えっと……リリィ、歩けるの?」
「うん、大丈夫」
「森の中を何時間もよ?」
「鍛えたから大丈夫」
まぁ、森の中はクマに乗るのが前提だけど。
「それなら──」
とててて、と、お姉さまは部屋の隅っこまで移動し、両手を広げた。
「──ここまで歩いてらっしゃい」
ふふふー、待っていました。
日頃の歩行訓練の成果の見せどころです!
まずはベッドから降りて、見事立って見せましょう。
「んしょ」
少しふらつきながらも、どうにか立ってられた。
どうよ?完璧でしょう?といった感じでドヤ顔を披露。それを見て「?」マークを頭上に浮かべるお姉さま。
う~ん、この程度では吃驚しませんか。
よ~し。
と、て、とてて、とて。
と言った感じに三歩、四歩と歩いて、やっと中間点。
バランスこそ安定していないけど、我ながら上達したと思う。
変な冷や汗が出るけど、このまま一気に歩ききろう。
とててて、ばたっ。
「リリィ!大丈夫!?」
勢いをつけて踏み出し、あと二歩くらいという所でバランスを崩して倒れた。
もうちょっとだったのに、
でも、結構歩けた、きっと褒めてくれる。
「これじゃあ、全然だめね」
「ええええ、でも、結構歩けたよね?」
「ふらふらだったじゃない、危なっかしいわ、ほら」
背中に乗りなさいとばかりに背を向けてしゃがむお姉さま。
大人しくおんぶされ、ベッドに戻された。
少しは歩けるようになったと褒めてくれたっていいのにと、少しいじけ加減になってると先生が口を開く。
「そもそも、歩けない状態だった所を見せてないんじゃ、上達したって分かんないじゃネェの?」
盲点!先生、賢い!
じゃあこれをスタート地点として、次はもっと上手に歩ければ褒めてくれるかな。
「ほら、フェンリルも頑張れって言ってるよ、もっと食べて力つけようね」
「うん!次はお庭で歩きたいな」
「だめ!こけて擦りむいたらどうするの、部屋の隅まで5秒で行けるようになるまで、お庭は許可できません!でも、凄く歩けてると思うよ、きっと精一杯頑張ったんだね」
そういって頭を撫でてくれた。
頭を撫でられ続けると、心がほわほわして、やがて眠くなる。
お姉さまの手には魔法か何かがかかっていて、癒してくれてるのだと思う。
あれ?もしかしてお姉さまは聖女なのでは?って、これはただの願望。
推しが一番重要なポジションであって欲しい、そして重宝されてほしい。
それはかなり贅沢な願望なのはわかってる、でもそう言うのを願ったってバチは当たらないよね。
「そうそう、いいニュースよ。喜びなさい、王子様が………あれ?寝ちゃったか」
◇ ◇ ◇
(フェンリル視点)
ルルゥは俺様を抱きかかえ、リリィを見つめている。
リリィの活動時間は非常に短く、今日も夕食前に寝てしまった。
医者はよく眠る原因はわからないと言ってるが、何と言うか居た堪れない気分になる。
「……フェンリル、お願いがあるの。
もし、リリィが無理をしそうになったら止めてあげて、そしてリリィを助けてあげて欲しいの。
もし、次に高熱が出たら助からないだろうとお医者様が言ってたわ。
きっと、よく眠るのは回復してる証拠だと言ってたのだけど、食が細くて腕や足に肉が付いて無いのよ。
あ、でも、顔だけは少しだけ健康的になったかしらね。
ただ、最近よく夢に見るの、また高熱を出して今度は本当に死んじゃうの。
私、リリィが居なくなるなんて耐えれないの。フェンリルもそうでしょう?
って、フェンリルには理解できないよね。
あははは、やんなっちゃうわ、こんな弱気な姿、リリィには見せられないわ。
私ね、活発な振りをしていればリリィが元気づくかなって、ちょっと無理しちゃってるの。
本当は、不安に押しつぶされそうで、夜中に泣き続けている臆病な子なの。
さっきだって、ふらふらと歩くリリィをみて、止めたくて仕方がなかったわ。
でも、できない事をできないって分かってないと、外で歩きたくなるでしょう?
どうしたらいいのかな、私はリリィが生きててくれるだけでいいのに……」
あわわわわ。
ルルゥには言っても伝わらネェけど、超伝えたい。
リリィが夜な夜な目を覚ましてはクマを使って散歩をしている事を!
そして、こっそり食料を漁って食べている事を!
いつも見つかったらどうなるんだろうってハラハラしてみてるんだけどヨォ。
これ、ルルゥが見たら卒倒するんじゃネェか?
俺様から見ればリリィの食は歳相応だ。
それでも肉がついていないのは、魔力を過剰に生成し続けているせいで栄養が体に行き渡らない。
要は体は常に軽い飢餓状態という訳で、何らかの異常があるのは確かだ。
今のところ、夜中の散歩は屋敷内に限定されているが、それはそれで危なっかしいんだ。
それに味を占めたリリィは外に出たいと思い始めてる様だぞ。
まぁ、その主な目的はユニコーン探しなんだと思うが、単に探検心からきているという可能性も否めない。
そしてその日の夜も、やはりと言うべきかリリィは目を覚ました。
「夜は寝るモンだぞ、ルルゥと遊ぶ時間が減るのは嫌じゃネェのか?」
「それは嫌だけど、散歩はしたいの、魔法も上達してきたし」
「それ、誰かが見てる所で出来ないのかネェ。ちゃんと許可を貰ってやった方が絶対に良いぞ」
リリィは頬をぷくぅと膨らませ、黙ってしまった。
そして夜中の散歩が始まり、今日も屋敷内をうろつくだけかと思いきや、外に出ようとする。
「おいおいおい、外に出ないって言ってただろ??やめようぜ、誰かに見られるかもしれネェぞ」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと歩くだけだから」
「クマの足が汚れるじゃネェか。そんなん即バレだぞ」
「ふふふー、実はソノ問題はクリアしたの、なんと、ちょっとだけ宙に浮かせる様になったのよ」
「うお、マジか。スゲェ!いつの間にそんな事が出来る様になったんだ」
「凄いでしょぉ。ちょっと猫型の……、じゃなくて昔読んだお話にインスピレーションを受けてね、やってみたのよ」
「お前文字読めたんだな、って、それで何処まで行くんだ?」
「お庭の噴水までかな。いつも窓から見てるだけだったから間近で見てみたいの」
窓から見えるというのも、クマに乗っていればの話だ。
これまでは其れすら見えていなかったのだから、興味を持ってしまったのだろう。
まぁそこまでなら問題にはならないか。
そう思ってた俺様、超甘かったぜ。
噴水横にある長椅子には月明かりに照らされた少年が佇んでいた。
逆光で顔は見えネェが、キラキラと光る噴水がまた神秘的な演出となっている。
リリィはその男子を見て固まっている。
もしかして見惚れてる?リリィは男に免疫なんて無いだろうしな。
というか、コイツ誰だ?この家には男の子どもは居ない筈だぞ。しかも、高そ~な服装を着てやがる。
「クマ!?」
「駄目だ、リリィ!逃げろ!」
「え、う、うん」
「え?犬?と女の子?」
だから俺は犬じゃねえええええ!
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