第54話 赤鬼

 宮本米子はすぐに宙を駆け、空を斬り、赤い斬撃が飛んでくる。

 顔に飛んできたそれを防ぐように闇を出したのが間違いだった。

 一瞬、視界を遮ってしまった。危険信号が体から鳴り、本能が体を動かし背中から倒れ込む。

 僕の顔があった部分を刀が通った。

 倒れ込んだ姿勢のまま闇を突き出し、後ろに下がるが赤い斬撃が飛んでくる。同じ失敗をしまいと体を逸らして避けるが、そこへ切り込んでくる。

 僕は横から闇で殴る、が空中を跳ねて、加速した宮本米子は止まらなかった。

 頭から切られる寸前、闇で僕の体を吹き飛ばした。無様な格好をしながら転がるが、隙を見逃してはくれない。

 そこへ斬撃が飛ぶ。

 立ち上がるが、咄嗟に出した両腕に傷が入った。骨まで届き、激痛により体から悲鳴が上がる。必死に体を動かして、死の気配から逃れる。僕がいた場所には大きな亀裂が入っていた。

 まだ追撃は止まらない。面で攻撃するように闇を出すが、直ぐに切られ、跳んできた少女に噴き出る血を浴びせるが、血は空中で固定される。

 その光景からどうして空中を歩けるかの見当がついた。が、少女の攻撃は止まらない、そのまま宙を駆けてきた。


 覚悟を決める。

 

 僕が左腕を前に差し出し、肘より前が落ちた。

 目前に迫った宮本米子の手には穴が開いている。


 直ぐに闇で落ちた左腕を拾い、下がる。

 流石に、とは思っていないだろ。

 闇を纏わせ、血を一時的に止めるが時間の問題だろう。激痛を飲み込み、一瞬だが両親と妹が見えた。死が目の前に近づいてきている事を実感する。

 直ぐに殺さなければいけない。

 宮本米子は呻き声をあげているが、狂気的な笑みを浮かべてくる。

 口に明かりを加えて、右手で左腕を持つ。現物さえあれば、小町ちゃんの能力で修復は可能だ。

 朦朧としている意識を叩き起こし、ダンジョン内の闇を支配する。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 聞くものは卒倒するような、鬼の笑い声。それを合図とするように、宙に固定されていた血が僕に飛んでくる。散弾銃のように飛んできた血を避けずに受ける。

 貫通はしなかったようだ。

「最高だ! 最高だ! 最高だ!」

 痛みと五月蝿い声がなんとか僕の意識を繋いでいる。

「お前を殺して、私は!!」

 一直線に駆けてくる。

 咄嗟に左腕を宮本米子に投げた。振りかぶり、左腕が無常にも真っ二つに。勢いを止めず、襲いかかってくる宮本米子は、

「最きょu」


 膨大な闇につぶれた。

 明かりは、目の前に赤を塗りつぶすほどの黒を照らした。

 僕の視界も黒に染まって、意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る