第8話 餃子の王将

 餃子の王将――


 関西を中心に、直営店500店舗以上を展開。フランチャイズとしても200店舗以上と契約している、全国約750店舗超の中華料理チェーンだ。

 創業は1967年。

 看板名からわかる通り、野菜と肉の旨味を凝縮した餡をもっちりした皮で包み上げた餃子が看板メニューだ。オープンキッチンスタイルとして、カウンター席からは調理をしている様子がみてとれ、お客さんの目を楽しませてくれる。

 創業地、つまり一号店は京都府四条大宮にある。ポイントとしては、京都に一号店がある、という点。

 王将ときいて、あれ? 二つないか? 

 と思った方は通な方だ。俺も「王将」とはどちらを指すんだと一瞬だけ混乱した。

 そう、王将は、「餃子の王将」「大阪王将」、この二つの看板がある。これは、よくある運営会社がブランドごとにのれんを変えているわけではない。単純に別会社なのだ。

 元々このチェーン店は一つであったが、創業者の親族がのれん分けという形で、大阪府都島区京橋に一号店を構えたことから「大阪王将」はスタートした。こちらも100店舗以上を展開しており、両者ともに餃子が看板メニューであることには変わりなく、味も甲乙つけづらいくらいに旨いときている。

 想像しただけで……ビールが飲みたくなってしまう。


 飛田さんとだったら。

 どんな。

 エロく。

 飲む。

 んだろう――


 ――と。

 こんな、チェーン店の沿革、歴史に思いを馳せながら、大路さんと訪れたのが餃子の王将だ。


「あたし、オーショー好きなんですよー。ここって知ってますか? 店舗ごとにオリジナルメニューがあるんですよ」


「え? そうなの?」


 えっへんとばかりに大路さんはテーブル席に備え付けられたメニュー表を手に取り、「ここ、ここ」と定食メニューを指し示す。


★店舗限定おススメメニュー

 ニラレバ、チャーハンセット

 ラーメン、エビチリセット

 などなど。


 都内のオフィス街は飲食街の激戦区。ビルの隙間を縫うようにサラリーマン向けの色々なチェーン店が軒を連ねている。当然、この付近には日高屋も進出しているし、中華料理以外にもファーストフードも林立し、ほぼ全てのジャンルが集結している激戦区となっている。


「定食メニューって、いわゆる型はあるんですけど、店舗ごとにある程度組み合わせ自由なんですよ」


 うしししとしたり顔の大路さんは、嬉しそうに語る。

 つまり、こういうことらしい。チェーン店の一番の強みである、いつ、どの店舗でも同じクオリティを楽しめるという特性を生かしつつも、どこに行っても同じメニューというお客さんが飽きてしまう諸刃の剣を感じさせないように、店舗ごとのバリエーションを容認しているのだ。そうすることで、お客さんはもちろんのこと、店舗間で拙作琢磨を生み出して、競争意識を醸成させる。

 味も、モチベーションもアップというわけだ。


「あたしは、このメニューに決めました」


 すいませーんと手を上げて、彼女はシューマイ、餃子、春巻き、人気単品メニュー3品盛り合わせのトリプルセットを注文。おいおい、流石に昼から食べるにはちょっと量が多いんじゃないか。午後も、みっちり覚えることがあるんだぞ。しかも、昼からは簡単な作業もあるし、英気を養うのはいいけれど、そんなに食べて大丈夫か。


 と。


 こちらが余計な心配をすることなく、大路さんは「いただきまーす」とパキッと箸を割るやいなや、ぱくぱくもぐもぐと呆気に取られるほどの食欲を見せつける。


 彼女は……とんだ、わんぱくボーイ。

 もとい、ガール。


「うう~ん、おいぴー。朝ごはんしか食べてないから、あたしお腹減っちゃって」

「え? 朝ごはん食べたら十分じゃない?」

「そうですか? あたし、間食けっこー取る派なんで。先輩、ちゃんと食べてますか?」

「ま、まあ、コンビニおにぎりぐらいは……」

「そんだけですか?」ああ~と勝手に納得したように、「だから、午前の説明、少したどたどしかったし、覇気がなかったんですね」


 ……いや、それは覇気ではなく、君に分かりやすいように、ゆっくり丁寧に説明をしただけなのだが……。


「栄養足りてないんじゃないですか。ダメですよ、食べなきゃ」

「わ、わかった」

「先輩」ここですよ、ココと、彼女は自分の額を指差して、「脳。ザ・ブレインってやつですか? あたし、こう見えてけっこー脳、使ってますから。脳派なんで、あたし」


 なんとなく、彼女のことが理解できた。

 

 大路さんは……なんでも「派」というのが口ぐせらしい。


「どうですか? 先輩も王将、好き派ですか? あたし、色々訊いちゃう派なんで。あは派は派は派~」


 頬を赤らめて、手で押さえるその姿。

 嗚呼。

 春だな。


 思わず、そう感じてしまった派だ。



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