第4話 お願い事

 どこへでも行くと言った私の返事を聞いたメルキオールさんは、途端に表情を明るくした。


「助かるよ。僕のお願いを聞いてくれてありがとう」


 安堵したといった様子で、私の手を握って嬉しそうにしている。


「君が王都で不自由のないようにするつもりだから、向こうに行ってからでも何か要望があればすぐに言ってくれ」


「御心遣い、ありがとうございます。メルキオールさんに早速、お願いがあるのですが」


 交換条件とは烏滸がましいのだけれども、一つだけ譲れないものがあった。


「何?」


「猫のキティを連れて行ってもいいでしょうか」


 キティは真っ白い猫で、私がここに来て初めて庭に散歩に出た日に、迷い込んできた子猫だった。


 およそ二年前の当時、ボロボロで、あばらの浮いたガリガリで、泥だらけの姿だったキティを見て、何だか自分の姿を見ているようで、無理を言って飼い始めたのだ。


 キティはオッドアイで、左目が緑色、右目が青色で、後からわかった事だけど、右側の聴力が悪いみたいで、だから天敵に狙われたり餌が見つけられなかったりで、あんな姿だったんだ。


 片方の聴力が悪いって、そんなところまで私と一緒なものだから、ますます放っておけなくなった。


「それくらい、お願いでもなんでもないよ。可愛がっている猫くらい、いくらでも一緒にいてくれて構わない」


 今度は私が安堵する番だ。


 メルキオールさんは、基本的にはとても心優しい人なのだ。


 なので、私のような欠陥品とは、いつ離婚してくれてもいいと思っていた。


「三日後、王都へ向けて出発するから、それまでに支度はできそう?」


「はい。大したものはありませんから」


「必要なものは王都で買い揃えるから、心配しないで」


「いえ……私には……」


「あ、それから、君の侍女のリゼにも一緒に来てもらうから安心して。彼女は君の保護者らしいからね」


 姉のような存在のリゼが来てくれるなら、なんの心配もない。


 ドレスを戦闘服だと言った、先ほどのやり取りを思い出して、思わずクスリと笑ってしまう。


「君は……たくさん笑うといいよ……」


 その言葉に顔を向けると、ほんのりと頬を赤くしたメルキオールさんを視界に捉えていたのだった。




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