第55話 結果

「…………さん、……さん」

 意識が闇の中から起こされる。

「……うぅ」

 口から情けない呻き声が出た。

「誰だ」

 絞り出すように出した声は弱い。たくさんの血が流れたからだろう、視界がぼやけ、僕を覗き込むよ人間もわからない。

「良かった。意識が戻ったすか」

 この声はフラか。徐々に意識が戻ってくると共に、周囲の様子も見える。

 太陽が僕を照らし、どうやらダンジョンから外に出たらしい。

 起きあがろうとすると、全身に激痛が走る。至る所が痛むが、なんとかして起きあがろうと左腕を動かすと地面を触れることなく宙を切る。


 そうか、切り落としたんだったな。

 

「駄目っす。無理に起き上がらないでください」

 そうフラに宥められ、僕は倒れ込んだ。

「小町を呼んでくるんで安静にしといてしてくださいね」

 フラはそう言うと凄まじい速度で駆けてった。

 最下層に血まみれで倒れていたはずだったが、無事でいるのは小町ちゃんのおかげだろう。体を触ると所々から柔らかい感触がする。綿を詰めてくれているようだ。

 右腕でバランスを取るように起き上がり、左腕を見ると肘より先がなく、綿で覆われている。今まで通りに過ごすことはできないだろうが、慣れていくしかない。


 前方から小町ちゃんがやってきた。手にはタブレットを持っている。

「小町ちゃん、ありがとう」

『良かった。無事に意識が戻りましたか』

「お陰様で。他のみんなはどこにいるんだ?」

『他の皆さんはまだダンジョンを探索しています。道中モンスターに遭遇しなかったので数を減らそうと。フラさんも今探索しに行きました』

 なるほど。

「僕も行かなきゃな」

 そういうと、立ち上がる。左右のバランスが取りずらい。

『駄目です』

「左腕を失っただけだ。全然戦えるぞ」

『十分重症ですよ‼︎ それに傷口を塞いだだけで、治癒はしていないんですからね』

 麻痺している感覚が戻ってきたのか、左腕から強烈な痛みがした。

「イタタタ」

『ほら、安静しておいてください』

 小町ちゃんからも宥められ、ビニールシートの上に座らせられる。

「そういえば本部の方に元に戻せる能力の人が居た気がするけど」

『居ますけど、時間が足りるかどうか』

「時間?」

『えぇ、今日中に処置してもらわないと駄目ですね』

 なるほど。

「もう一つのパーティーはどうなってる」

 メシアを制圧するためのパーティーだ。

『死人が出ました』

 …………。

『遭遇して一太刀でやられたらしいです』

「残念なことだな」

『そういう職場ですよ』

 どこか達観したように表情を見せる。

『人が死ぬことには慣れてますよ』

「慣れてはいけない感覚だけどな」

 沈黙が流れる。

「……メシアの人間は何処にいる?」

『船に乗って協会の方へ連れて行かれてますね。そのパーティーも一緒に乗っています』

 つまり、この島にいるのは僕たちだけか。

『あと、夜目さんと虎子さん、数名の職員の方がいますね』

 やることは済ませたか。あとはダンジョン内の探索だけ、モンスターの記録を取らなきゃな。

「……ダンジョンに行くか」

『駄目です。安静にしてください』

「小町ちゃんがいないけど、怪我でもしたらひとたまりもないんじゃないか」

『よほどの重傷じゃないかぎり、フラさんが連れてきて措置が間に合いますよ。現に黒宮さんもフラさんが抱えてきたんですから』

 あぁ、なるほど。最下層で倒れていた僕をフラが小町ちゃんの元に持って行ったのか。

『あと、杏奈さんもいるんで早々怪我しないと思いますよ』

「そうか」

 潮風が吹き通る。来る時には見られなかったカモメが空を飛んでいる。

『探索が終わるまで寝てでもしてください』

「それは不味くないか」

『帰りのフェリーが来るまでやることはありませんよ』 

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