【KAC20222】模倣犯のすすめ ~模範的模倣犯の『推し』活動記録~

滝杉こげお

愉快犯《シニカルキラー》

 模倣犯フォロワーの朝は早い。

 新聞受けから取り出したのは大手三社の新聞に加え、この辺りの地方紙だ。

 見出しを流し読みし、今度はニュース番組をチェック。

 ああ。やはりその名前が載っている。

 殺人鬼『愉快犯シニカルキラー』。

 私の推しだ。


 彼の初犯と言われているのは『〇〇区女性刺殺事件』。

 事件現場は人通りの多い昼間の交差点のど真ん中。

 被害者はその付近で勤める20代OLの女性。

 犯人は衆人環視の密室の中、被害者の胸に包丁を突き立てた。


 女性が悲鳴をあげたことで周囲に居た人々は異変に気付いた。

 通報によりすぐに現場へ救急車が駆け付けるが女性は死亡。

 周りには何十人と人が居たにもかかわらず犯人らしき人物を見た者はいなかった。


 そして、後の警察の調べで被害者のポケットからは刃物を手にした笑顔の死神が書かれたカードが見つかる。



 ああ。なんてスマートで尊い犯行手口だろうか。

 彼は以降も犯行を重ね、必ず現場には同じ絵柄のカードが残された。

 警察はそれらを連続殺人と認定。

 犯人をカードの絵柄から『愉快犯シニカルキラー』と命名した。



 ああ。愉快犯様。

 私は彼に思いをはせながら衣装に着替える。

 普段は履かないフリルの付いたロングスカートに、清潔感のある白のトップス。

 そして懐には確実に心臓に突き立てられるように幅が狭く、刃先の長い刃物を忍ばせる。

 推しをイメージし柄の部分にまでこだわって組み立てた自作グッズだ!


 そして忘れてはいけない。

 私は今日の新聞と共に入っていた一枚のカードを手に取る。







 笑顔の死神と血に染まった刃物が描かれた、私の大切なカード。

 そう、私はとうとう選ばれたのだ。


 推しの布教は模倣犯フォロワーの務めだ。

 直接会えなくたってできることはあるのだ。

 私は勤め先に向かうのに毎日通る交差点へとやってくる。

 ここに防犯カメラの類が無いのは調査済みだが、今はドライブレコーダー全盛の時代だ。

 どこから見られても構わないように細心の注意を払わなければならない。


――ドスッ


 心臓が高鳴る音。

 物陰で用事を済ませた私はふらつく足取りで道路の真ん中へと歩いていく。




「いやあああああああああああああ!」


「きゅ、救急車を!」


 ああ。推しに染まっていく私は最高の幸せ者だ。

 流れ出していく血に満足しながら、私はポケットに入れたカードをそっと撫でた。

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