第43話 光と闇
「ひっ、ひぃぃ!」
「たすけてくれぇ!」
その光景を一瞬でも美しいと思ってしまうことすら、恐怖でしかない。
屋敷にいた信者たちは必死に逃げた。
だが何故か扉はビクとも動かず、窓を壊そうとしてもヒビ一つ入らない。
何故、こんなことになってしまったのだろう。
こうなった原因を考えようとするが、冷静な判断など出来るわけもない。
今、目の前で鈍く光る剣を持った少女が自分達を殺そうとしている理由なんて、分かるわけがない。
血を浴びた少女の笑みが死ぬほど美しいと思ってしまうことが、怖くて仕方ない。
「貴方達は悪魔様の贄となるのです。貴方達の魂が悪魔様のお役に立てるのですよ、これ以上の喜びはないでしょう?」
「な、何を……贄ならお渡ししたではないですか! もう何人も……何十人も!」
「あれだけで悪魔様が満足するとでも? 悪魔様は言いましたよね、良い魂を連れて来いと。もっともっと上質な魂を連れてきてくださらなきゃ、悪魔様は満足されませんよ」
「そ、そんな……」
「そもそも、悪魔が人間の言うことを大人しく聞くと思っているのですか? 贄を捧げ続ければ自分は平気だと思っていたのですか? そうだとしたら、なんて浅はかなんでしょうね」
ディゼルは信者の一人を剣で斬り付けた。首から鮮血が噴き出し、床に血だまりを作っていく。
そう。悪魔を信仰していてまともな人生を歩めるはずがない。こうなることも分かっていたはずだ。
それでも、心のどこかで思い続けていた。自分なら大丈夫だと。そんな確証もない自信が、何故かあった。そんな過信が、この現状を作り出してしまったのかと、信者の一人、彼らを纏めていた屋敷の主である初老の男は後悔した。
「た、たすけてくれ……も、もっと人間を、生贄を連れてくるから!」
「もう遅いのですよ。悪魔様は貴方達に飽きてしまったのです。悪魔様を喜ばすことが出来なかったのです」
「そ、そんな……も、もう一度チャンスを!」
「そんなもの、ありませんよ。悪魔様が飽きたと言ったら、そこで終わりです。慈悲は、ないのです」
変わらず笑みを浮かべるディゼルに、男はただただ涙を流すばかり。
彼女はいったい何者なのだろう。頭の隅っこで冷静にそんなことを考えている自分もいる。
残虐なことを平気で行う悪魔のようでもあり、悪逆非道を繰り返した自分を罰する天使のよう。どちらにしても、死からは逃れられない。
「さようなら」
まるで鐘のような美しい声で、ディゼルは別れの言葉を告げる。
男も覚悟を決めて目を閉じた。
その瞬間だった。
男が背にしていた屋敷の扉がゆっくりと開かれたのだった。
悪魔の力で封じていたはずの扉が開いた。少し驚きはしたが、いつかはこうなるだろうと思っていた。
「…………久しぶりね、聖女様」
「お姉様……」
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