第12話 眠り姫①
梨花が立ち去ろうと歩き始めた時だった。
「あ……竜也さん〜」
軽そうな足取りで駆け寄って来る可憐な少女の姿があった。少女は竜也に抱き着いた。
「もしかして薫なの……?」
「そうよ……最近ね私、元気になれたのよ、竜也さんのおかげよ」
ほんの数日前まで物静かそうだった彼女は、見間違える様に明るく振る舞っていた。
「そ、そうなんだ……」
竜也は視線を梨花に向ける。梨花は無言のまま竜也を見ていた。
薫は梨花の存在に気付く。
「こちらの人は、どなたですか?」
「あ……え、と……その……」
「初めまして、漆畑梨花と言います。そちらの村石さんにお願いがあって来ましたが……断れてしまいました」
「もしかして、どなたかを救う事ですか?」
薫の言葉に梨花は少し驚いた。
「分かりますか?」
「だって……竜也さんにお願いがあるって言うのは、他に考えられないからね……」
「勘の良い方ですね、話が早くて助かります。それに比べて……」
梨花は竜也に視線を向ける。
「あ……あのさ、薫……」
竜也は薫を椅子に座らせて話を始める。
「彼女のお願いは、君と同じ位の年頃の女の子を助けたいと言っているのだよ」
その言葉に薫は目を見開いて答える。
「人助けが出来るなら……それで良いのでは?」
薫の意外な発言に竜也は少し驚く。少し前に美穂と歪みあったから…今回も何か言って来るかと思われたが…予想外の発言だった。
「もし……助けた女の子が、僕の事を気にいってしまったら……どうしようか?」
「竜也さんは、もしかして、美穂見たいな事を気にしているの?あの時は美穂に、貴方をいきなり理由も無く連れて行かれる事に腹を立てたけど……ちゃんとした理由があるなら、それをしてあげるのが良いと思うよ。もし……救われた女の子が、無理矢理貴方との関係を求める様だったら、その時は私が相手を躾けてやるけどね……」
薫はニヤリ…と笑みを浮かべる。
「でもね、私の事は気にしないで……貴方に救いを求めている人がいたら助けてあげてね」
「薫がそう言うならそうする」
「頑張ってね。女の子助けれたら、ご褒美にいっぱい貴方を可愛がってあげるからね」
「うん、分かったよ」
薫の話を聞いて竜也は梨花に向かって話をする。
「じゃあ……玲奈って言う子を助けようか」
「貴方って……女の子がいないと、物事一つまともに決められないの?」
梨花は溜め息混じりに答える。
「え……そう言う訳では無いけど……」
「大体……今の貴方達の話を聞いていると、どっちが年上の発言なのか分からない感じだったわ。もう少し、しっかりしないと女の子に面倒見て貰う様になるわよ。薫さんだっけ…貴女も、他にもっと良い男性探した方が貴女自身の為なるわよ」
「ちょっと頼り無い処が良くてね……」
薫は笑みを浮かべながら答える。
それを聞いた梨花は溜め息を吐きながら竜也に言う。
「じゃあ……妹の病室に行きましょうか……」
「分かった」
薫は自分は病室に戻ると言って……その場で別れ、2人は玲奈のいる病室へと向かう。
女性患者のいる病棟の廊下を歩いていると、竜也に気付いた女性患者や来客者達が振り返ったり小声で噂をしたりしていた。
1番奥にある病室まで行くと梨花は立ち止まり竜也に向かって言う。
「ここが妹の病室よ、妹だけしかいないから…分かる筈」
竜也は病室の前に立ち止まって梨花を見て言う。
「いろいろ試してみるけど……良いかな?」
「まあ……この際だから許すけど、妹の体に一生残る傷は辞めてね。無理だと思ったら直ぐに出て来てもらうわ」
「分かった」
そう言って竜也は病室の中へと入って行く。
薄暗い室内の中、中央に位置したベッドの中に1人の少女が眠っていた。
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