6 【いそ】~【いためる】

 一か月がたった。

 辞書により様々な食べ物を得ることができた。ただ、同時に食べ物じゃないものもたくさん食べてきた。医者がレントゲンを撮ったら大変なことになっているかもしれない。丼や皿だけでなく、コップや串も手に入れた。あとは辞書に「食い物じゃないが食い物と思わせる」ことができるかの勝負だ。

「今日は……お!」

 ページを開き、早速目についたのは……

「イソギンチャク……食ったことはないな……」

 ちゃんと現れた。食べられないこともないと聞いたことがある。

「いたち……?」

 これも、小さな動物が出現した。もはや生き物なら何でも食べると思われていそうだ。

「そして……ついに来たな……板!」

 何も起こらない。いやそうなんだけど。食べ物じゃないけど。

「俺、食べちゃうよ。板食べちゃうよ。食べたいなー」

 辞書には今日までの俺の努力を思い出してほしい。ろくでもないものをなぜ食べてきたのか。

「どうかなー、食べるんだけどなー」

 辞書が少しだけ、プルプルと震えた気がした。そして、何と木の板が現れた。1センチメートル四方の……

「おお……いやまあ、確かにね。食べるとしたら、だよね。でもありがとう」

 なんか、憐みのおまけでもらった気がする。これではさすがに船は作れない。

「板の間とか? 板目は?」

 他のものも言ってみたがさすがに無理だった。

 とはいえ、とりあえず普通の食べ物以外も行けることはわかった。そのうちすごいものを出してくれるかもしれない。



本日の辞書めし

・イソギンチャクのこりこり煮(金庫と海水で)



 昔、イソギンチャクを食べる地方のことは聞いたことがある。たぶん煮ていたはずだ。どうせ調味料がないので煮るか焼くかしかできないのだけれど。

 いたちはどう食べていいものかわからなかったので、煙でいぶることにした。燻製っぽくしてだめならあきらめるしかない。うまくいったら保存食にする。

 イソギンチャクはうまいという感じはしなかった。やっぱり味付けがちゃんとできないといろいろと厳しい。無人島としてはずいぶんぜいたくな悩みなのだろうけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る