第4話 無邪気

 調教と言う言葉に竜也は少し驚いた。アダルト動画では調教とは男性が女性を躾(しつ)けさせる為に行うのであるが…今の状況は女が男を躾けるのである…。


 「ねえ……私、もう貴方以外の男性は愛せないわ……」


 「嬉しいけど、僕には会いたい人がいるんだ……」


 「毎日、お見舞いに来ている子?」


 それを聞いて竜也はドキッとした。


 「子供相手に手を出したら、貴方…捕まるの知っているでしょ?」


 「知っているよ」


 「それでも会うつもりなの?」


 竜也は黙って頷く。


 「そんなガキんちょよりも私が貴方を癒してあげるわよ。優しくいっぱいにね……ウフフ……こう見えてもねぇ、私と一緒になりたがっている男性はたくさん居るのよ。そんな大勢の男性を差し置いて、私が貴方を選んであげるんだから、もっと喜びなさいよ」

  

 直美は大きくて柔らかな胸を竜也の顔へと押し当てる。


 呼吸が困難になりそうな感じだった。


 「ウフフ……いっぱいイチャイチャしましょう。もう他のメスガキなんか忘れて、私だけの事を考えなさい。そうしたら、もっと良いことさせてあげるわよ」


 直美は完全に彼の虜となっている表情で竜也を見つめる。正直……達也は今、この場から逃げ出したかった。なんとかして、このナースから抜け出す術を見つけ無ければ、人間が終わってしまいそうな、そんな予感さえ感じ初めていた。


 その時だった。直美が携帯している通信機が鳴り出した。


 「もう……良い所だったのに、お呼び出しなんて!」


 彼女は悔しそうに言う。そして竜也に軽く口付けをする。


 「私は絶対に諦めないわよ。貴方に近付く女達を全て追い払ってでも貴方の関係を求めるつもりだから…それは覚えておいてね」


 看護師の格好に身を包んだ直美はカーテンを開けて、軽く手を振って病室を後にした。


 (助かった……)


 内心安堵した竜也は川島直美と言う美人看護師が恐ろしく感じた。それ以上に早く退院しないと、自分の理性が何時失われてしまうか、それが恐ろしく思えた。


 〜翌日……


 その日は診察があり、脳外科の待合室へと向かう。一階にある診察室へと向かう途中……再び頭痛のような感覚がした。その直後だった前方を歩いていた小柄な少女から何か落ちるのが見えた。


 竜也は近くへと行き落ちたのを見ると小さな人形だった。竜也は人形を拾い少女の側まで走り


 「これ……君のだろう?」


 と、竜也が声を掛け人形を渡す。


 「ありがとうございます。大事にしていた人形だったの……」


 と嬉しそうに礼を述べて、ジッと竜也を見続ける。


 竜也が診察室に向かおうとすると、少女が彼の袖を掴んで彼が離れて行くのを阻止した。


 「どちらへ向かわれるのですか。まさか私を置いて行くつもり……なんて考えたりしませんよね?」


 「え……診察室に行くのだけど?」


 竜也は少女の振る舞いに少し驚いた。


 「そうですか、では……私も付き添います」


 「え……一緒に来るの?」


 「はい、私は何処までも貴方に付いて行きます。それとも……私が一緒だと迷惑ですか?」


 「そんな事は無いけど……」


 「では、一緒に行きましょうね」


 「は、はい」


 少女に引っ張っられて竜也は脳外科の診察室の近くまで行く。竜也少し呆気に取られて少女と一緒に診察の順番が来るのを待つ。


 待っている間に少女は竜也の腕に抱き体を擦り寄せていた。


 「私……貴方を思うと、胸がドキドキするの……ねえ、何とかして」


 「心療内科で検査して貰えば?」


 少女は首を横に振って


 「それだけじゃダメよ。貴方に抱きしめて貰わないと治らないわ。」


 そう言って少女は竜也の腕を掴む。


 「ねえ……早くして」


 ウットリとした表情で少女は言う。


 「え……まさか、この場で?」

 

 そう聞くと少女はコクリと頷く。


 「ちょっと、たくさん人がいる中でマズイよ」


 「私は平気……貴方のどんな行為、何処でされても構わないわ。だからお願い……私を抱き締めて」


 少女は早く始めて欲しそうに身をクネらせて来る。竜也は少し迷っている中……2人の間に看護師が入って来た。


 「失礼ですが……貴女、小児科は向こうですが」


 「うるさいわね、年増の叔母さんは私達の関係を邪魔しないでくれるかしら?」


 それを聞いた看護師が舌打をして、何処かへと姿を消した。


 看護師の姿が見えなくなると再び少女は竜也に向かって話す。


 「ねえ、じゃあ……キスして」


 次から次へと発せられる少女の甘い誘惑に竜也は押され気味で、理性があるうちに行動した方が身の為だと感じ


 「え……と、じゃあ……する?」


 戸惑いながら竜也は言う。その言葉に少女は頷き


 「ええ…しましょうね」


 お互いの了承が決まると少女は竜也の腕を引っ張り、顔を寄せ付ける。


 その時だった、竜也が顔を上に向けると……目の前に数名の看護師達の姿があった。


 「失礼ですが……宮本琴美ちゃん、貴女の診察時間が来ているので小児科に行きましょうか」


 「ちょっと彼と、大事な用があるので……それが終わったら行くわ」


 「ダメです、今直ぐに行くのよ」


 そう言って看護師達は琴美と言う少女の腕を引っ張って連れて行く。


 少女が居なくなった事で、少し安心した竜也は看護師の1人が側に立っている事に気付く。


 「貴方も大人なんだから、しっかり注意しなさい、子供の誘惑に乗せられちゃダメでしょ!」


 (一応……注意したのだけど……)


 そんな事を言うと言い訳になるので言わなかった。


 「村石竜也さん」


 診察の呼び出しが聞こえて竜也は中の待合室へと行く。

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