第5話 メルキオールさんのこと


「僕が部屋までエスコートしよう」


 話し終えて、部屋に戻る際に、私の右手を取ってメルキオールさんが言った。


 ここの屋敷内は慣れているから大丈夫だけど、せっかくのメルキオールさんからの申し出だ。


「ありがとうございます」


 にっこりと笑いかけてお礼を伝えた。


 たくさん笑うといいと言われたから、慣れない人に笑顔を向ける練習だ。


 領地の別邸に滞在している間、メルキオールさんからそれなりに事情を教えてもらった。


 なんでも、メルキオールさんは、とある御令嬢から熱烈なアプローチを受けているそうだ。


 結婚していると言っても、信じてもらえなくて、迷惑していると。


 基本的にはメルキオールさんは女性に興味がないので、女性に言い寄られるのは好きではないらしい。


 女性に興味がないと言っても、男性や幼女が好きだったり、その他特殊な嗜好の持ち主ではないとのこと。


 なるほど、私に防波堤の役目を担ってもらいたいのか。


 波状攻撃のように押し寄せてくる女性達の盾となるのが、私の役目。


 ならば、喜んでこの身を捧げましょう。


 とは言ってみても、戦場に行くわけではないので、夜会にでも参加して、メルキオールさんと腕を組んでニコニコしていてくれたらいいとのこと。


 現在22才となったメルキオールさんは、植物が大好きで、自宅で珍しい花などを育てては王宮に献上しているし、王家所有の温室の管理責任者なんかも勤めている。


 そんな植物オタクの彼が、爵位を継いだのは私と結婚する少し前のことだった。


 植物と過ごす穏やかな日常を守って欲しいとお願いされれば、腕まくりをして張り切って“任せてください”と答えていた。






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