第7話 純真無垢
その日の午後、竜也は売店に行く。
雑誌の立ち読みをして、缶コーヒーを買って近くのベンチに座っていると
「こんにちは」
挨拶する声に気付き振り向くと薫が立っていた。
「あ……こんにちは」
気品のあるしなやかな仕草で薫は竜也の直ぐ隣に座り体を寄せて来た。
「元気そうだね」
「ええ……おかげさまで。私ね……ずっと貴方に会いたかったの」
「そうだったの、病室に来れば良かったのに」
「貴方の病室には何度か行ったわ……でも、何時もカーテンが引いてあるか、病室にいない事があって、中々会えなかったのよ。それに看護師達から規制の声が掛かったのよ」
「なんで?」
「最近……貴方が居る病室にいろんな女性達が出入りしていて、他からクレームがあったらしく……それで今日から入院中に許可無く女性が貴方が居る病室に無断で行ってはいけないと決めたみたいなの」
「そうなんだ……」
美穂が今日まで入院中だったら、どうなっていたか……見たいと思ってしまった。
「ちなみに他の病室は良いらしい……との噂よ」
「何故、僕が居る病室限定なの?」
「だって……」
薫は竜也の頰を撫でながら言う
「貴方は女性を虜にしてしまう魅力があるのよ、知らないの……?看護師達の間でも貴方の病室に行くのを毎日誰が行くか決め合っている程で他の病棟からも参加者がいるらしいのよ」
それに関連付いた話を竜也は美穂から聞いていたので、噂は本当だったと知る。
「そうだったんだ……」
美穂の母親が言っていた言葉が真実味を帯びて来たのを竜也は感じた。
「えっと……篠崎さん」
「薫って呼んでください。今後苗字や……さん付けで呼んだら返事しませんから!」
「分かりました。ところで薫さ……は、学年は?」
危うくさん付けしまいそうだったが、上手く誤魔化して話す。
「中学2年です。ちなみに……此間、私達の関係を邪魔した女は同じ学校で中1よ」
「そうなんだ……初めて知った」
竜也はワザと、初めて知ったフリをする。
「聞いて無かったのですか?」
「うん……」
「貴方達、一緒に居て何してたのですか?」
そう言われて竜也は美穂と一緒に居たのを思い返すと……彼女の前では言えないことが幾つか思い出される。特に……記憶が途絶えた時の事は彼女には言えなかった。
「まあ、イロイロとしてたけど……あまり彼女から自分の話しはしなかったね」
「そう……なの?」
「それにしても友達とケンカさせてしまって悪かったね」
「友達……?アイツが?」
「違うの?」
「たまたま同じ学校なだけよ、顔は……お互い知っていたわ」
「そうなんだ……美穂とは友達かと思ったよ」
「美穂……?」
薫は竜也を見て呟く。
「あの女とは名前で呼ぶ程の仲なの貴方達は?」
それを聞いて竜也は少し気まずい感じがした。
「え……まあ、チョット名前で呼んで見ただけ……」
「あんな女なんて忘れて、私だけを見て欲しいわ」
「ウン、分かった」
「約束よ」
そう言うと薫は竜也にキスをした。
「ねえ、お願いがあるのよ……こっちへ来て」
「どうしたの?」
竜也は薫に手を引っ張られながら連れらて行くと、多目的トイレへと入って行く。その中に入ると、薫がガチャッと鍵を閉める。
「あの、ちょっと、これはマズイのでは?」
「平気よ、それよりも、私……貴方と一緒になりたいの。お願い……貴方の手で私を女にして」
「いきなり、それは幾ら何でも……」
「お願いよ、してくれないと……ここから出さないわよ」
彼を便座の上に座らせた状態で薫は口付けを交わした。
その直後だった、竜也はビキッと頭痛の様な感覚が始まり……自分の意識が遠のく。
どれだけの時間が経過したのかは解らなかった、気付くと竜也は薫を便座に座らせてた。しかも互いに衣服を着てない状態だった。
「あ、薫……」
「竜也さん」
流石にこれはマズイと感んじた竜也は慌てる。
「ご……ゴメン、変な事をしてしまって……」
「平気よ、それよりも早く続きをして」
彼女は、両手を伸ばして竜也の首の後ろに両手を組むと、自分の顔に彼の顔を近付けさせる。
「貴方は何も怖がらくても良いのよ」
彼女はそう言って、彼の唇に自分の唇を重ね合わせる。
濃厚な唇の感触が伝わった瞬間、再びビキッと感覚が走り、竜也の記憶が再び途絶えた。
再び気付くと、今度は便座の上に自分が座っていた。竜也は何があったのか全く覚えていない。薫は、身だしなみを整えて洗面所の前に立っている。
「あれ……薫?」
そう言うと、少女は微笑みながら彼に近付き、彼に体を擦り寄せる。
「初めて男性に抱かれて、私とても感激だったわ。お願い……私だけを愛して。もう貴方無しでは私は生きられないから……」
「あ……えと、その……」
「美穂なんか忘れて、私だけの関係を築きましょう」
「うん……分った」
「私だけを愛してね」
薫は竜也に再び口付けをした。その時、彼は頭痛が起きなかった。
「今日は、もうお終いなのね……」
彼女は、そう呟いた。
「え、何が?」
「フフ……何でもないわ」
ふと…竜也は内心で思った。自分だけを愛して欲しい…とか言う言葉を聞くのは、これで何人目だろうか…?
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