第4話 王子様が来たよ

 今日は何故か、朝から私にドレスを着せられ、めいっぱいのお洒落をした。

 とはいえ、ベッドから離れる事はお父さまが許さないので立った姿をお見せする訳ではない。

 ベッドの上で邪魔にならない程度のシンプルなドレス、と言うより豪華な寝間着だ。


「今日は何があるの?」

「ふふーん。聞いて驚きなさい!なんと、王子様がこの屋敷に来ているのよ!」

「へ、へえ、そうなんだ、なんというお名前の方なのかなぁ?」

「何?もしかしてあんまり嬉しくないの?アレクセント様だけど、知ってるの?」


 んんん?知らない人ですね?

 てっきり、ルルゥの婚約者になる人や、乙女ゲーム側に出てくる登場人物かと思ったけど、どちらでもなさそう。

 つまり、ゲーム中に名前だけがちらっと出た私(モブ以下)よりも更に下って事ね。

 緊張して損した、お洒落なんて必要無かったんじゃない?


「じゃあ入って頂くわね、王子様どうぞ」


 ガチャリとドアが開いて入って来たのは、端正な顔立ちのお子様だった。

 真っ直ぐ育ててば、そこそこの美男子になるだろうと思うけど、今の時点でルルゥに釣り合いが取れるとは到底思えない。

 まぁ、モブ以下以下私より下だからね。

 だけど、相手を見て先生は一目散にベッド下に隠れてしまった。

 男子は苦手なのかな?


「初めまして、アレクセント・グレイスラントだ。王位継承権7位なので、あまり緊張せずに接してくれると嬉しいな」

「初めまして、リリィルアです、病弱な為、ベッドの上からで失礼します」


 軽くお辞儀をした所で緊張感が増してきた。

 モブ以下以下だとは言え、男の子、しかも同じくらいの年っぽい。

 実は名前が出てないだけで登場はしていたという事を警戒して、パッケージや登場人物一覧とかのイラストを回想から引っ張りだしてチェックするが見つからない、全くもって見つからない。

 前世の記憶の欠落し始めてるのか、本編側のキャラクターか、それが問題だ。

 いや、まてよ?私みたいに2年以内に亡くなる設定だったら、知らないのも道理。

 そうかぁ、君も私と同じなのね、可哀想だけど、お互い頑張って生き延びようね。

 そんな同情と哀れみの目を王子に向けてしまった。


「うーん、もっと喜ぶと思ったのだけど、まぁいいわ。王子様はね魂強度が高い子に興味があるんだって。以前来てたお医者様の一人が話のネタに触れ回ってたみたいよ」

「それなんだけど、一応、僕の方で口止めはしておいたよ。あまり噂ばかり先行するのも嫌じゃないかなと思ってね。余計な事をしたかな?あと、できたら二人でお話したいのだけど、いいかな?」


 私がそれを許可すると、お姉さまはニヤニヤした顔で部屋を後にした。

 若い男女が部屋に二人きりで、何も起こらない訳がなく。って、流石に幼過ぎてそんなのないよ!


「今日は、犬は連れていないの?」

「犬じゃネェ!フェンリルだ!」


 隠れていた先生が犬というキーワードに反応して、出て来てしまった。

 というか、どうして先生の事を知ってるのでしょう?


「へぇ~、フェンリルなんだ、いいなぁ僕の物にならない?」

「ならネェよ!なんでお前なんかの物にならなきゃいけネェんだよ!」

「まってまって、どうしてフェンリル先生の声が聞こえてるの?」

「そりゃぁ、こいつも魂強度が高いって事だろうさ」

「そういう事、君も同じ世界から来たって事であってる?」

「!!??………えっとあなたのプレイしたの、リトルルルゥストーリー前日譚の方?」

「そっちはやってない、グランウィッチと六人の王子様本編の方」


 王子は私の手を取って、キラキラした目で私を見つめてくる。

 私は少し引いているけど、この出会いが悪い物ではないという事は分かってる。

 私には本編の知識が殆どない分、補完できるかもしれないのは大きなメリットだと思う。さらに私が前日譚の方を教える事でギブアンドテイクが成り立つ。


「これから、ちょくちょく情報交換をしようよ?本編の事なら大体の事は知ってるよ」

「助かります、私も前日譚の方はやりこんでいますので、聞いてください」


 そうだ、これだけは押さえておかないといけない事でした。


「アレクセント様は本編に登場してたのですか?」

「うん、名前は出てたね、王族の集合写真で出てたくらいだけど」


 姿が描かれていたと!?

