Ⅱ 流転 -Vicissitudes-

 くっ! わたしはリーフ・チャイルド! 神翼しんよくの騎士!!

 だが、悪夢の再誕ルキフグロフォカレはリーフの眼力を受付けなかった。

「また遅刻か佐藤!!」

 その時、「先生!」「先生!!」と、リーフの後ろから、男女の声が聞こえた。

 援軍か!? リーフは振り返る。だがそこに居たのは二人の悪魔。

 女の方がふふふと笑った後言った。

「すべて見させて貰ったわ」

 男の方もくくくと笑ってから言った。

「あぁ、すべて見させて貰ったね」

「な、何をだ!」

 女の方が笑いながら言った。

「あなたが赤信号に阻まれ、荒い息を吐き、そして走り出して、ゴミ捨て場の生ごみを漁るカラスを見て顔を顰め」

 男の方が大袈裟に両手を広げて言った。

「曲がり角で猫にぶつかりそうになって驚き、校門の前で、体育の坂上先生に遅い事を怒られて、へらへらと許しを乞う姿をね」

「や、やめろっ!! そんな事は!!」

 リーフの叫びを無視し、二人は悪夢の再誕ルキフグロフォカレに悪魔の助言をした。

 女は言う。

「わたし達は推薦します!」

 男が言う。

「この佐藤さとう 葉子ようこを!!」

 違う!! わたしの名は、リーフ・チャイルド!!

 リーフの心の叫びは二人には通らない。

 男は続ける。

「高校に入ってより、彼女は毎朝、足を鍛えて来ました」

 女は涙を浮かべながら言う。

「その毎日の涙ぐましい努力。ちょっと早く起きればいいのに、その怠惰な心には逆らえない、悲しき定め」

 男は言う。

「だがそれは」

 女が言う。

「力となる!!」

 二人は両手を掲げて手の平と平を合わせた。

 それから二人は体を一回転させ、指し示す。

「そしてキミには」

「アナタには」

「「空想の力がある!! 葉子リーフ・チャイルド!!」」

 リーフの体に電撃が走る。今まで、今まで、この絶大過ぎる力を、隠して来たと言うのに、と。

 二人は続けた。

「彼女は体育祭で長距離に」

「学芸会では台本書きに」

「「してください!! 彼女の才能をかす為!!」」

 葉子リーフ・チャイルドは、膝を突きながら、荒い息の下、ようやく、そう、絞り出した。

「お前達は、いったい、何者、だ」

 女は笑う。

 男も笑う。

「わたし達は」

「俺たちは」

「「すべての生徒の才能を見出し、それをしてかすもの! 推薦部!! 人呼んで『推し活おしかつ』だ!!!」」

 二人のキメポーズに、教室は静まり返る。

 葉子リーフ・チャイルドは思った。完敗だ。

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