第3話 誘惑

 美穂は般若の様な形相で竜也と薫の近くに来た。


 「貴方、何をしているのよ!」


 「え……あ、その……」


 戸惑いながら竜也は返事に迷う。


 「失礼ですが、私達の関係を邪魔しないで下さるかしら」


 薫が前に出て言う。さっきまでの初々しさとは一変、攻撃体制に変わった口ぶりに竜也は驚いた。


 「どう言うつもりよ、彼は私の恋人なのよ、泥棒猫は……その辺の男性とイチャイチャしてなさい」


 美穂は薫を睨んで言う。


 「貴女こそ何様のつもりよ、突然現れて私達の関係を引き裂こうとして、貴女の方こそ他の男性に媚びでも売れば良いのよ」


 「ちょっと2人共ケンカは辞めよう」


 竜也が間に入って言う。


 美穂が竜也の腕を掴み自分の方に寄せる。


 「彼は私の恋人なのよ」


 「へえ……じゃあ、もう貴女達は済ませたのかしら……病院内で?」


 その言葉に美穂は少し戸惑いながら


 「まだだけど……」


 「じゃあ、まだ恋人と言う関係ではないじゃない」


 薫はニヤリと笑みを浮かべる。


 「貴女には関係無い事でしょ?いずれ関係を認め会った上で私達は済ませるつもりでいるのよ……」


 美穂は、そう言いながら竜也を引っ張りながら離れて行く。


 「ちょっと、彼は置いていきなさいよ!」


 2人は広い待合室の中で2人は一緒のソファーに座り美穂は竜也の隣で体をくっつけている。


 「私ね……もう少ししたら、様子見って言う事で退院するのよ」


 「そうなんだ、良かったね」


 個人的にも美穂が退院するのは竜也自身大喜びだった。これで雫と何をしても口出しする相手が居なくなる。


 「竜也さんも、明日の診察の結果で退院出来るかもしれないわね」


 「え……何で知っているの、君が?」


 「フフ、好きな人の事は何でも分かるわよ」


 千里眼か⁉︎と……ツッコミたくなった。


 「そう言えば、梅木さんが何時もなら貴方を惑わしにくる時間よね?」


 「惑わすなんて言うなよ。ところで……何故君が彼女の名前知っているの?」


 「一緒の小学校だったからよ。私の方が1つ年上だったの」


 「そうなんだ」


 時計をチラッと見て、雫が今日は遅いと竜也は思った。


 「珍しく遅いね、今日は」


 「多分……もう来ないかもしれないわね」


 「え……?」


 それを聞いて竜也はハッと気付く。


 「美穂、お前……彼女に何かしたのか⁉︎」


 「失礼ね、あの子が変に貴方に媚びるから、あの子の両親に注意してもらう様に言っただけよ。不用意に貴方に近付かないで欲しい……てね」


 それを聞いた竜也は、いろんな意味で美穂が恐ろしいと思った。


 「余計な者が居なくなれば、私達の関係が育まれるわね」


 2人がくっつき合っている中、1人の若い看護師が現れて


 「お取込み中すみません、川谷美穂さん。そろそろ診察の時間が来ますので、準備をしてください」


 「はあい」


 そう言って美穂は竜也に向かって「また後で」と、手を振って出て行く。


 美穂が居なくなった竜也は、1人になって少し落ち着けるかと思ったら……

看護師が彼の隣に座って来た。


 「初めまして村石竜也さん、私ナースの川島直美と言います」


 「あ……どうも初めまして」


 「貴方の事を少し調べさせて欲しいのですが……宜しいですか?」


 「はい?」


 直美は竜也の手を引っ張って病室へと連れて行くと、カーテンを引き2人だけの空間を作ると…竜也をベッドの上に寝かせる。


「あの…調べたい事とは?」


 竜也が起き上がろうとすると直美が彼の側まで近付き頰に手を当ててジッと竜也を見つめる。


「貴方に夢中になっているのは……お子様ばかりだけじゃ無いのよ」


 際どい発言に竜也は身震いした。


 品格有りそうな女性ばかりだと思っていた看護師の世界だが……目の前にいる女性は性欲に飢えた様な目付きで竜也を見ている。


 「す…すみません、チョット行きたいところがあるので……」


 「ダメよ、私が許すまで貴方はここからは出られません」


 「はい……?」


 その言葉に竜也は驚く。まさか…白衣の天使がここまで豹変するとは予想も付かなかった。


 「怖がらなくても大丈夫、私が優しく貴方を調教してあげるから…フフ…」


 直美は優しく手で竜也の頰を撫でる。

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