 ま、負けました。完敗です。


「あ、あれ?大丈夫?リリィはどうなの?」

「えっと、名前と死因が出てただけで、前日譚が始まった時点で死んでますわ」

「ええええ?死にそうなの?大丈夫??」

「最近は熱を出さなくなったので、このまま生き延びる可能性がある、と思いたいです」

「じゃあ、何らかのストーリー改変をどんどん加えて行ったほうがいいよね、例えば僕と君が婚約するとか?」


 ふむ、悪くない提案かもしれない。

 フェンリルもそうですが、婚約といった大きな出来事というのは前日譚にも本編にも触れられていない以上、これからのストーリーに影響を与える可能性が高く、私達の知らないストーリーとなる可能性があると思うのです。

 例えば私が学校に入学して、常にお姉さまにべったりしていれば本編の内容が改変される事を余儀なくされると思うのです。


「いいですね、お姉さまが婚約するより良い方向かも」

「じゃあその方向で進めよっか。情報交換は手紙になるけど、今すぐ知りたい事はある?」

「まだ、前日譚になる前の状態ですから、まだコレと行った事は無いですが、一つだけ、その、ルルゥ生存ルートって本当に無かったの?」

「それが本当になかったんだよ、攻略掲示板見てたから間違いないよ。だからこそ前日譚が作られた訳だけど、それを見たユーザによってより一層生存ルートが欲しいという嘆願が増えてね、制作会社ナンキンジョーは、修正パッチでの実装を検討しますと言っていたんだ」

「この世界が、実装された世界であるのを願うばかりね」


「ところで、昨日のクマってこれだよね、僕も肩に乗ってみたいんだけど、お願いできないかな?」

「昨日のクマ?いいですよ?」


 昨日って何の事ででしょう?

 背丈は父よりも高く、ベッドに横にして置くと寝るところが無くなるので、これまでは部屋の一角に鎮座し、完全に置物となっていました。

 貰った当時はもっと小さいのが良かったと、我儘を言った記憶がある。


「おおお、高い!高いな!おもしれえ、この魔法、俺にも使えるかな」

「リリィはすぐに出来たぞ、俺様の教え方がよかったからな!」

「だから先生なのですね!私にも是非お願いします!フェンリル先生!」

「先生!?お、おう任せとけ!」


 誰にでもちょろいな先生。

 結果から言って、王子はクマを操れませんでした。

 帰ったら猛特訓するそうです。


「いやぁ、中々難しいねっ、それにしても昨夜に見た時は目が点になったよ」

「昨夜?」

「ほら噴水に行った時に居ただろ?もしかして気づいて無かったとか言わネェよな?」

「あの時は、噴水が月明かりでキラキラして綺麗で見惚れてて……素敵でしたね、殿下も見られてたのですか?」

「「え??」」


 どうして噴水の話が出てくるのでしょう?

 まさか窓から見られてたとか?

 今後は隠蔽魔法を併用しないといけないかもですね……、まだ使えないけど。


「そうそう、ユニコーンって捕まえるの難しいのですか?」

「そうだなぁ、珍しくはあるけど、そこまでではない筈だよ。買うとなったらかなりの値段するから君の家では厳しいかもね」

「ウチってそんなに貧乏なのかしら?」

「多分だけど、君の治療費でかなり財政が圧迫されている筈だよ、特にソウル計、あれはここの税収何年分だったかなぁ……」

「へ……へぇ……」


 まずいまずいまずい!

 父の死因が、どうして酒場になっていたのかがずっと疑問だったのですが、それは私のせいで財政が傾き借金地獄になってって、果てはお家の取り潰しになったんだ。

 慣れない生活をしたせいで母は病気になって死亡したと考えれば、話が綺麗に繋がってしまう。


 そ、そうね、そうだわ。

 私が死なないようにするのも大事だけど、この家の財政を立て直すのも重大ミッションね。


「あ、あのさ、婚約者の家に資金援助するのは普通の事だと思うんだよね」

「……そうなの?」

「借金の肩代わりくらいはできると思うんだよ」

「どうしてそこまでしてくだらさるのですか?」

「と、兎に角、そういう事だから、考えてて!」


 その言葉を残して、ばたばたと部屋を出て行ってしまいました。

 まぁ、婚約となると家同士の話ですから、簡単ではないのでしょう。

 ましてや、相手がこんないつ死ぬかも分からない病弱令嬢ですから、親の許可も難しいかもしれません。

 親って国王様?だよね。

 んんん……、やっぱり無理じゃない?


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登場人物紹介

・アレクセント・グレイスラント(第七王子、末っ子)6歳

 もう一人の転生者。二人目の王妃の子(前王妃は死去)性格は打算的で演技派。

 二卵性双生児で兄(ミルセント)は本編の攻略対象の一人。

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